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21.解決策

 予定していた家庭教師の時間より少し早く子爵邸に向かう。


 門番をしていたサイルにバレル子爵にどうしても伝えないことがあることを伝え、取り次いでもらった。

 少し待っていると、子爵が時間をとってくれることになり部屋に通される。


「急にどうしたんだ。昨日娘が泣いていた件と何か関係があることか?」


「実は……」


 ベルの魔法がうまくいかない理由、ベルの体内で起こっている悪循環、このまま何もしないと貴族学校の入学までに成長すると言い切れないことを正直に話した。


「それで、アルス君はどうしようと思っているんだ? 君の顔はあきらめている人間とは思えないのだが……」


「思いついた方法はあるのですが、安全性の面で少し問題があって……」


「続けてくれ」


「私の魔力をベル様の体内に入れ、ゆっくりと魔力回路を押し広げる方法です。これならベル様の魔力回路を少しずつ太くでき、魔法が使えるようになるかと。ただ、失敗した場合はベル様の魔力回路を傷つけることに……」


「――そうか。ちょtt」


 バァン


「その方法を受けます」


 勢いよくドアを開け、話題の張本人が入って来てしまった。


「ベル。冷静になりなさい。万が一があってからでは取り返しがつかないんだぞ」


「でも、私の魔力が増えるのを待つと、いつ魔法が使えるようになるかわかりません。私は少しでも早く魔法が使えるようになって、この領地のために役立てたいのです」


「しかしだな―」 


「私のことは私が責任を持ちます。今のまま待つなんて耐えられません。可能性があるならそれに賭けてみたいです」


 娘にそこまで言われバレル子爵も頭を悩ませている。

 少し時間が経過して

「分かった。アルス君くれぐれも慎重に頼むぞ」


 バレル子爵の許可もおり、ベルの魔力回路の拡張に挑戦することが決まった。


 集中して魔力操作を行うため、部屋に入るのはおれとベル、子爵の三人、部屋の外に万が一のため司祭が控えている。


「よし、始めます」


 おれはベルと向き合った状態で立ち、両手を繋いだ。

 目を閉じ右手から少量の魔力をゆっくりとベルの体内に入れる。

 他人の体内に入っている魔力は操作がとても難しい。


(失敗は許されない……)


 加えた魔力は少しづつだが、確実にベルの魔力回路を押し広げていた。


「大丈夫ですか?」


「……」


「ベル様?」


「……ふぇ?」

 目はとろんとし、口は半開き、頬を赤らめて、まるでほろ酔い状態だ。


「体調に異変はありませんか?」


「らいじょうぶ。いたいところはらいし、くるしくもない。……からだのなかがあるすのまりょくでみたされているかんじ……ぽかぽかする」


(……気まずい、子爵からの視線がおれに突き刺さる。)


 30分ほど経過し、おれも額に汗がでてくる。

 程なくして、左手の方から自分の魔力を感じる。


 よかった。

 無事、ベルの魔力回路の拡大ができたようだ。


「ふぅー。成功しました。ベル様、痛みとかないですか?」


「ふぁい。なんともないれす」


 おれの魔力で酔ってしまったベルにはそのまま30分ソファーで休んでもらった。


 *


「ちょっと取り乱したけど、もう大丈夫よ。お庭で魔法を確認しましょ」


 ベル頬はまだ少し赤く、さっきのことを恥ずかしがっているようだ。


 おれたち3人は庭に移動した。


 昨日と同じようにベルは杖を構え、的に向かって魔法を放つ準備をしている。


(頼む、成功してくれ……)


「いきます。水弾(ウォーターバレット)


 ベルの持つ杖から、魔法が放たれる。

 発現した水弾は卓球の球ぐらいで速いスピードもない。

 ただ、放たれた魔法はぎりぎりだが的に届いた。


「……やった。やった!魔法が……できた。私……」

 ベルは魔法を成功できた喜びと、安心で涙をぽろぽろとこぼし始めた。


 よくみるとバレル子爵もうっすらと涙を浮かべている。

 おれもつられてちょっと泣いてしまった。


◆◆◆◆


「ベル、よく頑張ったね。それでこそ私の自慢の娘だよ」


「これは私の力だけじゃ……。私が魔法を放てるようになったのは、アルス、いや『先生』のおかげ。本当にありがとう。先生」

 ベルはおれの方を向き、照れくさそうにお礼を言う。


「いや、ベル様が頑張ったおかげですよ。提案を受けたのも魔法を成功させたのもベル様自身ですから」


「お世辞はいいの。これからは私のことも呼び捨てで、敬語も使わなくていいわ。私が教わる立場ですもの」


 おれが驚いて、バレル子爵の方を見ると


「もちろん構わないよ。娘も立派な貴族。言ったことに責任を持たないといけない。アルス先生、これからも娘のことよろしく頼むよ」


「先生、次の指導も楽しみにしてますから。今日はほんとにありがとうございました」


 おれはとても幸せな気分で子爵邸を後にした。


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