7話 ヴェールトゥ魔法学園入学初日。
ヴェールトゥ魔法学園に入学する日。
貴族は魔法学園に入るのがほとんどの一方、平民が魔法学園に通うことが極稀ね。
魔法学園に通う平民は魔力が強いか、2属性以上の魔法石が使えるかのどちらかだが、貴族がほとんどの学園で平民の立場は低いことは確か。
一方で貴族はと言うと、男は好きな分野で好きなように学べるのだけど、女性は家柄がよく、成績も優秀な旦那にふさわしい男性を見つけるために、魔法学園に通っているものがほとんどね。
まあ、前の人生とは違い、今の私は旦那を見つけるつもりなんてこれっぽっちもないけど。
魔法学園に入学する際は寮生活が絶対で、その際の生活をサポートするメイドを一人連れてくることが可能だったので、私はアンを連れてきた。
魔法学園は貴族も平民も通うので、制服制度は存在しておらず、自分の好きな格好で学園に通えるので、私は飛び切りのドレスを何着も持ってきた。
魔法学園に入学してからも、コルセットとバッスルを使わないドレスを作るつもりなので、ドレスはどんどん増えるでしょうね。
私は花嫁修業のために前から裁縫科に入ることは決まっていたけど、この世界のすべての女性に素敵な服を着てもらうために、少しでも裁縫の技術が上げるためには裁縫科に入るのは必然だわ。
入学式の会場にアンを連れて向かっていると、同じく会場に向かう生徒たちから視線を感じた。
まあ、それはコルセットもバッスルも使っていないドレスを着ているからに違いないだろうけど、注目を集めるのは悪くない。
このドレスを着てきてよかった。
入学式の新入生代表の挨拶では、入学試験を満点でクリアしたとてつもないイケメンが挨拶をしていた。
名前も言っていたけど、あまりにもつまらない話が続いて覚えていない。
うとうとしながらも入学式が終わり、付き人のアンとは別行動。
付き人は身の回りの世話以外は別行動が基本らしいわ。
1人で私がこれから主に勉強することになる裁縫科に向かっていると、たくさんの騎士に囲まれながら学園内を歩いている少女には見覚えがあった。
その少女は、私を含む皇族派の貴族たちに反乱を起こして、私を不幸に導くミオ・サクラ。
異世界から美の聖女を召喚する際の儀式で召喚された女子高生で洋服店の一人娘よ。
小さい頃から洋服作りをしていたからか、日本の洋服作りの技術と知識でこの世界を変えることになる。
確かオルガは周りから特別扱いされるミオ・サクラが気に食わなくて、いじめるようになるんだったっけ?
ミオ・サクラをいじめないで、できるだけ関わらないようにしたら、不幸な人生から一気に遠ざかるんじゃない?
そうとなれば、同じ裁縫科だけど極力関わらないようにしましょう。
いじめるなんて以ての外!
そうと決まれば、同じ裁縫科の教室に行くんだけど、極力一緒にならないようにどっか寄り道してから裁縫科の教室に行こうかしら。
裁縫科に続く廊下から外れ、中庭を通り過ぎて、人通りの少ない大きな建物が見えるところまでやって来た。
大きな建物からは人間とは思えない鳴き声やら、重厚感のある物音がする。
何か動物でもいるのかしら? そうだとしたらかわいらしい動物を愛でてから裁縫科に行くのも悪くないわね。
動物らしき鳴き声のする建物の扉を開けると、そこには木々で溢れ返っている中に、家1つ分くらいありそうな大きさの魔獣たちが、鎖にも繋がれないで自由に動き回っていた。
危険度ⅯAⅩの魔獣がどうして鎖につながれていないのよっ。
このままじゃあ私がいつ丸吞みにされてもおかしくないじゃないっ。
存在がバレないうちにさっさとここから離れようと扉を閉めようとすると、扉に立てかけてあったモップが倒れた音で、魔獣たちは一斉に私のほうに向かってきた。
やってしまったっ。
ていうか、なんでこんなところにモップが立てかけてあるのよ、ちゃんと片付けなさいよね!
焦った私は、魔獣たちに背を向けて急いで魔獣から離れるように逃げ出すと、魔獣たちは群れになって私の後を追って来た。
「いやーーっ、誰か、助けてーーーーっ」
私が引き連れた魔獣たちは、学園内の敷地の中で暴れまくり、生徒たちは逃げ回っていて、中には魔獣から襲われたり、逃げ回ったりしている内にケガをしてしまった人が数人いた。
そんな中、私はしぶとく逃げ回っていて、目の前の扉に入ろうとした瞬間、足がもつれて転んでしまった。
もうおしまいだと思い、目を強く瞑った瞬間、魔獣が鼻息がかかりそうなほど近くまで来て、大きく口を開ける。
ああ、私は没落貴族になって野垂れ死ぬ運命より早く死んでしまうんだわ。
そう死を覚悟した時だった。
「お前ら、そんな奴を食ったところでうまくないぞ。俺のところに戻って来い」
魔獣の後ろから少年の声がした。
魔獣たちの隙間から声のしたほうを覗き込むと、魔獣たちの後ろにぶかぶかの服を着た身長の低く、幼い見た目の少年がいた。
見た目は12歳くらいに見えるけど、魔法学園には15歳になれないとは入れないので、おそらく私と同じくらいの年の生徒でしょう。
魔獣たちは少年の声に反応するように動きが止まり、私のところから離れて少年のほうへ戻っていった。
魔獣たちは少年に懐いているのか、少年の言うことを聞き、体を撫でられると喉を鳴らして甘えている。
魔獣は警戒心が強く、人に懐くことはまずないと聞いたことがある。
それなのに、少年の手にかかれば魔獣たちは飼い犬のようだわ。
この人は魔獣使い科の生徒かしら?
少年は魔獣たちの首輪に鎖をつけると、私の存在を無視するように、扉の前で座り込んでいる私を無視して魔獣の飼育施設に向かって消えていった。
ずいぶん感じは悪いものの、あの少年のおかげで助かったわ。
本当に死ぬかと思った……。
とはいえ、魔獣の被害がかなり出ちゃったわね。
被害者が少ないといいけど……。
この事件で忘れかけていたけど、そろそろ裁縫科の教室に行かないと説明が始まっちゃうわね。
ミオ・サクラもとっくに教室に着いただろうし、私も教室に行きますか。
ブックマーク、評価をいただけると励みになります。
お気に召しましたらよろしくお願いします!