2.vsボア
「うわあぁぁぁぁぁぁ。」
かれこれ1時間は逃げまわったと思うが、大きなイノシシのモンスターからは逃げ切れない。
事の発端は1時間前のこと。
小屋の周囲の状況を把握しようと、安易に山中に足を運んだのがまずかった。
油断して散策していると背後からイノシシに襲われ、気づけば山の奥。
小屋に戻ることもできない。
「火弾、火弾ッ」
連続して魔法を当てるもイノシシは気にも留めずおれを追いかけてくる。
「ハァッ、ハァッ。そろそろ限界。もう無理」
足は恐怖でふるえ、体力も限界が近づいてきた。
あたりを見渡すが、武器になりそうなものはない。
(どうする……逃げるか、戦うか)
考えるがイノシシは待ってくれない。
「フゴッ」
という鳴き声とともにイノシシが猛烈な勢いで突進してくる。
「うおぉぉっと」
牙にあたる寸前のところでジャンプ。ギリギリで攻撃をかわし、近くの木に登ることができた。
「なんとか、時間が稼げたぞ」
肩で息をしながら、一安心をするが状況が好転したわけではない。
イノシシは木の根元で降りてきたところを攻撃する準備をしており、諦める気はなさそうだ。
(魔法以外にできることは……あっ、鑑定してみるか)
状況を打破するため、木の上からイノシシを鑑定すると『魔物 ボア 弱点 鼻』と表示された。
そこからは一方的だった。
上からボアの鼻に向かって何度も魔法を放ち、追い返すことに成功した。
「ふぅ、なんとか生きて帰ってこれた」
小屋に戻ったおれは、すぐに魔法の修業を始めた。
山を下りて街に行くにも、ボアや他のモンスターと遭遇しては命がいくつあっても足りない。
「まずは強くならなきゃ……」
日中は魔力が枯渇するまで何度も魔法を放ち、夜は女神からもらった本を読みこんだ。
修業を始めて3日経つころにはスムーズに魔法を放つことができ、多少の工夫を混ぜることができた。
通常、魔法は杖を介して発動させ、自分の手から直接出すのは普通では無いようだ。
(火系統の魔法は発動するだけでやけどするしな……。女神様、杖もくれたらよかったのに)
魔法にはスピードや回転を加えることができ、両手での発動やためで威力を底上げできる。
魔力が枯渇すると、頭痛と吐き気がおそってきたが、限界まで練習を続けた。
魔力切れは辛いがこんなに楽しい日々は久しぶりであった。
練習すればするだけ上達する。
知らないことを勉強し、それを実践する。
習い事を始めたての子供のようにおれは魔法に没頭した。
さらに5日後には魔法ランクが上がり、新たな魔法も使えるようになった。
「水球」
サッカーボールサイズの水球を生み出し、最大限威力を込めて、狙いの木に放った。
ドンッッ……バキバキバキッ!
魔法が直撃した部分は貫通し、バランスを崩した木は折れてしまった。
「よしっ!これなら、ボアとも戦える。食料もなくなったし、そろそろ山を下りれるか」
魔法の修業の成果に喜びつつ、街に向かって歩き始めた。
周囲を警戒しながら山を下っていると茂みの中にボアを発見した。
まだ距離があるのでまだボアには気づかれていないようだ。
気づかれる前にこっちから仕掛ける。
「水弾」
背後からボアの後ろ足を攻撃する。
「フギィ」
上手くいったようだ。
ボアは足を引きずりながら逃げる。
「逃がすかっ、氷弾」
高速で放たれた魔法は、ボアの急所を撃ち抜き倒した。
(修業の成果が出せたな…)
解体はできないのでボアはそのままアイテム袋に回収した。
結局下山するまでに3体のボアと遭遇したが、あぶなげなく魔法で倒せた。
(やっと街に到着だ)
入口には門番がおり、簡単な身分チェックをしている。
「ステータスプレートのチェックだ。見せてくれ」
「うん? ステータスプレート?」
門番は驚きと警戒感を出しながら聞いてきた。
「お前、ステータスプレートを持ってないのか? どこから来たんだ」
おれは取り繕うように答える。
「あの山の中で生活をしていて…初めて街に下りてきたんだ。ステータスプレートとはどういうものだ?」
「まさかお前10歳で神託の儀式を受けてないのか? どうすっかな……お前ここで少し待ってろ」
そう言って門番は傍にあった建物に入っていった。
10分ぐらい待っているとさっきの門番が戻ってきた。
「明日、神託を受けてもらう。悪いが身分のわからない奴をこのまま街に入れることはできないからな。それまではこの建物の中にいてくれ」
「あぁ、すまない。山で暮らしていたから世間のことを全く知らないんだ。よかったら街のことを教えてほしい」
「みたいだな。もう交代の時間になるから行くか。おれの名前はキューブ。よろしくな」
「おれはアルス。助かるよ」
そこからは眠りにつくまで門番にいろんな話を聞いた。
この国はバレンシア王国といい、この街はバレル子爵の領地になる。
近くに小さなダンジョンがあるため、冒険者もいる。
10歳になると神託を受け、スキルを授かる。
授かれるスキルは1~3個で魔法もスキルの1つになる。
基本的には生涯そのスキルのみとなる。
魔法や武器のスキルは人気で手にした人は冒険者や騎士になることが多い。
スキルは修業で成長し、人によって潜在能力は異なる。
貴族や大商人たちは大きな街や王都で神託を受け潜在能力の確認までする。
神託の際に自分のスキルはステータスプレートに刻まれ、身分証として使用される。
再発行もできるが、いろいろと面倒らしい。
小さな町や田舎者が10歳で神託を受けずに、遅れて神託を受ける場合もたまにあるとのことだった。
門番は他にも冒険者ギルドの話、近くの街の話、通貨の話をしてくれた。
「心配すんなよ。スキルが悪くても働ける身体があればどうとでもなる。なんなら門番に推薦してやるよ」
「あぁ、ありがと。あんまり期待しないでおくよ」
内心びくびくしながら秘匿でスキルを隠した。
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現在のスキル
教師(鑑定E/S、教育C/S、武具扱いE/A、スタミナD/A)
魔法(火E/S、水D/S、風D/S、氷D/S、雷E/S)
秘匿D/A
貨幣の流通もあり
大金貨1枚=金貨10枚、金貨1枚=大銀貨10枚、大銀貨1枚=銀貨10枚
銀貨1枚=銅貨10枚
銅貨1枚100円ぐらいの価値