34.ダンジョンデビュー②
おれはベルを抱え、ダンジョンの外に出た。
近くの目立たない場所まで移動し、ベルの頭を膝に乗せ、上着をかける。
(抱えて帰ってもいいが……少し待ってみるか)
しばらく待っていると、ベルに動きがあった。
「うぅん、あれ? 私ダンジョンでゴブリンに……」
「ベルどこか痛いとこはない?」
おれは顔を覗き込んでベルに聞く。
「はっ。すみません。私、もしかして気を失ってましたか?」
慌てて頭を上げようとするベルの頭を優しく撫で、もう一度寝かせる。
「慌てなくていい。このままでいいからもう少し休もう」
ベルは恥ずかしそうにしながら、身体を丸める。
「つらかったら思い出さなくてもいい。ただ、話せるなら何があったのか聞かせてもらえないか?」
ベルは思い出すようにポツリ、ポツリとおれに話してくれた。
「……あの時、ゴブリンが近づいてきて、倒せる距離に来た時に水球で倒そうと考えてました。でも、距離が近くになるにつれて、ゴブリンの表情まで見えてきて……私を殺してやるって目が怖くなって……動けなくなってしまいました。先生の声で、はっと気づいたのですがもう間に合わないと思って……そのあとはもう覚えてないです……」
(モンスターの殺意か。今までベルは人の悪意やそういった類のものとは無縁だったんだろう。初めての戦闘でそれを感じて、身体が恐怖で固まってしまったか。トラウマになってないといいけど)
「今日はもう帰ろう。また今度、しっかりと準備してから……」
帰る、その言葉に反応しベルは身体を起こした。
「もう一回だけ……次で最後でいいので。お願いしますっ」
「いや、今の状態じゃ魔法もうまくできないだろう。ベル自身が一番よくわかってるんじゃないか?」
そうは言いつつおれは迷っていた。
(また今度、トレーニングを積んだ後にダンジョンに行けばモンスターを倒せるかもしれない。だが、今日のことがトラウマになってしまうようなら、早めに払拭できるに越したことはない。今日の失敗を成功で上塗り出来たらそれが良いに決まってる)
「でも……。それでもここで帰ったらもう来れなくなる気がして……」
目には涙がたまり、ほほを伝って地面に落ちる。
(どうにかしてあげたい。ただ、このままだと同じことの繰り返しになる。トラウマを克服するには、まずは安心感。そして成功体験が大事だ。なら……)
「ベルの気持ちは分かった。ならもう一度だけダンジョンに入ろう。今度はおれと一緒に戦おう。それなら少しは安心できるだろ?」
「……はいっ」
ベルは涙を拭い、返事をした。
◆◆◆◆
「じゃあ、おれが隣にいて防御を担当する。絶対にモンスターは近づけないから安心してくれ」
「……こんどこそ私は魔法でモンスターを倒します」
おれたちはダンジョンに入り、モンスターの元へと移動していた。
戦闘が始まる直前、ベルがモジモジしながら話しかけてきた。
「あの。先生、まだちょっと怖いので……手を握ってもらえないですか?」
おれはベルの左手をぎゅっと握る。
「大丈夫。ベルにモンスターは近づけないよ。魔法を当てることだけに集中して」
今度のターゲットはボアにした。
見た目もイノシシに似ていて、少しでも殺意を感じにくいようにするためだ。
「ベル、準備はいいか。来るぞっ」
おれは手を握ったままベルを水防膜で覆い、安心感を与える。
こちらに気付いたボアは突進を開始する。
ゴブリンよりも早いスピードであっという間におれたちに接近する。
ベルの震える手を強く握り、声援を送る。
「ベル、大丈夫。ベルならできるよ」
手の震えは止まり、ベルの目はしっかりとボアの動きを捕えていた。
「水球!!」
「フギィ」
ボアは悲鳴をあげ倒れた。
「やったな、ベル。頑張ったね」
「先生が手を握ってくれて勇気が湧いていて……私……倒せました」
「あぁ、見てたよ」
「よかったでず……」
今度は倒せたことの喜びと安心感から涙を流してしまうベル。
それをみておれも涙が出てしまったのは内緒だ。
落ち着いた後の帰り道、ボアを探して1階層の奥の方まで来ていたのでゴブリンと接敵してしまった。
おれが倒そうとするが、ベルは譲らない。
「先生、私がやります。――水球」
さっきの戦闘で自信が持てたのか、ゴブリンも何事もなかったかのように倒す。
「もう大丈夫だな」
「はい!」
ベルは元気に返事をした。
◆◆◆◆
ダンジョンから街に帰り、モンスターの売却のためギルドに寄った。
今回は以来は受けていないため、ゴブリンの魔石とボアだけだ。
アイテム袋をベルに預け、実際に解体の依頼、報酬の受け取りをしてもらうつもりだ。
おれは少し離れて見守る。
「買い取りお願いします」
「はいよ。立派なボアだね。お嬢ちゃんがやったのか?」
ほめられてうれしそうなベル。
「ありがと。少しは持ち帰りでお願いできる?」
「分かった、おいしい部位を渡すからなー。すぐにするから、ちょっと待っててな」
解体所の近くでベルが待っていると、そこに冒険者たちがやって来た。
杖を持っているベルに興味を持ったのか、そのうちの一人が話しかけてきた。
「お嬢ちゃん魔法使い? 俺も魔法使いなんだけど、この後魔法の指導してあげるよ?」
「いえ、結構です。私にはちゃんと魔法の先生がいますので」
「固いこと言わないでよ。こう見えても俺はBランク冒険者だから、お嬢ちゃんの先生より強いよ」
ベルはだいぶ嫌がっている様子だ。
慌てておれも止めに入る。
「ベル、行くよ。報酬も準備できたようだからもらって帰ろうか」
「そうですね」
ベルが報酬を貰い帰ろうとしていると、冒険者が立ちふさがりベルの邪魔をする。
「無視はよくないな。冒険者は先輩を敬わなくちゃ。そこの君もそう思うだろ」
冒険者は振り返り俺に対して、挑発の笑みを浮かべた。
今日帰るのはもう少し後になりそうだ。
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