24.引っ越し①
昨晩メープルから連絡があって、今日から入居できるとのことだった。
家具やベットの完成に時間がかかってしまい、当初の予定より1週間遅れた。
ちなみに家具やベットは服屋のアルピスさんの知り合いに注文したらしいので、品質には期待できるそうだ。
(お値段も期待以上だろうなぁ)
家具などはすでに家に運び込まれているようで、あとはおれが宿に置いている服なんかを持っていけば引っ越しは完了だ。
宿に鍵を返し、家に向かう。
1カ月近く住んだこの宿にも少し愛着がわいていたようで、いざ引っ越すとなると少し寂しい気持ちも感じる。
家の前ではメープルとレクチェは少し言い争いをしているようだった。
「……なんだって。メープルが嫌ならあたしだけ……」
「嫌とは言ってないですよ。……迷惑になります」
二人は近づいてきたおれに気付き、いつもの雰囲気に戻った。
「珍しいな二人がケンカするなんて。どうかしたか?」
「大丈夫。そこまで本気でケンカしてるわけじゃないから」
「ケンカというより……ちょっと……後で伝えますから」
この件はいったんお預けなようで追及を許さない謎の迫力があった。
メープルから鍵を受け取り家に入ると、内部はかなりキレイになっていた。
リビングの机やいすは新調され、調理器具や皿、コップ等生活に必要なものはすべてそろっている。
「アルスさんこっちです。この部屋にベットを置いてもらいましたけど良かったですか?」
「あぁ、寝室はこの部屋にするつもりだったから……。全部メープルに任せっきりで申し訳なかったけど、全部任せて正解だったよ。ありがとう」
「いえ、アルスさんがお金を負担してくれてるので、私がしたのは家具の注文ぐらいで……」
今回家具の準備や清掃のためにメープルにはお金を預けており、それをやりくりして必要なものを準備してくれた。
一通り家の中を見て回った後は昼食になった。
今日はメープルが作ってくれるらしい。
待っている間はレクチェと魔法の話になった。
「メープルに雷魔法のことは言ったのか?」
「んー、まだ誰にも。実はまだ魔法成功してないんだ。結構練習はしてるつもりなんだけど……」
「魔法が出ないのか? 魔力が足りないのか、まだコツが掴めていないのか……」
「原因がわからなくって。あたしが魔法を使えることは秘密にしてるし、頼りにできる人も……いたね。最初からアルス君頼みはちょっと避けたかったけど、時間があるとき見てもらえたりする?」
レクチェらしくない気の使いように少々驚かされたが、おれとしては断る理由も無いので了承した。
おれも雷魔法には手を焼いているので研究するきっかけができてちょうどよかった。
「でもさ、アルス君ほんと欲がないよね」
「ん?」
「こないだの魔導書の条件覚えてるでしょ? あたしのこと好きにできるんだよ。普通の冒険者なら結婚相手にするか、セ〇レにすると思うけど」
「そうしてほしいのか? おれだってレクチェみたいな美人と付き合えたらいいなって思うけど、相手の弱みに付け込むにはあんまり……。もっと自分を大切にしなよ。あの条件は別のことに変更していいから」
少し赤くなったレクチェがボソッと何か言ったが聞き取れなかった。
「……って思ってくれてるんだ。アルス君って年齢の割に大人だよね。あたしより年上みたい」
(ちょっと説教臭かったかな……)
しばらくしてキッチンの方からメープルが料理を持ってきた。
「お待たせしました。料理できましたー。鹿のローストサンドイッチ、野菜のスープとサラダ、キーツのデザートも作ってみました。お口に合うといいですけど」
「おいしそー。早く食べよ」
一番気になったサンドイッチから一口。
「んーー。おいしい。このソースとの相性が最高っ。――メープルは普段から料理をするのか?」
「そうですね。寮にいるときはできるだけ料理するようにしてます。料理するのも好きだし、持ってるスキルも鍛えたいので」
(メープルは料理関連のスキルを持ってるのか?あとでのぞいてみるか)
「メープルの料理は美味しいからいっつも頼っちゃう。アルス君は料理しないの?」
「料理はできないな。いつもは宿の食事か店に食べに行ってる」
「宿から引っ越したから、朝ごはんが大変だねー。アルス君、一つ良い提案があるんだけど聞いてみない?」
にやにやと怪しく笑うレクチェとちょっと不安そうなメープル。
「どんな提案だ?」
と聞いてみた。
「この家広いし、部屋がいっぱい余ってる。アルス君寂しくない?」
「何が言いたいんだ?」
「あたしとメープルが毎日お泊りにこよっかなーって。どう?」
「お泊りって。毎日来るならそれは一緒に住むってことだろ……それはちょっと」
「アルス君あたしたちのこと嫌い? メープルもアルス君が嫌じゃないならいいってさっき言ってたよ」
「ちょっとレクチェ、恥ずかしいからやめてよー」
「もちろん嫌いじゃないけど、男女の問題が……。おれも男だし、ほら……」
「大丈夫だよ。あたしもメープルもアルス君になら……ね。アルス君はメープルのご飯を毎日食べれる。あたしたちはお風呂に毎日入れる。お互いウィンウィンだから」
「もう、レクチェ勝手なことに言わないでっ」
メープルは慌ててレクチェを止める。
「ほら、メープルもこう言ってるし。遊びに来るのはいいし、お風呂も好きに入っていいからさ」
「……わかった。ならあたしだけでいいからここに引っ越していい?料理もがんばるから」
「だから、おれも男だから我慢できなくなるというか……」
「あたしはアルス君にならぜんぜんいいよ?魔法も教わりたいし」
「……」
「だめ?」
(さすがに付き合ってもいないのに同棲は……。でもレクチェはああ言ってくれてるし、好意を向けてくれてるのも嬉しい……)
おれがレクチェに流されようとしていると
「ダメです。アルスさんの専属はわたしです。わたしがアルスさんのお世話をしますから。レクチェには負けません」
顔を真っ赤にしたメープルが予想外の方向から話に加わってきた。




