52.旅立ちの日
王都への出発日の朝になった。
朝リビングに下りると、メープルがソファで横になっていた。
「ごほっごほっアルスさん、すみません。体調を崩してしまったみたいで……。今回はついていけそうにないです」
メープルが咳をしながら報告してくる。
おれはメープルの額に手を当て熱を確認する。
「熱はなさそうだな。……分かったこっちのことは大丈夫。ベルにも伝えておくよ。メープルは一人で大丈夫か?」
「すみません。夜になったらレクチェが帰ってくるので大丈夫だと思います」
「そうか。面倒を見てあげたいが、今回はすまない。行ってくるよ」
おれはメープルをベットで寝かせ、メープル用に簡単な食事を用意した後、バレル邸に向かった。
バレル家ではベルの見送りがあっていた。
「しっかり頑張るんだぞ。学校は大丈夫だと思うが、そっちの方も後悔が無いようにするんだ」
「ベルなら大丈夫。私の娘ですもの。恋も学校も両方ともうまくいくわ」
ベルはオリヴィエさんと抱き合い、別れを惜しんでいた。
家族との別れが済んだ後、おれたちは出発することにした。
ベルは意外にもさっぱりしており、家族との別れで涙は見せなかった。
決意をした目をしており、3年間の学校生活に対しての覚悟が垣間見えた。
「メープルは体調不良で来れなくなったから、おれたち2人での移動だ。ベルはそれでも大丈夫か?」
おれは一応ベルに確認する。
「そうですか……メープルさん。いえ、先生が一緒なら大丈夫です」
少し緊張した面持ちでそう言った。
◆◆◆◆
おれたちの旅は順調に進んだ。
トラブルを強いて挙げるなら、宿が1部屋しか予約されていないということだ。
毎晩ベルと一緒に部屋で寝ており、夜中寝ぼけたベルがおれのベットに入ってくるのは正直困る。
もちろん手は出してないし、こちらから身体に触れないように気を付けている。
ただ、ベルは寝ぼけておれに抱き着いてくるし、薄着なので身体の温もりや柔らかさを感じてしまう。
当たり前だがおれは自分の生徒には絶対に手を出さないと心に決めている。
転生する前の経験から、そこだけは絶対に譲れない部分であった。
信頼してくれているメープルやレクチェを裏切ってしまうことなるのは間違いない。
ましてやベルは貴族の子だ。
傷者にしてしまえば、責任を取ることができないし、ベルの将来にも大きく影響を与えてしまう。
ベルぐらいかわいくて、魔法の技能があれば伯爵家や侯爵家に嫁いでも不思議ではない。
実際に話がきていると噂にもなっていた。
おれの今後の仕事にも関わってくるだろう。
この世界で魔法教師をやっていきたいと考えているのに教え子に手を出すなんて噂が流れたらどうなるかは自明だ。
王都に到着してからも予約されていた宿は一部屋だった。
おれが自費で別部屋をとろうとすると、ベルは怒るし、少しレクチェやメープルに後ろめたい気持ちになりながらも一緒の部屋で生活を送っていた。
◆◆◆◆
入学式1週間前、この日はクラス分けの魔法試験があった。
当然ベルも学校へ行かなくてはならない。
朝ベルを学校まで送り、その足でスミスの家に向かった。
短剣、杖を受け取るためだ。
「待っておったぞ。今回レクチェは来てないのか?」
「今回は仕事の都合で、レクチェ来てない。
「まぁよい。頼まれていた武器は完成したぞ。今までの作った武器の中でも最高傑作といっても過言の無い出来じゃ」
スミスは出来上がった短剣と杖を持ってきて説明を始めた。
「まずは短剣から説明するぞ。魔白金で作った剣身に魔力をさらに通りやすくする魔力回路を組み込んでいる。こっちがお主のじゃ。試しに魔力を流してみるのじゃ」
おれは言われて通りに短剣を手に取り魔力を流してみる。
(これはすごい。流した魔力が全くロスすることなく……いや、それ以上の魔力が剣身に流れている)
おれが驚いていると、スミスがニヤリと笑った。
「ガードの部分を見るのじゃ。そこにお主たちの持ってきた宝珠を埋め込んでいる。その宝珠に魔力を充填しておけば、持っている魔力以上の攻撃、魔法ができるぞい。普通はこんなことしたら、折れてしまうんじゃが、流石は魔白金じゃな」
「ありがとう、想像以上の出来だよ」
「預かった素材が良かったからのう。久々に心の踊る仕事ができたのじゃ。次の杖はもっと自信作じゃ」
そう言って杖の説明を始めた。
「杖の持ち手は魔白金で作っておる。嬢ちゃん用のは細めにして重さを抑えたから問題ないはずじゃ。5つの小さい宝珠と、大きい宝珠で魔力を増幅させるように作ってみたぞ。さっきの短剣よりももっと魔力が増幅されるはずじゃ。あっちで魔法を撃ってみるのじゃ」
庭に出たおれは試しに水弾を撃ってその威力に驚かされた。
「なっ。なんだこのバカげた威力は……」
加えた魔力はただの水弾だったが、放たれた魔法は水球並みの威力だったはず。
(魔法ランク一つ上げる杖か……完全にチート武器だな)
作ったスミス本人も笑いながら驚いていた。
「予想以上じゃったわ。まあ良いじゃろ。大事に使ってくれよ」
おれはスミスから完成した武器と、余った魔白金を受け取り、ベルを迎えに学校へ向かった。




