20.家庭教師 初日
家庭教師初日、時間になりバレル子爵邸を訪れると門番をしていたサイルに出迎えられた。
「おっ、来たな。ベル様楽しみにしてるからよろしく頼むな」
部屋に案内されると杖を持ってやる気満々のベルがいた。
「待ってたわ。早く始めましょ」
ベルにそう言われ早速始める。
今日予定しているのは最初に魔法についての講義、そのあとに実際に魔法を発動してみるといった流れだ。
「魔法について講義を少ししてから実技の練習に入りましょう」
と伝えるとちょっと嫌な顔をされてしまった。
訳を聞くと、もう基本の予習はしてきたとのこと。
魔法の理論に関してはバレル子爵がくれた魔法の本をしっかり読みこんでいるらしい。
確かに魔法の基礎知識やどんなイメージで魔力を放出するか聞くと、的を得た答えが返ってきた。
それならばと、早速実技に移ることにし、おれたちは庭に移動した。
まずはおれが手本を見せる。
「魔法は、体内の魔力を集めて外に放出する感覚です。杖を持つ手に魔力を集中して一気に放つ。水の動きをイメージしながら放ってください」
「的に向けて狙いを定めて……水弾」
おれの放った魔法はしっかりと的に命中した。
「次はベルさんの番です」
「はーい」
いよいよ、ベルの初魔法だ。
本人も緊張した表情で、かなり真剣だ。
ベルは杖を構えて集中する。
「……いくわ。ウォーターバレットッ」
「……」
ベルの魔法は発現しなかった。
「……やっぱりだ」
ベルがボソッと呟く。
「どういうことですか?」
「実は、今までも魔法が出せるか試したことがあって……でも一回も成功したことないの。今回はできると思ってたんだけど……」
集中はできていた。
魔法のイメージもできてる。
(何が足りない?魔力か?)
「もう一度してみようか」
今度は鑑定も行使しながら、ベルの魔力の動きをじっくり視る。
「ウォーターバレットッ」
(心臓付近から手の方向への魔力の流れがない。魔力量も少ないな……)
心配そうにおれを見つめるベル。
「もう一度お願いします」
確認のため何度か繰り返してもらう。
◆◆◆◆
「原因が分かりました。説明をしても……?」
ベルは頷く。
「ベル様の身体にある2つの問題点を説明します。1つ目は今のベル様の魔力回路がとても細く、魔法を発現するために十分な魔力が供給できていません。2つ目は魔力量が少ないことです。今後魔力量が増えるにつれ魔力回路が成長して太くなると思いますが……。そしてこのままだと悪循環が続く可能性があります」
ベルの顔が青ざめる。
「魔力量を効率的に増やすには、魔力を使い切ることです。使い切るには魔法を使って……」
(賢い子だから、この意味をきちんと理解したんだろう。中々厳しいが、どうするか……)
ベルは茶色の髪を揺らしながらゆっくりと近づいてきた。
翡翠色の目には涙がいっぱい溜まっている。
涙をこぼさないよう、ぐっとこらえながら聞いてきた。
「アルス……私はやっぱり魔法が使えないの?あんなに勉強したのに……」
(生徒にこんな顔させて、おれは何をしてるんだ……この程度解決してやれないで何が先生だ。)
「……大丈夫です。私がどうにかします。任せてください」
その言葉でベルは少しだけ元気づけられその日の指導は終わった。
◆◆◆◆
帰り道
「はぁ。どうするかー。魔力が無いから魔法回路を押し広げるのも難しいし……」
まったく策は思いついていないが、あの顔を見て励まさない方が無理だ。
宿に帰ってからも、持っている本を読んだり、考えたり、気付いたら翌朝になっていた。




