5.調査
「つーいた」
レクチェの余裕とは裏腹におれはついていくので精一杯だった。
夜の山道をあのスピードで走れるのはスキルの差だけではないだろ……。
「アルス君さすがだね。ちょっといじわるしてスピード上げたのについてこれるなんて……そんなEランク冒険者はなかなかいないよ」
「かなりギリギリだったぞ。低ランク冒険者をいじめてくれんなよ」
「もうしないって。ここから調査に入るから、真面目にいくよ。まずはダンジョン付近からやってこうか。アルス君はダンジョンの外側を、あたしは少し中に入ってみる」
さっきとは打って変わって真剣な表情になったレクチェ。
「分かった。気を付けて」
ダンジョン周辺の見回りをするが、モンスターのいる気配はない。
一応少し離れた場所も確認して、元の場所に戻った。
「こっちは異常なし」
「ダンジョンの中も異変はなかったよ。なら、次に行こっか。アルス君がボアを見つけた場所、案内できる?」
「多分、大丈夫だ。街道沿いから登ったところだから、もっと東側だな」
ダンジョンから20分ぐらい歩いたところでボアを発見した。
「どうする? 魔法で倒していいのか?」
「アルス君魔法使えるんだ。さすがだね。でも、このボアはどこから……。できるだけ派手な魔法で倒してもらってもいい? 派手に大きな音とか立てちゃってよ」
「了解。氷球」
氷はボアを貫き、後ろの木に当たり砕ける。
夜の静かな山に大きな音が響く。
「これでよかったか?」
レクチェはコクリと頷き、周囲の音、様子を観察している。
すると音を聞きつけたのか、奥の茂みからボアがもう1頭現れた。
「あっちの方角からきたね。出てきたモンスターはどんどん倒しちゃってよ」
おれはさっきと同様に魔法でボアを倒した。
その間にレクチェはボアが来た茂みの奥へと進んでいく。
「こっちに来て。あそこ、見える?」
レクチェの指の方向を見ると、洞窟からゴブリン3体が出てきている。
素早く魔法で頭部を打ち抜き倒す。
「あそこに新しいダンジョンが誕生してる。生まれたてのダンジョンは不安定なことが多いって聞いたことがあるから、それでモンスターが外に……」
「どうする? 中に入ってみるか?」
「ううん、一旦戻ってギルマスに報告しよう。さすがに私たちだけじゃ対処できないよ」
おれたちは明るみ始めた山道を下り、ダンジョンが誕生してことをギルドマスターのモラードに報告した。
「そいつは本当かっ。ダンジョン内でモンスターパレードが起きてるかもしれんな。朝になったら緊急依頼を発令するぞ。メープルはその準備とチャネーの冒険者ギルドに応援を要請、レクチェは街にいる対応可能な高ランク冒険者をピックアップしてくれ」
「「了解です」」
二人とも慌てた様子でギルドの奥に戻っていった。
モラードはおれの方を向き、謝罪とお願いを口にした。
「アルス、お前を疑って悪かった。虫がいいのはわかっているが、できればもう少し力を貸してほしい」
「乗りかかった船だし、もちろん参加させてもらうよ。Eランク冒険者に手伝えることがあれば何でも言ってくれ」
モラードは笑みを浮かべ、部屋に戻っていった。
結局おれは宿に帰らずギルドの中で待つことにした。
朝になると、冒険者が続々とギルドに入ってくる。
緊急依頼が発令されており、掲示板の前には人だかりができている。
新ダンジョンの発見は珍しいことであり、新たな冒険に夢を見る者、高額な報酬に色めき立つ者さま ざまであった。
依頼の集合時間になりモラードが声を上げる。
「参加してくれる冒険者は集まったな。今回の依頼の最優先事項は内部のモンスターを討伐して、ダンジョンを安定させることだ。新ダンジョン攻略の主力はCランク冒険者のパーティ「黒鉄のキズナ」とBランクの冒険者に担ってもらう。Dランクは上層部のモンスター討伐、Eランクは荷物運びとダンジョン外のモンスター討伐をしてもらう。今回はダンジョン内部でモンスターパレードが起こっている可能性があること、ダンジョンの難易度、階層もわからねぇ。ダンジョンの場所はこれからレクチェに案内させる。十分注意をして探索してくれ。以上だ」
続いてレクチェが説明する。
「今から各自で準備を整え、9時に街の入口に集合してねー。ある程度の量の食料や回復ポーションや魔力ポーションはギルドでも用意しまーす。アイテム袋を持ってる方は運搬にも協力してくださいね。みんなでダンジョン攻略ガンバロー!!!」
「「おう!!」」
冒険者たちはそれぞれ装備の準備を整え、集合場所に向かっている。
おれも入口に向かおうとすると、メープルに呼び止められた。
「アルスさん、昨日はありがとうございました。昨晩の調査で十分すぎる実力がわかったので、特例ですがDランクに昇格です。おめでとうございます。今日の探索ではDランクの仕事をお願いします。あと……荷物の運搬も手伝ってくれると助かります」
「特例っていいのか? ありがたいけど……」
そう答えながら、置かれている食料やポーション類をアイテム袋に詰める。
「えぇ、大丈夫ですよ。Cランクまでは各ギルドマスターの承認さえあれば飛び級することもあります。では手続きをするのでカードをお願いします」
カードを受け取る。
「ありがとう。頑張ってくるよ」
「気を付けて行ってくださいね。帰ってきたら、ダンジョンの話の続きをしましょうね」
メープルは照れながら送り出してくれた。