追放
書いたやつを小分けにして投稿してみます
「レイク、お前は一人でやっていけ」
「え……?」
それはいつものようにクエストから帰ってきた日のことだった。ギルドで受け取った報酬を分配していて、リーダーであるギロが決心したかのように突然レイクにそう告げたのだ。
「なんで、なんでだよギロ……」
問われたギロは気まずそうに、しかしレイクをまっすぐと見て何も答えられずにいる。
「アインも何か言ってくれよ…」
気遣い上手なアインはいつもチームをまとめている、ある意味中心的な人物だった。そんな彼女にギロの突然の追放宣言に対してどうにかしてもらおうと考えていた。しかし、彼女は悲しげで辛そうな表情をしつつも何も言ってはくれない。彼女もこのことを知っていたようだった。
「ショナー……」
ショナーは少し前からこのチームに入った短剣使い。臆病な性格だが、優しい一面を持っていることをレイクは知っている。そんな彼もその優しさからか気まずそうにレイクの目を見れずにいる。
「理由はお前自身がよく理解しているんじゃないか?」
決心したかのようにギロは口を開く。
本当はきっと理由がわかっていたのだろう。レイクは俯いて何も言い返せずにいる。
レイクは幼い頃、魔物に家族と村の全員を食い殺されている。それが原因でレイクは魔物を見ると我を忘れて狂ったように襲いかかってしまう。
しかしそれは制御できないというだけで悪いことばかりではない。我を忘れて目の前の敵を殺すことだけに集中することのできるレイクは、通常の状態よりも思い切り闘うことができて、セーブされることがない分、狂化状態のレイクは強い。これまで大きな怪我がなく戦えていたのはこの状態になることも大きいだろう。
だが、レイクやギロの生業としている冒険者という職業は魔物討伐の成功報酬だけで生計を立てているわけではない。
魔物を討伐することで得る討伐報酬。そして魔物の素材を剥ぎ取って換金することでも報酬を得ることができる。薬草や鉱物の採集などの依頼もあるが、ギロたちのチームが主に受けているのは魔物の討伐依頼だ。
しかし制御されることのないレイクの戦闘は、ただ目の前の敵を倒すことだけしか考えられておらず、そこに討伐した後の素材のことなど頭にはない。
レイクと戦った魔物のほとんどは使える素材がまともな状態で残っていることはなかった。
もちろんいままでやってこれたように討伐報酬とわずかな素材報酬だけでも生きていくことはできる。むしろただ生きていくためだけに冒険者をするなら余裕を持って闘うことのできる現状の方がよかったりする。
「だが、俺たちは一流になりたい。冒険譚で語られるような、名前を聞けば誰もが知ってるような、そんな冒険者に憧れて俺はこの仕事を選んだ。それはお前を一緒のチームに誘った時にも言ったな」
レイクだけではない、アインも、ショナーも、ギロの語った夢に同調してこのチームでやっていくと決めて入ったのだ。
それにはレイクがいる現状では届かないものだった。アイテムを充実させて、武器を今よりもいいものにして、性能のいい防具で身を固めて、さらに強い魔物と、そして新しい街に、そうしてチームの名前を世界に轟かせる。そのためにはどうしても金が必要になってくる。だから今の生きるための金しか得られない状況の改変を。
「お前も素材の買い取りは無理でも、討伐報酬を分けなければ、それなりの額が手に入る。お前は強い。俺はお前の足を引っ張りたくない」
違う、そう言いたい。ギロたちがいたからやってこられたのだと。それでもいうことはできない。うつむいて何も返せずにいる。
「だから……」
このチームから抜けてくれ。
ギロだって何も考えずにレイクの追放を決めたわけではない。レイクは隣の村に住んでいたギロとアインとはよく遊んでいた。村が魔物に襲われて独りになってしまったレイクに何かと世話を焼いていたのも二人だ。冒険者になると村から出る時、一人残していくことを心配したギロの優しさでレイクも冒険者になることになった。
その時の差し伸べられた手はレイクにとって暗闇に照らされた光そのもので、いまでも鮮明に記憶している。
「わかった……」
「えっ?」
「俺は一人でやっていくよ……」
「レイク……」
これ以上ギロに言わせてはいけない。今まで差し伸べられた手に甘えて、縋って生きてきた。その終わりまで彼に背負わせてはいけない。そう感じたレイクは一人で歩く道を選ぶ。
ショナーの心配そうな顔。アインの悲しげな顔。ギロの辛そうな顔
忘れることはないだろう。引け目を感じる彼らの顔を。
ギロは懐から重みのある袋を一つ、近くのテーブルの上に置く。少し開いた口から覗くのは通貨として使われる金の硬貨。
「少ないが受け取ってくれ」
一週間の宿代と食事代くらいならまかなえる量。余裕のあるわけじゃないパーティーにとってはかなりの大金だ。それを知っているレイクは袋を見ながら悲し気な表情を見せる。
「ありがとう」
その袋を大事に受け取り扉へと向かっていく。3人の横を通り過ぎる形で。
「ギロ」
「あぁ」
「きみの判断はいつだって正しかった。だから気に病むなよ」
「……」
「アイン」
「……っ!」
「ギロたちのこと頼むよ」
「……うん」
「ショナー」
「はい……」
「頑張ってくれ」
「……はい!」
それぞれにわかれを告げてレイクは部屋から出る。振り返りはしない、閉まる扉の音がレイクと3人との何かが切れる音のように聞こえた。
(あぁ、そうか)
あの時取った手が離れて、その手によって生まれた絆が切れたのか。
読んでいただきありがとうございます
どこまでいけるかわかりませんがよろしくお願いいたします