34話 第一皇女御用達洋裁師
ドレスのお披露目会で、シャーロット様の成人の儀のドレスが私のドレスで決定してまもなく、私はレオンに王宮の応接間に呼び出された。
私とレオンは向かい合って座りながら話を始める。
「この度はシャーロット様の為に素敵なドレスを作っていただき、ありがとうございます。きっと素晴らしい成人の儀になると思います」
「それはよかったです」
「シャーロット様のことを、あそこまで考えてもらったドレスを作ってもらえるとは思いませんでした。やはり、あなたに作ってもらうという私の判断は正しかったですね。そこでこれを機にオルガ様に提案があります」
「なんでしょう?」
「シャーロット様の専属の洋裁師になりませんか? 契約料もそれなりの額を払いますし、王位継承者一位であるシャーロット様の専属洋裁師になれば、オルガ様の洋裁師としての箔もつくでしょう。悪い話ではないと思いますが?」
第一皇女であり、皇位継承者一位のシャーロット様の専属洋裁師か。
まあ、素敵なドレスを作った洋裁師を、シャーロット様の専属の洋裁師にするつもりだって言っていたものね。
皇位継承者一位のシャーロット様の専属洋裁師になれば、私の名前は貴族の間で流れるだろうから自然と仕事の話が舞い込んでくるし、お父様を頼らなくても、お店を開くお金や経営するお金もどんどん入ってくる。
悪い話どころか最高にラッキーで名誉な話なんでしょうけど、私は空腹と寒さで死ぬ運命から逃れるためにも平民に素敵な服を作って、すべての女性がおしゃれな服を着られる世界にしなければならない。
そのためにも、平民を相手に商売がしなければならないから、シャーロット様専属の洋裁師になるわけにはいかないのよね。
でも断るようなことをしたら洋裁師生命にかかわるどころか、私の命すら危ないだろうし……。
「言っておきますが、もしも断ろうものなら反逆罪で死罪もあり得ます。まあ、そんなバカなことはしないと思いますが」
「しません、しません! ですが、1つだけ提案があります」
「なんでしょう?」
「専属ではなく、御用達にしてほしいんです。私にはどうしても叶えたい夢があって、その夢を叶えるにはシャーロット王女殿下の専属洋裁師になったらいろいろと困ることがあるんです。専属洋裁師にならなくても、もちろんシャーロット様のドレスは最優先させてもらいます。だからシャーロット様の御用達の洋裁師になることで手を打ってくれませんか?」
レオンは顎に手を当ててしばらく黙り込んだ後、委縮する私に対し、明るい声色で、
「そういうことなら無理強いするつもりはありませんので、御用達でも構いません。その代わり、オルガ様も言った通り、シャーロット様の依頼は最優先にしてください。いいですね?」
「はい、構いませんわ」
「ではこれからよろしくお願いします」
レオンは真っ白な紙と、緑色のインクに小さなナイフを差し出す。
「では、この紙にサインをしてください」
レオンに言われるがまま紙にサインをして3秒ほど経つと、真っ白な紙が燃えてなくなると同時に、私の手の甲に焼けるような熱さを一瞬感じた。
思わず手の甲を見ると、紙に書いた文字が緑色に光りながら手の甲に刻まれていたと思えば、数秒ほど経つと消えていた。
「これで契約は完了です。これからよろしくお願いします」
「はい、今後ともよろしくお願いいたします」
軽く頭を下げ、シャーロット様の御用達洋裁師になる契約をした後、レオンは学園まで送ってくれると言ってくれた。
そんなことをしなくてもいいと言ったのだが、「シャーロット王女殿下のためにあんなに素晴らしいドレスを作ってくれたお礼です」と言って引き下がらなかったので、周りの使用人たちの視線に耐えながら学園まで送ってもらうことにした。
その時にレオンに聞かされたが、私の紺色のグラデーションドレスを切り刻んだ件で、レオンがイアンさんを問い詰めたところ、罪を認めたそう。
どうしても私のドレスに敵わないと思い、犯行に出たという。
シャーロット様の成人の儀のドレス作りの妨害をした罪として、洋裁師の資格を取り下げ、二度と洋裁師と名乗れなくなったそう。
なかなかの重い罪が下ったのね。
まあ、私のドレスを切り刻んだから当然の罰よ。
そんな話をしている内に学園の前につき、学園に向かう私をわざわざ馬車から降りて見送ってくれた時だった。
私の後ろに立つレオンは、私にくっつきそうなほど密着すると耳元で、
「これからもどうぞよろしくお願いします。本当にありがとうございました」
と呟かれ、あまりの近さに動揺して振り返った時には、レオンはいなくなっていた。
「な、何なの? 心臓に悪い……」
それからしばらく、私の心臓はうるさいままで、落ち着くまでにかなりの時間がかかった。
私の作ったドレスを着たシャーロットの成人の儀が行われた後、国民に顔合わせをするべく王宮の敷地に平民も貴族も関係なく無料で招くと、王宮の敷地に入りきらないほどの平民が集まった。
国民たちは見たこともないシャーロットのドレスに息を漏らし、シャーロットの国民を想ったスピーチは貴族も平民も関係なく心に響いたようだった。
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