7.緊急依頼②
夕方になり、ダンジョンに入っていた冒険者たちが戻ってきた。
今日の戦果やダンジョン内部の様子を話しながら広場集まっている。
多少のけが人は出たものの、大怪我をしたものはいないようだ。
お決まりのようにサンビが音頭をとっている。
「今日の討伐はここまで。みんなお疲れ様。明日の朝に再開をしようと思っている。しっかりと休んで、明日に備えてほしい。夜の見張りは、EランクとDランクでまわしてくれ。解散!」
解散後は広場では食事の用意がされ、それぞれの場所で食事をとっていた。
おれはまだ自分以外の魔法使いと会ったことがない。
魔法についても本で読んだだけ。
魔法使いと話せるせっかくの機会なのでBランクのリートに話を聞きに行った。
「初めまして、横いいですか?」
「あぁ、構わないよ。君はたしか討伐前にサンビと揉めていた……」
おれは苦笑いを浮かべ答える。
「アルスといいます。すみません。あれは誤解があって……。Dランクに上がったばかりで、Eランクと勘違いされちゃって……」
「そうだったのか。サンビに言っとくよ。戦力になる人は一人でも多くいた方がいい。明日からは討伐にまわっていいよ」
「ありがとうございます。リートさんは普段1人で活動してるんですか?」
「昔はパーティに入ってたんだけど、今は1人で活動することが多いかな。ダンジョンに潜るのも久しぶりだよ。普段は魔法を教える仕事をしていてね。今回もその仕事でバレル子爵に呼ばれて街に来たら、巻き込まれちゃったよ……」
(面倒見のよさそうなリートのことだから断れなかったんだろう)
「実はおれも魔法を使えるんですが、少し見てもらってもいいですか?」
「短時間だけなら構わないよ。今日は疲れてるから早めに休みたいんだ。ーーじゃあ早速向こうで魔法を見せてもらおうか」
おれたちは広場から少し奥に入ったところまで移動した。
「いきます」
おれは前方の木めがけて、水球を放った。
音を立てて倒れる木と、驚いた表情のリート。
「えっーー。いま、杖使わなかったよな。それでこの威力。速さ、精度も……」
「あのー。どうでしたか……?」
おれは不安になり尋ねる。
「アルスだったか? お前誰から魔法を教わった?」
「本を読みながら、試行錯誤して……」
「普通魔法は杖を使って、威力や精度を安定化させるもんだ。杖なしで魔法を発動することもできなくはないが、俺でも杖なしじゃその威力は出せない。もしかして魔力量も多いのか?」
「まだ魔法を覚えたてで、あんまりよくわかってないです。杖はまだ買えてないだけで、この依頼が終わったら買うつもりでした」
「まだ覚えたてか。いい才能に恵まれたな。俺が教えてやれることはあまりなさそうだが……これは知ってるか?」
リートの身体の周りに魔力が留まり始めた。
「軽く攻撃してくれ」
言われたとおりに水弾を軽く放ったが、リートは何ともない様子だ。
「魔法は攻撃するだけじゃなく、防御にも応用できる。水魔法を身体に纏わせて、防御力を格段に上げられる。水防膜だ。練習しとくといい」
「ありがとうございます」
早速やってみるが、身体の周りに魔力を留めることが難しい。
意識してない部分から魔力が漏れ出ていってしまう。
「ちょっと、魔力を放出する意識が強いかな。イメージは水の膜で身体全体を覆う感覚で……」
アドバイス通りに、何度も挑戦し、そのまま2時間練習に没頭してしまった。
その間リートは文句一つ言わず、練習に付き合ってくれた。
「こんな感じですか?」
俺は若干薄めながらも、水防膜を再現した。
「簡単に習得してくれるなよ……。普通習得に何カ月かかると思ってるんだよ。なら、あと一つとっておきを見せてあげよう。よーく見ておけよ。」
リートはそう言うと、少し離れたところにある岩に向かって水弾を放った。
魔法は通常の水弾の2倍以上の速さで飛んでいき、着弾すると岩を貫いていた。
「あれは……?」
俺が驚いているとリートは少し誇らしげに説明してくれた。
「ハイブリットだよ。実は俺、水と風のデュオなんだ。水弾に風魔法を纏わせて、弾速と威力を底上げしたんだ。アルスも魔導書なんかで魔法を2種類使えるようになったら使えるようになるさ。これなら簡単に真似できないだろ」
リートは続ける。
「だいぶ夜も遅くなってきたようだし、今日はもう休もう。明日に疲れを残しちゃまずいしね」
そう言い残し、足早にテントに帰っていった。
まだ魔力に余裕のあった俺は、そのまま夜の見張りにつき、練習を続け、寝たのは明け方であった。
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ハイブリット…魔法属性を複数混ぜること。
魔導書…魔法スキルを後天的に習得できる唯一の方法。ただし、市場にはめったに出回らず、かなり高価。ダンジョンのボスドロップ、宝箱から入手可能。
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