32話 草木染め
森を出た私たちはすぐさま王宮に向かい、騎士たちは早急に上司に森の中で起きたことを報告している中、私は休む間もなく王女の別邸の調理場へ向かった。
調理場で草木染めに必要な植物と道具を準備し、寝る間もなく作業を始めることにした。
『まず布の重さと同量の植物の葉を用意します。
乾燥したものなら布の半分の重さの葉で構わないですけど、今回は時間がないから大量に植物を採って来て、生の葉を使いましょう。
まず、布を植物で染める前に、人工的にタンパク質を布に染み込ませなきゃいけません。
その為に牛乳と水を1対1で割り、鍋に入れて布を20~30分漬け込みます。
その間に染料を作りましょう。
採取した植物の汚れを水で洗い流した後、不織布に入れます。
そして、染める物の重さの30倍の水を鍋に入れ、植物が入った不織布を入れて1時間煮ます。
最後に煮汁をこせば染料の完成です』
次は何をするの?
『次は媒染剤を作ります。
媒染とは煮出した染料と布の繊維を結び付ける工程のことです。
これは王宮の薬草庫に保管されていたミョウバンを使ってやってみましょう。
まず、40~50℃のお湯をつくります。
水1ℓに対して2gのミョウバンを入れて溶かして、布の重さの約30倍の媒染剤を作ればOKです。
準備も済んだことだし、ようやく布の染料→媒染→仕上げの手順ですね。
⒈染料を火にかけ40℃くらいになったら布を入れ、時々混ぜながら20分ほど煮る。
⒉染色中の温度は60℃くらいまで上げる。
⒊20分経ったら布を水洗いして、染料を洗い絞る。
⒋好みの色合いになるまで1~3を繰り返す。
⒌染め上がったら水で布をよく洗い、20分ほど媒染剤につける。
⒍媒染剤につけ終わったら、よく水洗いして日陰で干す。
⒎乾いたらあて布をしてアイロンをかけ、色を固定してようやく完成です』
一晩寝ずに20種類の植物を試したけど、思っていたような色は出ないわねぇ。
これで最後の植物だ。
どうかうまくいきますように!
慣れた手つきで1~3の作業を繰り返すこと5回——。
「この色、すごく綺麗……。私はこの色を求めていたんだ!」
◇◇ ◇ ◇ ◇
ドレスの完成披露会の日がやって来た。
私のドレスを披露するのは最後で、他の洋裁師たちのドレスは金貨30枚以内でできる最大限の豪華なドレスを作っていて、色合いはとても派手で動きづらそうね。
「私、イアン・ダグラスが作ったドレスは、同系色の赤が上から下に行くにつれて薄くなっていて、金貨30枚以内で作ったとは思えない華やかさを演出しました」
私の一つ前にドレスを披露したイアンさんのドレスは、私が作ったはずのグラデーションのドレスのようね。
私の作ったグラデーションドレスは、レオンと限られた使用人にしか見せていないので、私とよく似たドレスを披露したイアンさんは、私のドレスを切り刻んだ犯人に間違いないわ。
大広間にいる人たちはイアンさんの作ったグラデーションドレスを見て、吐息が漏らすほど見とれている。
「すごい! あんなドレスは見たことがない。よく金貨30枚という制限の中であんなに素晴らしいドレスを作ったもんだ」
「シャーロット様のドレスはイアン様の作ったドレスで決まりじゃないか?」
この場にいるほとんどの人が私のドレスを見る前から、イアンさんの作ったグラデーションドレスで決まりと思い込んでいるようね。
あのドレスは私が思いついたものなんだけど……。
イアン・ダグラス、いつか罰が当たるから覚悟していなさいっ。
でも、イアンさんがサクラのドレスをめちゃくちゃにしてくれたおかげで、私が持っているアイデアと技術、知識を最大限に引き出し、よりいいものが作れた気がするわ。
ポジティブに考えることにしましょう。
イアンさんには感謝するくらいじゃないと、腹が立って仕方がないものね。
「次は、オルガ・オールバーン様のドレスを披露してもらいます。オルガ様、前へ」
大広間の端のほうで横一列に並んでひざまずく洋裁師たちの列から、玉座の前まで移動すると、シャーロット様の従者たちが布のかかったドレスを持ってきた。
シャーロット様の従者の一人がドレスにかかった布をとると、そこにはほかの洋裁師の作ったドレスとは、何もかもがまるで違うドレスがあった。
「何だ、あのドレスは……?」
「あんなドレスは初めて見たぞ」
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