8話 リュウ・レフラー
裁縫科の教室に入ると、私は最後のようで数十人の生徒が、大学の教室と変わらない机と椅子に座っていた。
やっぱり裁縫科は花嫁になる上で技術を学びたい人間が多いのか、女性ばかりで男性は数える程度しかいないわね。
どこに座ろうか教室を見回していると、1番後ろの席にさっき魔獣を手なずけていた幼い見た目の少年が座っている。
私と同学年で同じ科だったんだ。
魔獣をあそこまで手なずけておきながら魔獣使い科じゃないのね。
ところでミオ・サクラは、裁縫科の教室に向かっていたみたいだったけど、姿が見えないわね。
目立つ服を着ている私は注目を集めるのはしょうがないから、極力目立たないように1番後の席に座るとしましょう。
私は幼い見た目の少年の隣に座ると、少年はあからさまに私から距離を取る。
私何かしたかしら?
それにしてもこの少年に見覚えがあるのよね。
何か忘れてはいけないような……。
私が席について間もなく、裁縫科の年配の髭を生やした優しそうな白髪の担当教師が教室にやって来た。
「入学初日の日に申し訳ありませんが、悪いニュースを伝えなきゃいけません」
最初の学校生活の説明より先に悪いニュースとは幸先が悪いわね。
一体何かしら?
「先ほど起きた魔獣の脱走と暴走により、裁縫科の生徒のミオ・サクラが左腕と右足の骨折という大怪我をしてしまい、しばらく授業を受けられなくなってしまいました。これから数ヶ月ほど遅れて登校してきますが、授業についていけず困っているようなら手助けしてあげるようにしてください」
わ、私の行動のせいで、今までにはない展開になってしまったわね。
ミオ・サクラには申し訳ないことをしてしまったわ。
いつか、お詫びをしないと……。
重要事項を話した後、担当教師は裁縫科の学園生活の説明をする前に、生徒たちに自己紹介をするよう言ってきた。
前の席の右側から順番に自己紹介をしていく。
私が自己紹介した後、幼い少年が椅子から立ち上がり、自己紹介をする。
「俺の名前はリュウ・レフラー。俺は両親が営んでいた洋裁店を復活させるために裁縫科に入った。俺は勉強しにこの学園に来ただけで、貴族と仲よくしようとは思っていないからそのつもりで」
ずいぶん感じが悪いのは置いておいて、リュウ・レフラーって言ったわよね?
リュウ・レフラーと言えば、私が不幸な人生を送ることになる原因のミオ・サクラが革命を起こす仲間じゃない!
リュウ・レフラー。
平民の生まれながら風と土の2属性の女神の加護を授かる。
前の人生でリュウは、ミオ・サクラと一緒に平民のために服を作るパートナーになり、生まれながらに魔獣たちを手なずける才能で、ミオ・サクラと仲間たちと一緒に、魔獣たちを従えて皇族派の貴族たちを制圧していたわ。
確か、リュウはこの世界にはない服を作るミオ・サクラに興味を抱き、一緒に服を作るようになる上で、誰にでも素敵な服を作ろうとするミオ・サクラに惹かれ合って結ばれる。
その一方で、リュウは貴族として傲慢な態度を取り、平民を見下すオルガを嫌うのよね。
自分の運命を変えるきっかけを作るリュウの顔を忘れていたなんて。
自分ながら恥ずかしい。
私の破滅につながる人物の登場に戸惑いつつ、隣に座るリュウ・レフラーを見つめていると、リュウは眉間にしわを寄せてこちらを睨み返してくる。
確かリュウは貴族を嫌っていたから、私を嫌っているのは間違いないようね。
◇◇ ◇ ◇ ◇
それから1カ月、裁縫科では裁縫の基本について勉強している。
裁縫の勉強はもちろん、技術向上のために裁縫の実習もしているけど、【洋裁神具】を持っている私には裁縫の基本など関係ないわけで、退屈な時間を過ごしている。
でも、服作りをする上で必要な知識や技術の授業はいい勉強になっているわ。
貴族が着るよう定められている、バッスルとコルセットを使ったバッスルドレスを着ていない私に、先生たちから注意されることもあったけど、全員論破してやったおかげで、今でも好きな服を着ている。
裁縫の勉強中に【洋裁神具】を使って目立つわけにもいかないから、学校で支給される裁縫魔道具を使って授業を受けているけど、【洋裁神具】の便利さを知ってしまった今では裁縫魔道具は不便でしょうがない。
1カ月ほど基本を学んだ今、今日は実際に人のために服を作る実習を受けることになっているわ。
どんな人に服を作るか、どんな服にするかは当日になるまで教えてもらえないけど、私はお前の人生でも同じことをしていたので知っている。
今日の人のために服を作る授業では、3人1組で貴族の男性との結婚が決まっている平民の女性のためのウエディングドレスを作るというもの。
確か私はリュウとミオ・サクラと組むことになって、リュウとミオ・サクラの相談もなく勝手にウエディングドレスの方向性を決めて、リュウとミオ・サクラを困らせるんだったっけ。
そこでオルガの作ったウエディングドレスが思うようにいかなくなって、オルガはウエディングドレス作りを投げ出すんだけど、リュウとミオが協力して一からウエディングドレスを一緒に作った結果、ミオとリュウの絆が深まる、という感じだった。
ミオはいないものの、私はウエディングドレス作りを投げ出さず、リュウともう一人の仲間と協力してウエディングドレスを作れば、リュウの好感度を下げずに、不幸な人生からも逃れられることに一歩近づくはずよね。
とか考えている内に教師の口からペアを順番に発表されていった。
ゲーム通り、私はリュウとペアを組むことになったが、人数の関係で成績のいい私たちは2人で課題をするよう言われた。
それにしても、リュウの態度は以前そっけないわねぇ。
それでも、これ以上悪いイメージを持たれないように、親し気に接したほうがいいよね。
私はリュウに手を差し出し、笑顔で、
「これからよろしくね、レフラー君」
握手を求めたが、リュウはそっぽを向いて無視をする。
こっちが下手に出れば調子に乗りやがって……っ。
いや、待って。
平民のこいつは、見たこともない華やかなドレスを着た私が美しすぎて緊張しているのね。
だから私を直視できないんだわ!
初心なところがあってかわいらしいじゃない。
そんな経験の浅いリュウを責めてもしょうがないわね。
ここは私の海のように広い心で許してやろうじゃない。
リュウの本心を見抜いた私は、そっけない態度を取るリュウを許し、好感度を得るために魔獣を飼育している小屋で話し合うことにした。
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