一歩
次です
レイクがパーティーを抜けてから3時間ほどたった。
そのレイクはというと……街の隅にある路地で膝を抱えて座り込んでいた。
元パーティーメンバーから覚悟を決めて去ったのはいいが、レイクは行く当てがなかった。
いや、レイクもまずは宿探しと街を歩いたはいいが、いざ宿の受付を前に何も話すことができずに撤退。それを数件繰り返し、今の路地裏で数時間を無駄に過ごす結果になっている。
というのもレイクは小さい頃に親を亡くし、それ以来ギロとアインと共に過ごしていた。しかし宿をとったりなどはアインがしてくれていたし、買い物、討伐依頼受付、素材換金など、ほとんどはアインとギロが行っていた。その後ろをひたすらついていくだけだったから、レイクに生活能力が身につくこともなかった。
パーティーの中と普段の生活の中で関わる人との関係がすべての閉ざされた世界で生きてきたレイクは有り体に言えばコミュ障だった。
空を見上げて雲が流れていくのをずっと見ていたが、状況は好転しない。それもそのはず、なにもしていないのだから。
オレンジ色へ変化し、そしてもうすぐ日も落ちようという時間帯。このままここで眠り、凍死していくのかもしれないと、別々の道を歩き出した元パーティーメンバーたちにもうしわけなさを感じながらレイクは目を閉じてうずくまる。
「おじさんはこんなところでなにをしているの?」
幼い声に声を掛けられ、目を開けるレイク。
目の前には10歳くらいの幼い少女がいた。肩より長い黒髪、澄んだ青い瞳。黒い洋服は幼い少女すら怪しく大人びた雰囲気にしている。
少女の瞳はまっすぐ座ったレイクを見下ろす。どこか上からな目線は、まるでレイクを虫であるかのように見下していて、彼女の後ろに輝く月明かりが余計に彼女を怪しく魅力的に演出している。
そう、それはうわさに聞く、この世に数体しかいない特別な種族。人間の姿で人を襲い、高い賞金を懸けられている、人間よりも高位の存在、吸血鬼のような……
「マリア!もうすぐごはんよ!」
「は~い!」
すぐ近くから女性の声がして、その声に少女は明るく返事をする。種所の近くにおいてあっつた黒い袋をレイクのすぐ隣の大きな箱に入れると、レイクが座っている隣の建物に向かって走っていった。
「ゴミはちゃんと捨てられた?」
「うん!ねぇママ、ゴミ捨て場になんか変なおじさんが……」
そんな声が閉まっていく扉の中から聞こえてくる。
少女は吸血鬼などではなかった。ただの街に住む人間の女の子だった。レイクが見下されたように感じた視線は、家の隣に座り込んでいる不審者を見る、ただの警戒心からくるものだった。レイクを無職の放浪者と決めつけ、家に近づく怪しい人物への敵意。
それに気が付いたレイクは立ちあがり、歩き出す。
幼い少女のしていい目ではなかった、と自分を戒めとりあえず宿探しを再開しようよ決めたのだった。
なんとか宿を確保したレイク。少女から向けられた見下す目線に背中を押されて、なんとかジェスチャーと相槌で一言も発さずに、一泊を勝ち取った。レイクにとって初めての達成感である。
しかし宿を確保してもそれだけで生きていけるわけではない。食事をとり、仕事をして、継続的に生活していかなければいけない。冒険者としてギルドへ行って依頼を受けて討伐に行く。素材買い取り、討伐報告など多くのことをこんどからは自分一人でやらなければいけない。
固めのベッドに寝転がり、明日からの生活に不安を覚えながら目を閉じる。目を閉じると今までの思い出が頭の中に流れていく。
仲間との思い出がレイクの頭に、心に、絡みついて剥がれない。レイクの瞳から涙がこぼれ、レイクの意識は暗闇の中へと落ちていく。レイクが一人で進み始めた最初の日が終わる。
次でした