表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

序章 進化の遺灰

2062年、人類史上最も苛烈な戦争——第三次世界大戦が勃発した。その火種となったのは、かつてノクティスが極秘裏に推し進めていた「遺伝子改造技術」である。この技術により、兵士として生み出された改造人間たち——一部の者たちは彼等を「ネオ・ヒューマン(Neo-Human)」と呼んだ。彼らは、驚異的な身体能力と知性を備え、人類の進化の象徴とされた。しかし、その存在は同時に人類社会の分断と戦争の引き金となってしまった。


第三次世界大戦は6年にわたり続き、国際連合の軍事同盟によってようやく終結。しかし、戦争が残した傷跡は深く、世界の四割の国々が崩壊し、経済もまた荒廃した。戦後、遺伝子改造技術は国際法で厳禁とされ、改造人間たちは存在そのものが否定される社会に追いやられた。


戦後25年。人類は第三次世界大戦の爪痕を癒しながら、新たな課題に直面していた。人口増加と経済復興により、科学技術は飛躍的に発展し、人類は地球を越え、他惑星への進出を果たした。しかし、進化の象徴であるはずの「ネオ・ヒューマン」は、いまだに社会の中で迫害されている。


一方、表向きは平和を標榜する世界において、各国の政治的緊張が高まっていた。戦後復興を目的として設立された国際復興機構(IRO)は、復興技術を軍備拡張に利用しようとする勢力を内部に抱えていた。また、宗教的・保守的なヴェルデ共和国は「遺伝子改造技術禁止」を掲げながらも、その技術の秘密を暴き、自国の利益に繋げようと暗躍していた。


旧ノクティス領から分割独立した復興都市「フリーデン」。この都市は、戦後の高度経済成長を象徴するかのように、活気と繁栄に満ちていた。だが、その平和な表面の裏では、国際的な陰謀が渦巻いている。

朝陽が差し込む復興都市フリーデンの街並みは、かつての戦火を思わせないほど美しく整然としていた。高層ビルはガラスの壁面が太陽光を反射し、空には無数のホバーカーが静かに行き交う。街路樹の並ぶ歩道には、自動ゴミ収集ロボットが忙しなく動き回り、路面電車は無音で滑るように走る。その中でも最も目を引くのは、都市の中心部にそびえ立つ円形のドーム校舎——フリーデン国際高等学校だった。


リオン・アーケインは教室の窓際の席に座り、ぼんやりと外を眺めていた。茶色い髪はどこか無造作に整えられ、その落ち着いた表情には優しさとわずかな憂いが漂っている。教室には最新型の空気清浄機が静かに作動しており、各机にはタブレット型の端末が固定されている。


「リオン・アーケイン!何をボーっとしている」


突然、低い声で名前を呼ばれ、リオンは驚いて顔を上げた。歴史教師のグレイムズが険しい顔でこちらを見ている。


「い、いえ……」

「なら、この問題は分かるのであろうな」


グレイムズは液晶ボードに映し出された一人の男の写真を指し示した。それは冷たい目をした研究者の肖像だった。


「はい、ハンス・カムラー。遺伝子改造技術を生み出した科学者です」

「その通りだ。彼が生み出した技術は、第三次世界大戦の中で最も忌むべき遺産となった。そしてその影響は、今もなおこの世界に暗い影を落としている」


教師の言葉を聞きながら、リオンは改めて窓の外を見る。目の前に広がる平和な景色が、この世界が抱える闇と繋がっていることが、どうしても実感できなかった。


授業終了を告げるチャイムが鳴り響き、生徒たちは端末をシャットダウンし始めた。昼休みになり、教室内は一気に活気づく。机に弁当を広げて談笑する生徒たち、校庭ではスポーツを楽しむ姿が見られる。


「さっき、何ボーっと考えてたの?」


リオンの背後から明るい声が聞こえた。振り返ると、後ろの席のカミラ・フレッドが微笑んでいる。長い金髪を揺らし、碧眼がきらきらと輝いていた。


「いや、なんかさ、第三次世界大戦って聞いても、この平和な街を見てるとピンと来なくてさ」

「確かにね」


カミラは頷き、リオンの言葉に共感するように窓の外を見た。


「でも、午後の体育はサボれないや」


リオンが冗談交じりに言うと、カミラはクスっと笑った。


一方その頃、フリーデンから遠く離れた海域では、緊張が高まっていた。アジアン・コモンウェルスの潜水艦が海底を進行しており、それをヴェルデ共和国の海上戦艦がソナーで捉えていた。


ヴェルデ共和国軍の上官ユリウス・ヴァレンティンが空母の艦橋に立つ。金髪碧眼、屈強な体躯を持つ彼の横には、黒髪をオールバックにした部下のカイルが控えていた。


「まさか、連合の奴らも!?」

「間違いないだろうな。強硬手段に出なければいいが……」


ユリウスの予感とは裏腹に、連合国家の潜水艦はミサイルを発射される。ソナー担当の軍人が叫ぶ。


「ミサイル確認!」


艦長がユリウスを伺うように視線を向ける。


「私に気を使わなくていい、これは君の戦艦だ」


ユリウスの言葉に、艦長は一礼し、声を張り上げた。


「向かい撃て!」


爆撃音が海上を揺るがし、その音はフリーデンにまで届く。体育の授業でサッカーをしていたリオンもその衝撃に足を止める。


「今のは!?」


空気が一瞬で張り詰め、それは日常が非日常へと変わる瞬間だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ