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冒険

冒険します

 街の周りは森に囲われ、街の門から街の門へと続く道は森を開拓して作られた。土がむき出しの舗装されてない道だが、何度も人や馬車が上を歩いて踏み慣らされている。左右の森の中は樹々でほとんど先が見えない。そんな街道をレイクは一人で歩いていく。


 隣街への移動やクエストのために街道を通るにしろ、街道沿い以外のクエスト以外のために森の中を進むにしろ、レイクが一人で歩くことはいままでなかった。

 いつも前には仲間がいて、後ろをついて歩いていた。仲間が道を示していてくれた。


 しかし、今は一人だ。一人になったとたん、変わらない街道が淋しいものに感じてしまう。


 レイクは頭を振って気持ちえお切り替えようと心掛ける。いつしか強くなって一人でも生きていくことができたら。一流の冒険者になることができたら。狂戦士にならずに魔物と戦うことができたら。

 きっと、仲間のもとに帰ることができる。

 そんな淡い期待を胸にしまって、足を前に進める。


 街から離れてかなりの距離を歩いている。そろそろつくころだろうとレイクは辺りを見回して警戒する。すると少し遠くに動く影が見えて、近くの木の影に身を隠す。


 動いたのは目標のフォレストドッグ。成体二匹と幼体一匹がともに行動している。茂みに身を隠すための小さい身体。威圧的な鋭い瞳。獲物を噛み千切る、獰猛な牙。夜の森に溶け込むための黒い毛皮。街道を通る人間を襲う、人間を害する魔物。

 魔物。そう、種類は違えどレイクの村を襲ったのと同じ、魔物。

 人類に害をなす人類の敵。

 それを視界に入れた瞬間、レイクの中で眠っていた感情が一気に体全体を駆け巡る。理性がその憎しみの感情に包み込まれ、レイクにはもう目の前の魔物を駆逐することしか考えることができない。


「あああああああああああ!」


 木の陰から叫び飛び出すと、すぐさまフォストドッグは声の主の方へ警戒を強める。

 大剣を持って向かってくる敵に対して、父親と思われる個体が前に、ついで母親、その後ろに幼体のフォレストドッグが隠れるように構える。


 魔物たちにもう斬りかかることのできそうなほど近づいてきたとき、父親の個体がレイクめがけて飛びかかる。

 向けられた牙はレイクの喉元を狙い、怒りの形相で襲いかかる。


 しかし、レイクの持つ大剣が力まかせにとてつもない速さで振り下ろされて、空中に飛んでしまった父親の個体はそのまま地面に叩きつけられる。

 頭蓋は潰れ、赤い血潮が辺りに飛び散った。レイクの顔にもかかるが、それを気にすることなく、動かなくなった個体を無視して目の前で威嚇する母親の個体に目をやる。


 地面にぶつかり勢いが殺された大剣を再び持ち上げようと力を入れたところで、残った母親の個体が牙をむき出しにレイクに向かって走り出す。

 まっすぐ挑んだ一体目から学び、揺さぶりをかけながら向かってくる二匹目だが、逆にそれがレイクに時間を与え、大剣を振りかぶるまでの猶予を与えた。

 勢いよくレイクの首を狙って牙を向ける二匹目だが、それもレイクの振り下ろされる大剣によって、地面に打ち付けられる。


 二匹の死体によって辺りは血と肉片で散乱しており、レイクも、そして二匹の子供も血まみれだった。

 血の匂いがレイクの鼻をつくが、それでもレイクの正気は戻らない。まだ魔物は残っている。

 まだ目の前で小さくうなりを上げながらおびえるようにレイクを見上げる一体の魔物。両親を殺され、死が目の前にあると悟ったフォレストドッグの幼体がいた。


 動くことのできない幼体の魔物にゆっくりと近づくレイク。フォレストドッグの幼体はさらにうなりを強めて威嚇する。魔物であり、成長すれば人間の脅威になりえる存在。しかし、それでも見た目から殺すことのできずに幼体などは放置する冒険者も多数いる。恨みを持って成長し、人間が襲われることや、その場で不意を突いて殺される冒険者もいるため、ギルドは幼体の駆除も呼びかけている。それがわかっていても幼い見た目の生物を殺すことに対して精神を削る者もいる。


 だが、レイクは大剣を振り上げ、すぐさま振り下ろす。小さな悲鳴とともに辺りに血しぶきが飛ぶ。小さな身体はいともたやすくこと切れる。

 レイクは息を切らして大剣を地面に突き刺す。目の前の敵をすべて殺したことで、やっと正気を取り戻す。体力を残すことなど考えていない。ただ魔物を殺すためだけに動く。それゆえに正気に戻ったときには疲れがレイクの身体にどっと流れてくる。


 レイクの周りには三つの死骸。頭部が破壊され、どれも原型をとどめていない。

 フォレストドッグから採取できるのは牙や爪。しかしどれも粉々であったり、ひび割れていて使い物にならない。


 これがレイクの弱点。魔物に立ち向かえる力と引き換えの効率の悪さ。ただただ魔物への憎しみを、解消するためだけに振るわれる剣に、素材の回収などに割く意識はありはしない。 

 討伐した証としてボロボロの素材をとって残りは埋めてしまう。


 新品のように綺麗なナイフを見てレイクは元のパーティーを思い浮かべる。素材の回収はアイリがやってくれていたし、今も体力がほとんど残っていないが魔物への憎しみを全力でぶつけるために戦闘後は疲れ切っている。だから持ってはいたがナイフを使う日はほとんどありはしなかった。


 帰り道を重い身体を引きずって歩く。やはり変わらなければいけない。魔物を見ても意識を保つ……それか魔物を見ないで済む戦い方を見つけなければ。心にそう誓って一人寂しく森の道を歩いて行った。

戦闘むずい

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