30話 西の森
フランツさんは、クビになるのを防いだことと、商品化に協力したお礼として無料でオーガンジー生地を分けてくれた。
所持金が限られている私にはとても嬉しいわね。
シェリーには私をミルワード生地屋まで案内してくれたお礼として、オーガンジー生地で作った服を無料で渡した。
シェリーの体に合わせて作ったから、もともとプレゼントするつもりだったんだけど。
「それにしても、あなたは見たことのない服を作るのね。聖女専属の洋裁師のようだわ」
「ありがとうございます」
「サクラ、よかったら私専属の洋裁師にならない? 給料や待遇は保証するわよ」
「ありがたいお話ですけど遠慮しておきます。ローラル皇国には私の服を作ってもらうのを待っているお客さんがたくさんいるので」
「そう、残念。あなたにはもっと早く会いたかったわ」
「じゃあ、私は失礼します。やらなきゃいけないことが待っているので」
「ええ、またね」
駆け足でその場から去ると、シェリーの付き人らしき人たちが、息を切らしながらシェリーの元へやって来た。
「やっと見つけた! 今までどこにいたんですか、【聖女】様!!」
「ちょっと興味深い人と一緒にミルワード生地屋にいたのよ。すごく素敵な服を作る洋裁師で、本気で専属の洋裁師になってほしかったけど、断られてしまったわ」
「聖女様がそんなに気に入る洋裁師がいたんですか!? そんな人が存在するんですか!?」
「ええ、私が認める洋裁師が存在したなんて自分でも驚きよ。また会いたいわ」
チェスター領から、ローラル王国の端の町まで移動する馬車乗り場にやって来たが、最短な道でも1カ月半はかかるそう。
そんなんじゃドレスの期限を超えてしまうどころか、ドレスのお披露会にも間に合わないわよ!
おそらくだけど、商人ギルドになら転送魔法ができる魔道具があるかもしれないわ。
商人ギルドに行ってみましょう。
「申し訳ございません。今、商人ギルドに置いている転送魔法ができる魔道具は故障中で使えないのです」
「そ、そんなぁ!」
転送魔法でグラジオス王国に来たのはいいけど、帰る時のことを考えていなかった。
このままドレスの期限の間にローラル皇国に戻れないじゃないっ。
受付の前で頭を抱えていると、後ろから指で背中をつつかれて、何事かと後ろを振り返ると、赤毛の長い髪で巨乳のきれいなご婦人がいた。
「うちの店に転移魔法ができる魔道具がありますわよ。よければ使いませんか?」
「いいんですか!?」
話しかけてくれた女性はミランダさんという人物で、旦那さんが大きな魔道具を卸している店をしているらしい。
大きな魔道具を運ぶ際に人の手で運ぶには人材もお金もかかるということで、転移ができる魔道具を店に置いているそう。
私はミランダさんに連れられて、ミランダさんの旦那さんが経営する魔道具店にやって来た。
結構大きな店で、支店はないものの結構儲かっているらしく、ミランダさんの旦那さんの腹がそれを物語っているわね。
ミランダさんの旦那さんのハリーさんに挨拶をした後、店の奥に置かれている魔道具を使わせてもらい、ローラル王国に転送させてもらうことにした。
ミランダさんの店の魔道具の絨毯は王宮の魔道具より一回り小さくて、転移のズレも王宮のものより大きいそう。
今はそれくらいのこと気にしないわ。
何とかして今日中にローラル皇国に戻らないと、期日に間に合わないんだから。
「ミランダさんにハリーさん、本当にありがとうございます。今度チェスター領にやって来たときは、必ずご贔屓にさせてもらいます。もし、機会があったときは私に服を作らせてください。サービスするので」
「ええ、楽しみにしていますわ」
そして、魔道具によって転送された私は、ローラル王国の王都の中にある飲食店の男子トイレに転送された。
慌てて王都の飲食店の中にある男子トイレから抜け出して、飲食店の店主に王宮までの道のりを教えてもらった。
彷徨いながら皇宮にたどり着いたと同時に私の作業部屋に行って荷物を置くと、すぐにここから一番近い西の森に向かおうとしていた。
なぜなら草木染めに使う植物を探すためよ。
草木染めというのは、天然の植物の色素で布に染色すること。
草木染めは野菜や果物の皮を使ったり、コーヒーという飲み物などを使ったりするのけど、私の望んでいる色にならないはず。
だから私は森へ行って植物を一通り採取して、私が望んでいる色になる植物を探すことにした。
レオンからは一人で森に行くのは危ないと言われた。
どうしてかと聞くと、私が行こうとしているローラル王国の西の森に、騎士団と王宮魔導師団の隊が10隊集まっても、倒せるかどうかわからないほど強い魔物の被害報告が出たらしい。
国の勢力をかけて冒険者や王宮騎士団、王宮魔導師団が協力して倒そうと尽力しているそうだが、いまだに倒せていないそう。
なので、すぐさま数十人の騎士を手配して私の護衛を命じた。
まあ、いろんな植物を採るには少しでも人が多いほうがいいわよね。
さっそく私は、騎士たちに植物を入れる籠と森の精霊に供え物を持たせ、森へ行くことにした。
「よし! 行きますか!」
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