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49.異変

 あれから襲撃はなく、おれたちは無事にバレルの街に戻って来た。

 ベルを送り届けたあと、張りつめていた糸が切れたのか倒れるように眠った。


 翌朝起きて、メープルの作った朝食を食べると、帰って来たという実感がわいてくる。


(王都も悪くなかったが、一番落ち着けるのはやっぱりここだな)


 その日は、特に何もせず、メープルやレクチェ、遊びに来たベルとのんびりと過ごした。



 ◆◆◆◆


 異変が起きたのはその日の夜だった。


 目を閉じると、脳裏に奴隷たちを殺した光景が思い浮かんでしまい眠れない。

 おれ以外に誰もいないはずなのに、おれを責めるような言葉が聞こえてくる。



 殺す本当に必要はあったのか。

 殺さずに無力化できたんじゃないのか。

 奴隷たちは救えたんじゃないのか。

 あの奴隷たちは操られていただけで本当の犯人を殺すべきではなかったのか。

 凍らせたまま放置していても良かったんじゃないか。





 お前は人殺しだ。






 結局朝まで眠りにつくことはなかった。


 次の日も、その次の日も同じようなことを繰り返す。


「アルスさん大丈夫ですか? 目の下のクマが……。もしかして眠れてないですか?」

 メープルが心配してくれる。


「ちょっとね。大丈夫、そのうちよくなるから」

 おれは心配させまいと笑顔を作って対応する。


(おれが気にしてることをメープルたちに気付かれたら、彼女たちに余計な気を使わせてしまう)


 レクチェやベルもおれの異変に気付き、声をかけてくれるが、何とかごまかしている。



 日中は本当に何ともない。

 ベルやレクチェと話したり、ベルの魔法を指導するのは楽しい。

 以前と変わらない日常生活を送れているはずだ。


 ただ、夜に眠れないだけなのだ。




 今日も一日が終わり、憂鬱な夜の時間が訪れる。

 できるだけ自室には戻らず、風呂に長めに入ったり、リビングでのんびり時間をつぶす。

 そうすれば、嫌なことを考えずに済む。


 ただ、朝までそうしているわけにもいかない。

 眠れなくともベットで横になれば、多少の疲労は回復できる。


 しかたなくおれは自室に戻り、ベットに横になる。


 静かな自室。

 おれ以外にはだれもいない。

 なのにまたあの声聞こえてくる。


(またか……)


 耳をふさいでも聞こえてくる声。

 目を閉じても浮かび上がってくる光景。

 おれに止めるすべはない。



 コンコン


 おれの部屋の扉がノックされる。


「アルス君入るよー」

 寝間着姿のレクチェが入って来た。


「もう夜中だぞ。明日も仕事あるんだし、早く寝た方が……」


「アルス君最近まったく寝てないでしょ?」

 レクチェの鋭い指摘に一瞬、返答が遅れる。



「ちょっと寝つきが悪くてね。旅の疲れのせいかもな」

 おれはどうにかごまかそうとする。


「嘘ね。アルス君の目、泳いでる。もしかして、王都の帰りの……」

 レクチェには気づかれてしまったようだ。


 おれは返事をせずに黙る。


 するとレクチェがそっと傍に寄ってきて、後ろからおれを抱きしめる。

「ごめんね、アルス君。あたしのせいで」


「レクチェのせいじゃないよ。おれの覚悟が足りてなかっただけ」


「ううん。あたしが奴隷たちを殺しておけば……」


「おれはレクチェに手を汚してほしくなかった。レクチェが殺さないといけないなら、おれがした方がましだって……だから後悔はしてないよ」


 おれは続ける。


「おれはあの時初めて人を殺したんだ。バレルに帰ってきてから、夜になるとあの時のことがフラッシュバックして……寝れなくなったんだ」


「きつかったね。アルス君にだけ責任を押し付けるような形になってごめんね。あたしもその責任、一緒に背負わせて」

 レクチェはさらに強くおれを抱きしめた。


 背中からレクチェの温もりを感じ、心の緊張が徐々にほどけていく。

 何も解決はしていないがレクチェに話を聞いてもらっただけで、精神的に楽になった。





 おれが落ち着くとレクチェは真剣な表情に変わり、話し始めた。


「アルス君、あたしね。ギルドの受付嬢だけど仕事はそれだけじゃないんだ。あたしのほんとの仕事は冒険者の捕縛や処刑なの。あまりに素行の悪い冒険者や犯罪者を取り締まることをしてるんだ。だから、仕事で人を殺したこともあるの……」


 レクチェは続ける。


「あたしはアルス君の思っているような綺麗な女の子じゃないの。あたしの手はもう血で汚れちゃっているんだ……ごめんね」


「……そうだったのか。だからおれのことが分かったのか……。でもどうしてそんなことを?」


「あたし前にアルス君に言ったことあったよね。以前いたパーティに裏切られて殺されかけたって。あたしはそいつらを許さない。何としてもこの手で捕まえて……だから強くなるために魔法が使えるようになりたかったんだ」


 レクチェの言葉からは強い意志を感じた。


 ただ、おれはこれ以上レクチェに手を汚してほしくなかった。


「おれはレクチェにこれ以上つらい思いをしてほしくない。理由は何であっても人を殺してほしくないんだ。そのパーティの奴らを捕まえるときはおれも手伝う。だから、それ以外はもう……」


「うーん。いきなりあたしが抜けたらギルマスも困っちゃうかも。でも考えとくね」





 レクチェの話も終わり、お互いすっきりした表情になった。

「アルス君どう? 眠れそう?」


「あぁ、おかげで少し楽になったよ。レクチェに甘えさせてもらったおかげかな」


「そっかぁ。でももっと甘えてもいいんだよ?」

 

 頬を赤く染めながら言うレクチェはとても可愛かった。


 おれは自分を抑えることができず、レクチェにさらなる温もりを求める。


 ベッドの中で抱き合い、キスをする。

 その勢いのままおれはレクチェをさらに求めていく……。


 その日おれはレクチェを抱いた。


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