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3話 小さな一歩

「もう⁉」

「体に合っているはずだけど、どんな感じか確認したいから一度着てみて!」



 私は完成した服をアンに差し出すと、アンは部屋の隅の衝立の中で私の作った服を着る。


 洋裁神具を使って作った服は素敵にできているのかしら?

 アンは私の作った服を気に入ってくれかしら?


 そんなことを考えながら3分が経ったかしら。

 部屋の真ん中に置かれている椅子に座っていたら、衝立の中から現れたのは以前の男の子に間違えられていたアンとは思えない、女性らしく華やかなになったアンがいた。



「わぁ——っ、かわいい——っ」

「ほ、ほんとですか? 変じゃありませんか?」

「鏡は見ていないの?」

「こ、怖くて見る勇気がなくて……」

「それはちょうどよかった。椅子に座って。髪型を整えるから」



 私はおしゃれが好きすぎるあまり、髪型のアレンジを自己流で勉強していたので、ヘアアレンジはお手の物。

 たとえ髪が短く、ボーイッシュなアンでもかわいらしくすることはできるのよね。


 アンを椅子に座らせた私は、アンのショートカットの髪型の両サイドを編み込むと、女の子らしさが増し、だいぶ印象が変わった。

 私の全身チェックが終わると、部屋の端の布がかかっていた姿見鏡の前にアンを立たせ、布を取る。

 鏡を見た時のアンは、『鳩が豆鉄砲をくらう』という言葉がぴったりな顔をしていたわ。



「本当に私なんですか? 自分で言うのもなんだけどすごくきれい……。私ってこんなにきれいだったんだ」



 服を作った私が言うのもなんだけど、本当にアンは数段ときれいになっているように見えるな。

 服をアレンジしただけでこんなにも変わるとは……。

 でも、服がおしゃれになっただけで、こんなに美しくなるものなのかな?

 何かがおかしい。



『オルガは私を体に宿したことで、【鑑定】、【回復魔法】、【アイテムボックス】が使えるようになっています。そんなに気になるならステータスを確認したらどうですか?』



 そんな特典がついてきているとは。

 美の女神の力すごすぎでしょ。

 じゃあ、さっそく鑑定でステータスを確認してみようかしら。



「 『鑑定』 」




【 名 前 】 アン・マーベル   

【 年 齢 】 17歳

【 職 業 】 無職

【 レベル 】 11 

【 美 貌 】 126 (+16)

【 魔 力 】 98 

【 体 力 】 139 (+12)

【 守護石 】 火魔法石

【 スキル 】 歌   Lⅴ67 (+3)

 ダンス Lv50 (+2)

 料理  Lⅴ11 (+1)




「ぐひゃっ」

「何ですか!? なんで突然蛙を踏み潰したような声を出したんですか! やっぱり私、変ですか?」

「ち、違う違う! アンの変わりようにびっくりしただけ」

「本当?」

「本当、本当!」



 本当も本当。

 だって、美貌の数値が16も上がっているんから驚くに決まっているでしょ!

 美貌だけじゃなく、他の項目の数値も上がっているわ。


 そういえば、美の女神の力を増幅させるための美魔法って、人の美しさを増させる方法として、服を作ってその服に美魔法をかけることって言っていたわね。

 それってもしかして、私の作った服を着たから?

 考えられるのはそれだけなんだけど……。 


 ……鑑定で私の作った服を鑑定してみましょうか。



【 フリル袖のトップス 】

 美の女神を宿す者が作り、美魔法がかかった服。

 美貌をおよそ15%向上させる。

 二の腕を細くする。



【 つけ襟 】

 美の女神を宿す者が作り、美魔法がかかった服。

 顔周りの華やかさ、女性らしさをプラスする。

 1時間の間、持っているスキルをおよそ4%上げる。



 ぶふぉっ、やっぱり私が作った服が原因じゃん!

 これも美の女神を体に宿す私が作ったからに違いない。



「気のせいかもしれないけど、いつもより体が軽いし、喉の調子もいい。これならキレのいいダンスが踊りながら綺麗な声で歌える気がする」



 い、いろんなスキルが上がったから歌声に影響が出るかもしれないけど、体が軽いのはさすがに私のせいじゃないでしょ。



【 ショートパンツ 】

 美の女神を宿す者が作り、美魔法がかかった服。

 この服を着ている間、脚をきれいにする

 1時間の間、身体能力を10%向上させる。

 1時間の間、体力をおよそ10%向上させる。



 はーい、私の服の効果でーす。


 まさか私の作った服を着た人は美しくなる上、身体能力まで上がるなんて……。


 とはいえ、人を美しくする私の力は服に制限のあるこの世界では相当チートよね。

 もしこのことが知れ渡ったら、私は間違いなくひどい目に合うでしょうね。

 このことは私だけの秘密にしましょう。



「鏡の中の自分の姿に見とれてオーディションのこと忘れていました! 早く行かなきゃオーディションが始まっちゃう!」

「急いで向かいなさい。必ず合格するのよ」



 私の名前を平民たちに広めるためにもね。



「はい、必ず合格して見せます。本当にありがとうございました」



 アンは深く一礼すると、部屋を出ようと扉に向かっていったと思ったら、扉の前で止まり、私のほうに振り返って、



「私、オルガ様のこと勘違いしていました。オルガ様はとっても優しくて、私のような者にでも、ほかの貴族の方々のように接してくれる女神様のような方だったんですね。私はオルガ様の下で働けてとても幸せです」



 女神様だなんて……この子わかっているじゃない。

 でも、オルガに力を貸したのは私が不幸な人生を歩まないためなんだけど……。

 まあ、そういうことにしておきましょう。



「私もアンのようなメイドが私の下で働いてくれてとてもうれしいわ。アンは私にとってかけがえのない存在よ」



 私の出せる限りの善人面にアンはまんまと騙されて涙を流す。

 なんか騙しているようでちょっと心が痛む……。


 そんな葛藤がるとは知らないのか、アンはまた深く一礼すると、駆け足で吟遊詩人のオーディションに向かった。




 ◇◇ ◇ ◇ ◇




 後日、無事に吟遊詩人―オーディションに合格したアンの行動は、前の人生とは大きく異なっていた。



「吟遊詩人になることを断ったぁっ!? 一体どうして?!」

「私、吟遊詩人になるより、主であるオルガお嬢様が、ただのメイドである私のために一生懸命服を作ってくれた姿を見て、一生この人に仕えるべきだと思ったんです」



 そ、そんな……、不幸な人生から遠ざけるために協力したのに、これじゃあ服を作った意味がないじゃない!

 こうもしている間にもバッドエンドは着々と進んでいるのに……。



「何より、私はオルガお嬢様のそばにいたいんですっ」



 …………まあ、貧しい生活を送り、食べ物に困った時、味方が一人でもいれば少しでもマシになるかもしれないわね。



「まあ、いいか」

「どうかなさいましたか?」

「アン、今日から私の側近になりなさい。給金も3倍になるだろうから、そのお金を家族に仕送りしてあげたらいいわ」

「わ、私がオルガお嬢様の側近に!? よろしいんですか?」

「ええ、あなたが信用できることはわかったからね。これからよろしくね、アン」

「はいっ、よろしくお願いいたしますっ」



 とりあえず、私の人生は行動次第で変わることはわかった。

 なら不幸な人生を歩まないために、美の女神の力と【洋裁神具】でこのおしゃれが制限されるこの世界のすべての女性に、おしゃれな服を作って今度こそ幸せになってやろうじゃない!


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