50.重婚への道
「う~ん」
昨晩は幻覚や幻聴を聞くことなく、久しぶりにぐっすり眠れた。
手足を伸ばして、身体を起こす。
昨晩の運動のせいか、少し疲労感も感じるがそれですら心地が良い。
すべてはレクチェのおかげだ。
時計を見ると、もう昼に近い時間だ。
シーツにはシミや血液が付着しており、昨晩のことを思い出させる。
横には昨日激しく求めあったレクチェがいる。
普段は美人系のレクチェも寝顔はかわいい。
まだ、目が覚めていないようでスー、スーと寝息が聞こえる。
おもわずふわふわな毛でおおわれている長い耳を優しく撫でてしまう。
(一線を越えてしまったな……。責任を取るのは確定としてメープルにどう伝えるようか)
昨晩の声や物音、今朝おれとレクチェが起きてこないことでおそらくメープルにはばれている。
(メープルはどう思っているのだろうか)
リビングに下りてメープルの顔を見るのが怖くなってきた。
そのままベットの上で考え込んでしまう。
「おはよ」
レクチェが起きたようだ。
座っているおれを後ろから抱きしめ、ベットに倒れこむ。
耳元で優しく囁いてくる。
「えへへ。あたしの初めては気持ちよかった?」
そのいつもとは違う可愛さにくらっとくる。
「気持ちよかったよ。ありがとなレクチェ。おかげで気持ちに整理がついて久しぶりに眠れたよ」
「よかった。あちゃー、あたしたち結構汚れちゃってるね。一緒にお風呂入ろっ」
レクチェに連れられ移動する。
幸い、メープルとは顔を合わせずに風呂場に行けた。
(今までは一緒に風呂に入ることは避けていたが、もう今更だな)
身体を洗い流した後、お湯に浸かる。
風呂は広いため、二人で入っても余裕がある。
お湯につかり自分の気持ちを確認したあと、覚悟を決めてレクチェに話しかける。
「レクチェ、おれはちゃんと責任を取りたいと思ってる。もちろん罪悪感とかじゃなく、自分の正直な気持ちだ。おれと結婚してほしい」
レクチェは笑顔でおれの話を聞いてくれる。
「あたしの返事はもちろんOKだよ。嬉しい。でも、アルス君さっきの様子だと何か悩んでるんでしょ?」
レクチェは鋭い指摘をする。
おれは言うか迷っていたことを伝えることにした。
「一緒に旅や生活をしてレクチェやメープルの好意にはちゃんと気付いている。だから、今回のことをメープルにどう伝えたらいいか……」
「どうって……。そのままメープルに伝えたらだめなの?」
どうも話がかみ合わない。
「レクチェを選ぶということは、メープルを選ばないことになる。メープルもおれに対して好意を持ってくれるのはおれでもわかってる……」
「アルス君はメープルのことあんまり好きじゃないの?」
「好きだよ。あんなにかわいくて、料理も上手で、優しい子嫌いになれるわけないだろ」
思わずむきになって答えてしまう。
「メープルのことになると熱が入るね。少し妬いちゃうなー。なら、あたしもメープルもアルス君のお嫁さんにしてもらうってことじゃダメなの?」
おれはレクチェが言っている意味を理解できなかった。
(二人ともお嫁さんにする?)
「どういうことだ? 結婚相手は一人だけだろ?」
レクチェは何かにはっと気づいたようだ。
「アルス君Aランク冒険者の特権って知ってる?」
以前メープルに軽く聞いたことがある。
(たしかAランク冒険者で男爵扱いって言ってたよな。ただ、あんまりメリットはなかったような……)
「前にメープルに聞いたけど、貴族の特権を使えるぐらいだったよな。貴族街に住めるとかそんなもんじゃなかったか?」
「そうそう、それだよ。アルス君がAランク冒険者になれば、男爵の特権で3人まで妻を迎えれるってこと。だから、アルス君早くAランクになってね」
「そんな方法があったのか……。でもレクチェはそれでいいのか?」
「あんまりお嫁さんを増やしてほしくはないけど、メープルなら別。大賛成だよ」
レクチェは笑顔でそう答えてくれた。
おれの心配事は杞憂に終わり、一安心した。
風呂から上がると、メープルが朝食兼昼食を用意して待っていてくれた。
おれの表情が変わったのを見て安心したようだ。
「アルスさん、昨日は寝れたみたいですね。よかったです」
「その……。お騒がせしてすまん」
昨晩の騒ぎを聞かれているだろうという恥ずかしさから目を合わせられない。
そんなおれを見て、メープルが顔を近づけてくる。
「レクチェとばっかり仲良くされると、わたし悲しくなっちゃいます。これからはもっと積極的にいきますから、わたしとも仲良くしてくださいね」
メープルもとびきりの笑顔でおれにそう宣言してくる。
おれはその笑顔を見て、Aランク冒険者になる決意を固めた。




