54.家庭教師最終日
試験の結果は翌日には張り出されていた。
ベルはもちろんSクラス。
ベルは当たり前ですと言っていたが、おれはほっとしていた。
教えたこともない魔法を手探りで教えて、間違えてたらどうしようという不安も内心あった。
その不安を払しょくする結果を出してくれたベルには感謝しかない。
◆◆◆◆
時間はあっとういう間に過ぎていき、入学式前日を迎えた。
この日は、家庭教師最終日。
ベルにもこの日だけは空けておくように事前に伝えていた。
おれは王都の外までベルを連れていき最後の授業を始めた。
「先生、今日は何をするんですか」
「今日はおれとの模擬戦だ。2年間の成果を見せてほしい」
以前にも対人戦のトレーニングをしたことがあるが、あくまで手を抜いたもの。
今回ベルには本気で戦ってもらうつもりだ。
「……分かりました。全力で行きます」
おれの気持ちに応えるように真剣な表情に変わる。
お互いに距離をとり集中力を高めていく。
ベルは杖を構えてこちらを向く。
準備ができたようだ。
「いつでもいいぞ。かかってこい」
「いきます。――多水弾」
5発の水弾が上半身目掛けて飛んでくるが氷盾で防ぐ。
氷盾でおれの視野が狭くなったと判断したベルは、さらに視野を奪いに来る。
「霧風」
水と風の魔力を混ぜ合わせ瞬時に濃霧を発生させる。
上手く風魔法で濃霧が停滞するように気流を作り、おれの周囲は真っ白になってしまう。
(さあ、次はどうする)
おれは周囲に意識を集中し、ベルの次の1手を待つ。
(きたっ)
濃霧を切り裂き無数の風刃がおれに向かってくる。
視野の悪いこの状況で回避するのは難しいと判断し、魔法で防ぐ。
「氷箱」
周囲に氷の壁を生成し、風刃を防ぎきる。
(やるな。組み立て方が上手い)
現在おれの周りは氷、その外側には濃霧が広がっている。
こうなると外の様子が全くわからない。
完全にベルのペースに飲まれている状況だ。
おれはやむを得ず、雷迅速、水防膜を発動し、ベルの攻撃を回避する準備を整える。
(魔力の高まり的に大技が来るっ)
パリーン
正面の氷を簡単に貫き、ベルの放った魔法がおれに襲い掛かる。
(ここで来たか、水風砲)
ベルが苦労して完成させたハイブリット魔法だ。
雷迅速の爆発的な加速でギリギリかわし、霧の外まで脱出する。
おれが回避したことを確認したベルは悔しそうに唇をかんでいる。
「もう終わりか? 今度はこっちからいくよ。――火波浪」
「えっ、火魔法? どうして……。水風膜」
ベルはおれが火魔法を使ったことに驚愕しながらも、しっかり魔法で相殺してくる。
(それならこれはどうだ)
「火竜巻」
巨大な火の竜巻を生み出しベルの方に誘導する。
ベルの注意は竜巻の方に集中する。
何とか押し返そうと水球や水風膜をぶつけるが、その程度で相殺される魔法ではない。
(竜巻に注意を持っていかれて、おれから目線を外したな)
「雷迅速」
一瞬で間合いを詰め、首元に氷槍を突き付ける。
ベルは一瞬の出来事に身体が強張り動けなかった。
「降参です……」
おれは火竜巻と氷槍を解除しする。
「ベル、強くなったな。最初の攻撃は良く組み立てられていたぞ。視覚を奪ってから、見えにくい風刃での攻撃に、タメが必要な水風砲のタイミングもばっちりだったぞ」
おれはベルの頭を撫でながら褒める。
「そんなことより、どういうことですか? 先生、火魔法なんて……、あとあの動きはなんなんですか?」
ベルは自分の想像外のことが2つも同時に起こったため、それどころではない。
「まぁ落ち着いてくれ。ちゃんと説明するから……」
おれはベルに事情を説明する。
「ということは、先生は5種類の魔法属性を使えるんですか……。全然気づかなかったです」
「隠していたからな。でもベルさっきも言ったが、強くなったな。魔法の使い方もタイミングも完璧だった。正直ここまでやれるとは思ってなかったよ」
今度は、ちゃんと聞こえたみたいでベルも笑顔を見せてくれた。
「水風砲を撃つところまでは良かったんですけど、あれが避けられるなんて……あの動きも魔法ですか?」
「そうだよ。身体に雷を纏って高速で移動する魔法。驚いただろ」
おれは続ける。
「ベルの攻撃面は一流だ。ただ、防御面と近接面が少し物足りない。水と風という魔法の特性上、仕方のない部分もあるけど、学校に入学した後も研鑽に励んでほしい」
真剣な表情で話を聞いてくれた、ベルは涙ぐんでいる。
「先生、2年間ありがとうございました。私の魔力の少ない体質が改善できたのも、魔法がここまで使えるようになったのも全部先生がいてくれたから……。本当にありがとうございました……」
ベルからの感謝の気持ちを聞いておれの目からも涙がこぼれてしまう。
(涙こらえきれなかったな……卒業式みたいだな……)
「これ、ベルの杖。餞別だよ」
スミス製の杖を手渡す。
「いいんですか! この杖何だかすごそうですね。」
持ち手を握っただけで、杖の凄さに気付いたようだ。
「分かるか。この杖は魔法の威力を数段上げる力を持っている。だから普段は絶対に使わないこと。ベルの秘策の一つとして持っておいてほしい」
「分かりました。先生、この後試し打ちをしてみたいんですがいいですか?」
ベルの抑えられない好奇心が表情に出ている。
「なら、ダンジョンに行くか」
おれたちは杖の試し打ちのためダンジョンへと向かった。




