閑話 使用人会議
オルガが眠りについた後、使用人たちが控える部屋に、布でできたクラリスの花のブローチを持った使用人たちが集まって会合が開かれていた。
内容はもちろん、オルガからの贈り物について。
「オルガお嬢様からのプレゼントだが、みんなはどう考える?」
神妙な空気の中、話を切り出したのは使用人を束ねる眼鏡をかけていて、姿勢のいい執事長のモーリス。
モーリスの問いに恰幅のいいメイド長のメリッサが答える。
「わがままで横暴なオルガお嬢様から感謝の言葉を言われたのも、プレゼントを贈られるのも初めてです。何か裏があるのかも……」
メリッサの言う通り、幽閉されたときに少しでもいい生活ができるようにの下心丸出しの賄賂です。
「でも、オルガお嬢様はアンにドレスを汚されて、ショックのあまり倒れてから、人が変わったように優しくなられました。今のお嬢様の態度を見ると、素直に今までのお礼と受け取ってよろしいのではないでしょうか?」
そばかすがチャームポイントの新人メイドのファティマの意見にみんなの言葉が詰まる。
確かに以前に比べたらオルガの性格はマシになったのかもしれないが、裏がないと言えば嘘になる。
だが、使用人たちは、あのオルガから贈り物をされたという信じられない現実に、オルガの思惑など想像すらしていなかった。
使用人たちが黙り込む中、腰を曲げた年配の庭師のトミーがオルガからの贈り物の、布でできたクラリスの花を見つめながら、
「オルガお嬢様から頂いた白いクラリスの花言葉を知っているか?」
「花言葉?」
「白いクラリスの花言葉は、『私とあなたは対等』、『尊敬』、『大事な存在』と言う意味が込められているんだ。もしかしたらこの布でできた白いクラリスの花は、オルガお嬢様の使用人たちに対する想いなのではないか?」
大きな勘違いである。
「そんな! あのオルガお嬢様がそんな意味を込めたとは思えないわ!」
まったくその通り。
「で、でも、オルガお嬢様はあんなに楽しみにしていたドレスを汚しても怒りもせずに、私が吟遊詩人になるためにわざわざ服を作って協力してくれました! 今のオルガお嬢様は以前とは違い、わがままを言わなければ横暴な態度も取りません。きっとオルガお嬢様は今までの態度を思い返して、改心なさったに違いありません!」
「確かにそうかもしれないですね。オルガお嬢様の髪飾りと同じ花の贈り物をしてくれたということは、クラリスの花の花言葉同様、私たちを対等の立場で見てくれたということに違いありません。それほど私たちを大事に思ってくれるなら、オルガお嬢様のために一生誠心誠意込めて仕えようではありませんか」
「「「はいっ」」」
オルガが白いクラリスの花を選んだのは、白い布が余っただけだということを、この使用人たちは思いもしないだろう。
オルガの適当に考えて作ったクラリスの花が、ここまでの深い意味を持って作ったことになっているとは、オルガも予定外だったに違いない。
それほどまで今までのオルガでは、使用人たちに贈りものを送るということはありえないことだったようだ。
オルガの思惑など知らず、使用人たちがオルガのために一生使えると誓った今、オルガオルガは破滅の道から一歩遠ざかった。
そんなことなどつゆ知らず、オルガは明日の入学式に向けて、よだれを垂らしながら爆睡している。