27話 チェスター領11番地
それにしてもこの紅茶おいしいなぁ。
私がいつも飲んでいる紅茶よりも私好みだわ。
どこの紅茶か教えてもらおうかしら。
「あの、この紅茶って、どこの紅茶でしょう——」
とっさにシャーロット様に紅茶の銘柄を聞こうと紅茶をテーブルに乗せようとすると、手が滑ってテーブルクロスを引っ張ってしまい、シャーロット様が飲んでいた紅茶がシャーロット様のドレスにかかってしまった。
「ご、ごめんなさいっ! 火傷していませんかっ!?」
「またですか」
いつの間にか後ろにいたレオンが呟く。
レオンはこぼれた紅茶に一枚の細長い青い紙をつけると、紅茶についた青い紙が赤く変色した。
「ポイズンペーパーが反応しました。この紅茶に毒が入っていた証拠です。しかも今回はかなり毒が強いですね」
「ど、毒!? 誰がそんなことを……。しかも今回は(・)、ってどういうことですか!?」
レオンは、紅茶がかかったシャーロット様のドレスを拭きながら詳しく教えてくれた。
皇后陛下は亡くなった皇后の子だったシャーロットではなく、実の息子のウォルターを皇帝の座に着かせるために、様々な方法で王位継承者一位のシャーロット様の命を狙っているそう。
毒を盛られることも少なくないそうで、何かを食べるときは必ず魔道具の『ポイズンペーパー』でチェックしてから口に入れるらしい。
本来なら、皇后陛下をシャーロット様の暗殺未遂容疑で牢屋に入れたいところだが、部下を使って証拠を隠蔽したり、下級貴族に濡れ衣を着せたりして、なかなか罪を裁くことができないとのこと。
「シャーロット様、何かを口に入れるときは私を呼んでくださいと何度も言っているでしょう。オルガさんが紅茶をこぼしてくれなかったら死んでいたかもしれないのですよ?」
「ご、ごめんなさい……。今度から気を付けます」
まるで注意をする母親と叱られている子供みたい。
「オルガさんのおかげでシャーロット様が無事で済みました。ありがとうございます」
「私のほうこそドレスに紅茶をかけてしまってすみません。火傷はしませんでしたか?」
「はい、大丈夫です。ただドレスにシミが……」
「これは洗っても落ちませんね。このドレスは捨てることにして新しい物を買うとしましょう」
シミって、服にこぼすとなかなか色が落ちないのよね。
むしろきれいな色がつくというか。
……なんか引っかかるなぁ。
シミはシャーロット様のドレス作りに関係することだった気がする。
紅茶は草を煮詰めて味と色を付ける。
それを応用すれば白い布に色を付けられるんじゃ……?
『正解。草で布を染める『草木染め』と言う方法があります。
このシミの要領で草木染めをして色をつければ、色がついている生地を買わなくても済むかもしれません。よく思いつきましたね』
その方法が成功したらだいぶ金額を抑えることもできる!
でも、草木染はどの布でも使えるのかしら?
『『草木染め』をするならあの生地が必要になってきます』
美の女神は私の頭の中にある布の特徴を説明し、布の映像も流してくれたおかげで、どのようなものかすぐに理解した。
「あの、王宮に虫の糸で出来た布はありませんか? 吸湿性と放湿性に優れているんですけど」
「虫の糸で? そのようなものは皇宮にはないですね。ローラル皇国の貴族が住む街にある高級な生地屋には売っているかもしれませんが、品質がいいものは少ない上、あったとしても原価よりかなり高くなると思います」
そんな、ただでさえお金がないのに!
だけど、品質が悪いものに高額のお金を払うわけにもいかない。
私が閃いた方法ではどうしても必要なのに……。
「王宮やローラル皇国にはオルガさんの求めているものはないかもしれませんが、布の一大生産地である『グラジオス王国』の『チェスター領』にならオルガさんの求めているものがあるはずですよ」
「本当ですか!」
「ええ、各国の王族が贔屓にしている生地屋に、オルガさんが欲しいものを送るよう言っておきます」
「それは結構です。できればいろんな生地を直接見て触りたいので、今からグラジオス王国に行ってきます」
「い、今から!?」
「はい、時間がないのですぐに行動しないと!」
すぐさま行動したい私は、レオンに頼んで王宮で使われている、転移魔法が施された絨毯のような魔道具で、グラジオス王国にすぐさま向かうことにした。
絨毯のような魔道具の上に立ち、行きたい場所の名前を唱えれば行けるそうだが、多少のズレは生じるそう。
多少のズレを覚悟した上でグラビオス王国のチェスター領に転送してもらうことにした。
「チェスター領11番地!」
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