35.決闘再び
「おい、ラッシュ。年下好きもいいがほどほどにしとけよ」
仲間の一人が止めに入る。
「おいおい、誤解を招く言い方はよしてくれ。俺はお嬢ちゃんに魔法の指導をしてやるって言ってるんだ。それ以上何かするとはまだ言ってないぞ」
男はニヤニヤとゲスな笑みを浮かべて答える。
「違いねぇな。俺達は先に酒場に行ってるから、ほどほどにな」
4人の仲間は笑いながらギルドから出ていった。
「待たせたな。お前がこのお嬢ちゃんの先生のようだな。どうだ? 今日だけでも先生の座を譲るってのは」
「遠慮しておくよ。お前がお嬢ちゃんと呼んでるその子は子爵の娘だ。手を出さない方がいい」
「そいつはいいな。子爵もより強い冒険者が先生になる方が喜ぶ、そうは思わないか? お嬢ちゃんも強くなりたいんだろ?」
「必要ないです。もういいですか。私たち疲れているので」
ベルはそう言い、ギルドの出口に向かおうとする。
ラッシュという冒険者の横を通り過ぎようとしたその時、男の手がベルの腕をつかんだ。
「きゃっ。なにっ」
「どうせ行ってきたのは初級ダンジョンなんだろ? あんなとこで疲れるなんて先生の指導が悪い証拠だね。こんなのに教わってるから鍛え方が足りてないのかな」
「放してっ。先生を侮辱しないで! 先生はあなたみたいな人より強いですから」
ベルはなんとか腕を振りほどき、こちらに来た。
「Bランクの俺よりも強いって? そういうことは冗談でも言っちゃいけないな。聞いてる人が勘違いしちゃうだろ?」
「冗談じゃないわ。あなたなんかより実力は先生方が上よ」
ベルは相手の挑発じみた発言に乗ってしまいヒートアップしていく。
「なら、それを証明できるかい? そちらの先生の冒険者ランクは?」
「……Cだ」
おれが答えるとラッシュは勝ち誇ったような表情を浮かべる。
「お嬢ちゃん、聞こえたかい? 先生のランクはCだって。CとBじゃどっちが上のランクか分かるかな?」
「……Bよ。でも先生は……」
「でもじゃない。ここは実力が第一の冒険者ギルド。そんなところで侮辱をされるなんて……謝罪をしてもらわないとね」
「なんで謝る必要があるのよ。戦ってみないと分からないじゃない」
ベルは言い返した後にはっと気づいた。
「それは決闘の申し込みってことでいいよね? いいよ、今からやろう」
「それは……」
ベルは言いよどむ。
俺達ははめられたのだ。
ベルは挑発に乗ってしまい、まんまと相手の策にはまった。
(やられたな。こいつ手慣れてる)
「まさか、ここまで言って逃げないよね? 先生は俺よりも強いんだろ?」
もう後には引けない状態まで追い込まれてしまったおれとベルには決闘を受ける道しか残されていなかった。
◆◆◆◆
ラッシュは慣れた様子でギルド職員に決闘の準備をさせている。
「先生、すみません。私が挑発に乗ってしまったばっかりに……」
ベルは半べそをかきながらおれに謝罪する。
「止めなかったおれも同罪だよ。とにかくこの勝負勝たないとな」
おれは決闘が始まる前にラッシュのスキルを確認しておく。
(火魔法Bに長剣Bか……強いな)
「こっちは準備できましたよ」
ラッシュは余裕の表情を浮かべ、おれを呼ぶ。
「あぁ、今行くよ」
おれが決闘の場所に移動するとギルド職員が説明を始めた。
「ラッシュさんが勝った場合、二人からの謝罪と、ベルさんへの命令権。アルスさんが勝った場合は、ラッシュさんへの謝罪の必要は無し。負けた方が決闘の手数料大銀貨1枚を支払う形でいいですか?」
「その命令権ってなんのことだ?」
「そちらから決闘を吹っかけてきたんですから、俺にも少し旨味がないとねぇ。ベルお嬢さまに些細な命令をするだけですよ」
「それはやりすぎだろ? 子爵の娘に手を出すのか?」
「あいにく俺も辺境伯の息子でね。子爵程度どうにでもできる」
「クズめ。謝罪程度で釣り合う条件じゃない」
「どうとでも言ってくれて構わない。命令権だけは絶対に引き下げないから」
「なら追加だ。おれが勝ったらベルには2度と手をだすな。負けたらこのアイテム袋をくれてやる」
「……あぁ。いいだろう。お前聞こえたな? 今の条件も追加しておいてくれ」
ラッシュはギルド職員に条件の追加をさせ、再度確認を求めた。
「……では双方ともこの条件でいいですか」
おれとラッシュは同意し決闘が始まった。
ラッシュは杖を構え
「怪我する前に降参しなよ。火爆弾」
炎を圧縮した、火の玉がおれに向けて放たれる。
「氷盾」
ドォォン。
「ぐっ」
防げたと思ったが、火爆弾は着弾と同時に爆発し、氷盾を粉々に砕く。
態勢を崩したところに追い打ちをかけてくる。
「ほらほら、避けないと。多火刃」
「多水刃」
今度はおれの魔法が相手を打ち破る。
「おっと、危ない。杖なしとは驚いた。少しは楽しめそうだ」
ラッシュは自分の実力を見せつけるように火魔法を繰り出す。
人間性はさておき、技術に関しては間違いなくBランクにふさわしいものばかりだ。
おれは致命傷を負わないように水防膜を維持し、攻撃を防ぐ。
「こいつはどうだ、火蛇」
地面を這うように火魔法で作られた蛇数匹が襲い掛かってくる。
「氷大盾」
「残念、そいつは悪手だよ」
火蛇は氷大盾を避け、おれにかみついた。
「うっ、追尾型か」
「こっちもお返しだ。水波浪」
おれは大量の水を生み出し、アッシュごと流す。
「くっ」
上手くバックステップを繰り出し衝撃を避けたようだが、狙いはダメージではない。
「自慢の火蛇も地面が濡れていたら威力は半減だな」
「それだけで勝ったつもりかい?多火弾」
アッシュは小技を連発し、徐々におれに接近する。
おれも小技勝負に応じる。
10mの距離まで接近すると、アッシュは杖を捨て長剣に持ち替えた。
剣に火の魔力を宿し、斬りかかってくる。
「油断したな。火長剣の餌食だよ」
おれは地面に手を当て、氷魔法を発動する。
「氷束縛」
足元の水たまりから氷の茨を生み出し、アッシュの身体に巻き付け、行動を止める。
「クッソォォォォ」
アッシュは長剣に大量の魔力を加え、氷を解かそうとあがく。
徐々に溶けていく氷束縛。
おれは氷が解けるのを待たず魔法を放つ。
「これで終わりだ、氷剣乱舞」
アッシュに多数の氷の剣を突き付け、決着をつけた。




