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33.ダンジョンデビュー①

 今日はベルとダンジョンに行くと約束をしていた日だ。


 浅い階層でモンスターと戦闘経験を積ませて、戻ってくるという予定だ。

 ボアやゴブリン、コボルドあたりと戦えたらいいなと考えている。


 子爵邸に着くとローブを着て、杖を持ったベルに出迎えられた。


「先生、遅いですよ。早く行きましょう」


 あまり外出することがないためか待ちきれないとばかりにおれの手を引くベル。


 家の入口ではベルの家族や執事に見送られて出発することになった。


 バレル子爵からはくれぐれもベルに怪我がないようにと念を押されてしまった。



 ◆◆◆◆


 ギーロ山の初級ダンジョンの方に到着した。

 こっちのダンジョンは中級ほど人は多くない。

 モンスターのドロップが微妙であまり稼ぎにならないからだ。


 ただ初めてダンジョンに入る人には、モンスターのレベルも階層もちょうどいい。

 高レベルのモンスターは出現しないし、最下層まで行っても10階層なので日帰りできる。



「ベル大丈夫か? 少し休んでからダンジョンの中に入るよ」


「まだ移動しただけですよ。すぐにでも入れます。行きましょー!」


「焦らなくてもダンジョンはどこにも行かないから。急ぐとモンスターに隙を突かれてしまうよ」


 おれは先走りそうな勢いのベルを軽く叱り、落ち着かせる。


「だって……先週から今日を楽しみにずっと待ってたから……」


 いくらベルがしっかりしてると言ってもまだ10歳。

 危険になってからでは遅い、ダメなことはダメとしっかり教えなくてはいけない。


「ゆっくり行こう。これからダンジョンに行く機会も増えるから」


 ベルを納得させ、休憩をとった後にダンジョンへと入った。



「わぁぁ、中は明るいんですね。明かりはないのに……」


「ダンジョンの中はヒカリゴケが生えてるから……。他のダンジョンの中には暗いところもあるらしいよ」


「なんでヒカリゴケが生えてるんですか?」


「さぁ、おれもそこまでは知らないな」


 ベルは見るものすべてに興味を惹かれるようだ。



 移動中おれは電波探知(ソナー)でモンスターの位置を把握し、さりげなくそっちの方向に進むよう誘導する。


「ベル、あそこのゴブリン見える? 倒すから後ろで見てて」


 おれはゴブリンの近くに水弾を放ち、ゴブリンに気付かせる。

 おれに気付いたゴブリンは走って近づいてきた。


水弾(ウォーターバレット)


 おれの放った水弾(ウォーターバレット)はゴブリンの頭を貫き、一撃で仕留める。


「こんな感じかな。心臓付近は魔石が埋まってるから、余裕があるならそこを外した方がいいよ。魔石はギルドで買い取ってもらえるから」


「分かりました……」


「次はベルに倒してもらうけど……大丈夫か?」


 ベルの様子がおかしい。

 顔は青白くなり、いつもはピンクの唇も紫色になっている。


「モンスターの血が……少し休めば大丈夫です。すみません」


 ダンジョンから生まれるモンスターも生き物だ。

 体内には青い血液が流れ、血管を切れば当然血が吹き出る。

 おれは転生直後生きるために必死だったから、気にする余裕がなかった。


 初めてモンスターを見て、それを殺す。

 ベルの瞳には中々刺激的な光景に映ったことだろう。


 おれたちは一旦ダンジョンから出て、外の風を浴びた。

 ベルの表情はさっきより回復しているが、もう少し休憩が必要だろう。


「ベル、今日はもう帰ろうか? また、日を改めて来よう」


 ベルは首を横に振る

「少し、衝撃的だっただけです。今はもう大丈夫です。近づかれる前に魔法を当てれば……いけます」


「ここで無理をする必要はないんだぞ」


「私は、もう一度チャレンジしてみたいです。先生お願いします」


 おれは少し考えたあと

「分かった。でも危ないと感じたら横から手を出すからな」


「分かりました」



 さらに休むとベルの顔色も良くなり、もう一度ダンジョンに入ることにした。


 再度電波探知でモンスターの位置を把握し、そっちの方向に移動する。


「ベル、そろそろ敵が見えるぞ。杖を構えておいて」


 ベルは右手に杖を持ち、おれの指さした方向を見つめる。


 通路の角からゴブリンが現れた。


 ベルは自分で自分を鼓舞しながら、ゴブリンが魔法の有効射程に入るのを待つ。

「大丈夫、大丈夫……魔法を当てるだけ。当てたら倒せる……」


 ゴブリンはベルに気付き襲い掛かってくる。


 ベルとゴブリンの距離は50m。

 次第に距離は縮まっていく。


 40m


 30m

 ベルの魔法の有効射程に入った。


 20m

 もう魔法で倒せる距離だ。


 杖を持っている手が震えている。

 ベルはまだ魔法を撃たない。


「ベルっ!しっかりしろ。近くにきてるぞ」


 10m


 ベルはようやく状況が呑み込めたようだがゴブリンに近くまで接近を許してしまった。


「ベル水防膜(ウォーター)だ。早く!!!」


 5m


「ブゴゥ」

 ゴブリンはベルに狙いを定め、飛び掛かる。


「キャー!!」

 ベルは手で顔を覆い防御態勢をとる。


氷盾(アイスシールド)ッ」

 おれの放った魔法はベルとゴブリンの間で発動し、ギリギリでベルを守れたようだ。


 おれはゴブリンを片付け、ベルのもとに駆け寄った。


「ベル、ベルっ」


 ベルは目を閉じたまま、動かない。

 怖くなり、ベルの胸に耳を当てると、心臓の鼓動が聞こえた。

 どうやら気絶してしまったみたいだ。


ベルのダンジョンデビューはほろ苦いものになってしまいました。


この後どうなってしまうのか……


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