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25話 グラデーションドレス

 私は広い作業部屋の真ん中に置かれている机の前に座り、ペンを持って美の女神と相談しながら、紙にイメージしたドレスを書いていく。



『シャーロット様を見たところ、肌が白く、透明感があります。

 それに品があって、知的で洗練された印象なところから見て、私の知識を参考にすると紺色が最適と思われます』



 王宮で見たドレスはどれも派手色合いの物ばかりだったけど、紺色にすることで上品さと高貴な感じが出せるし、肌がきれいに見える効果もあるわ。

 紺色のドレスにすれば、王族な派手なドレスとは違って今までにないものとして印象に残ることもできるし、目新しいものもあると思う。


 私が美の女神とともに考えに考えたドレスは、上から紺色の生地を使い、下に行くにつれて明るい色の生地を使って、鮮やかで華やかなグラデーションのもの。

 袖はバブル・スリーブで膨らみを持たせ、袖口はサーキュラー・カフスと呼ばれる細身の袖に、袖口が柔らかく広がるフレア状にした。

 こうすることで、広がりが強調され女性的なシルエットになる。

 首元は立った襟にギャザーを寄せて、ひらひらとしたフリルを施すことにしてみた。

 これで、上品で、エレガントさを演出できる。

 これは、裁縫科の授業を受けたことで思いついた私のアイデア。

 これでもちゃんと授業は受けていて、ちゃんと身になっているのよ。


 装飾は多すぎず少なすぎずにして、うるさく、下品にならないように。

 ドレスに装飾として使われる魔法石は、自分の魔法石に合わせて種類を選ぶのが一般的。

 美の女神から加護を受けた私は、美魔法石が希少だから好き勝手に身に着けているけどね。

 小さな魔法石を多めにまんべんなくつけて、光が当たるとキラキラと輝いていいんじゃないかしら?

 大きな魔石を最低限にすることで、ドレスの重さをできるだけ最小限に。

 このドレスを美の女神はどう思う?



『……まあ、クリノリンのドレスにすればよくできていると思いますが……』



 ますが?



『……いえ、何でもありません。このドレスは素敵だと思います』



 何か物言いたげな言い方だけどこのドレスに何か問題でもあるのかしら? 

 私が思い詰めてデザイン画を描く手が止まっていると、アンが机の上を覗き込んできて、



「わぁ! 素敵なクリノリンのドレスですね。これならシャーロット皇女陛下に気に入っていただけるんじゃないですか?」

「ほ、本当にそう思う?」

「はい、もちろんですっ」




 アンもこう言っているし、美の女神の反応は気になるけど、このドレスで行けることを信じよう。

 細かいところは作りながら修正するとして、服のイメージの大体はこれで決定と言う形いいでしょう。


 ただ問題なのが、どうやって金貨30枚に収めるかね。

 魔法石は極力小さくして散りばめて最小限にしたからこれ以上減らすことはできない。

 金額を抑えるために変えるとしたらドレスに使う生地の種類でしょうね。



『貴族が主に着るドレスによく使われる分厚く、重厚感のある生地の『マルチェ生地』だけど、王族のドレスはクリノリンを使うので、重量感が増してしまいます。

 使う生地はできるだけ軽く仕上げたいから、サテン(レインズ)生地を使ってみましょう』



 そうね、そうしましょう。




 後日、自分の足でブロウズ生地屋に向かい、サテン(レインズ)生地の紺色の生地と、青から淡い水色にかけて同系色の5つの生地を買った。


 本来ならグラデーションが施された生地を使って作るらしいんだけど、この世界には存在しなかったので、同系色の生地を連ねてグラデーションにする方法を選んだ。

 グラデーションの生地のほうがきれいにできるらしいし、私が思いついた方法は手間がかかるけど、この世界では見たことがないし、何より挑戦してみたい。

 それと、青と水色の糸もね。


 この前も担当してくれた腹が出た中年の店員さんは、注文するとすぐにサテン(レインズ)生地を裁断してくれて、私の予算内のお金で会計をすると、私を店の外まで見送ってくれた。

 これでサテン(レインズ)生地も手に入ったことだし、これでドレス作りができる。

 よっしゃ~、やるわよーっ!




 生地を馬車に積んで皇宮の別邸まで戻ってきた私は、魔法石をもらうために皇宮の魔法石を加工する皇宮専属の魔法石職人のもとに来ている。


 ドレスの装飾に使う魔宝石は、皇宮専属の魔法石職人が加工したものを破格の値段で売ってくれるとのことだったので、シャーロット様の守護石である緑色の風の魔法石を細かくしてもらい、小さいものと大きめのものを調達した。

 魔法石の加工をする職人たちは、小さな魔法石に穴をあける作業にはてこずっていて文句を言いたげだったが、無事に希望の大きさの石に穴をあけてくれた。

 あの険しい顔を見た限り、私は嫌われたんじゃないかしら……。


 皇宮の魔法石は、一般人が持っているものと比べて透明感があり、輝きも一味違ったところから見て、上等な魔法石なのでしょう。

 レオンに聞いたところ、私の予想は当たっていて、平民の持っている魔法石とは見た目はもちろん、魔法の威力も比べ物にならないほど強いそう。

 さすが皇族は持っているもののレベルが違うわね。


 もろもろの材料も準備したし、ドレスを作り始めるとしましょう。


 シャーロット様の体の寸法はあらかじめ紙に書いて渡され、洋裁師が測定することはできなかった。

 ウエストはコルセットをした状態で測ったそうなので、この数字通りに作ってよさそうね。

 デザイン画もできて、服作りに必要な物も揃ったことだし、早速作ってみますか!




 デザイン画を見つめた後、【洋裁神具】で『はさみ』を出し、頭の中でドレスをイメージすると、一瞬の内に身頃のパーツが切り取られた。

 切り出した布をシャーロット様の体を再現したマネキンに合わせてみたところ、一寸の狂いもなくぴったりだった。

 かなりの工程を省けるから、作業のスピードが格段に上がるわね。



『袖を膨らませ、袖口をフレア状にしたパーツを縫い合わせ、フリルをつけます。

 袖と胴体を縫い合わせた後、首元に大きい魔法石を真ん中に置いたリボンをつけ、レースを施します』



 一気に華やかになって来たわね。

 胸元には小さな魔法石を散りばめた。

 胸元に大きな魔法石を置いたから、これ以上大きな魔法石をつけるとうるさい印象になるからね。

 うん、華やかで上品な紺色の身頃の完成ね!

 身頃は完成したから次はスカートよ。


 スカートは3分の1を紺色にして、5つの生地を下に行くにつれて、色を薄くして縫い合わせることで、見事なグラデーションのスカートが完成した。

 あとはスカート全体に小さな魔石をつけ、ところどころに大きめの魔石を散りばめて……。



「よし! 完成よ!」



 試しに王女の体に合わせて作られたマネキンに、作った身頃のガウンとスカートを着せてみると、予想以上に出来がいい。

 紺色のドレスも落ち着いた色合いが皇女にふさわしい感じがするし、上品さが出ていて、派手な色合いのドレスじゃなくても十分華やかだ。

 青系のグラデーションのスカートもうまくいくか未知数だったが、予想以上の出来で満足、満足!



『胸元の風の魔法石が付いた明るい色のリボンは、アクセントになって顔周りを華やかにしてくれますし、ドレスに散りばめられた魔法石も光が当たるとキラキラと輝いて綺麗ですね』



 後は用意されていたコルセットとストマッカーに、大きめの魔法石をきれいに見えるよう並べて、取り付ければ完成!


 王宮に泊まり込みで作業をした結果、大量の魔石をドレスにつける作業に手間取ったものの、2カ月程度で完成した。

 自分でもこんなに早くできるとは思わなかったけど、なかなかな出来だ。

 ドレスの納品期間は5カ月もあったけど、残りは3カ月もあるわけだし、気になるところや、より良いものなるように少しずつ改善していけばいいと思う。

 金貨30枚以内という金額制限をされたときは、お金が間に合うか心配だったが、余裕で間に合った。



 サテン(レインズ)生地   金貨8枚 ・銀貨5枚

 装飾 金貨7枚 ・銀貨4枚

 その他  金貨4枚 ・銀貨2枚


 合計 金貨19枚 ・銀貨11枚



 予算の半分程度の金額でドレスが完成したのは自分でもすごいと思うわ。

 だけど、何かしっくりこない。

 この出来には問題ないのだが、何かが胸に引っかかるのよね。

 このもやもやが何かはわからないけど、ドレスの期限はまだまだあるから、気長に考えるとしますか!

 レオンに「ドレスが完成した」と言うと、理解できなかったのか、耳に手を当て聞き返された。

 さっきより大きめの声で伝えると、一点を見つめた後、顎に手を当てて固まっている。

 無言の間が10秒ほど続くと、顎から手を放したレオンが完成したドレスを見せてくれと言ってきた。

 よっぽど信じられないと見たわ。

 レオンを私の作業部屋に連れて行き、完成したドレスを見せると、扉の前で固まったと思えば、ゆっくりとドレスに近づく。



「……すごく、綺麗です。こんなドレス、見たことがない……」

「ありがとうございます」

「こんな素敵なドレスをたったの2カ月で完成させるなんて……あなたは女神か何かなんですか?」

「やだなぁ、ただの洋裁師ですよ」



 素敵と言われてうれしかったけど、さすがに大げさじゃない?

 体に美の女神は宿していますけど。

 でもレオンの反応を見た限り、素晴らしい出来なのは間違いないんだろうな。



「細かい調整や修正はゆっくり行いたいので、王宮に来るのは1週間に一度にしたいのですけれど構いませんか?」

「ではドレスは、私たちが責任をもって作業部屋のクローゼットに保存しておきます」

「はい、お願いしますわ」


 シャーロット様のドレスを作り終え、学園に復帰して1週間が経った頃、レオンが血相を変えて私に至急、皇宮に来るよう言ってきた。

 なんだか胸騒ぎがするわ。

 

 授業を抜け出して皇宮まで行き、レオンの後についていくと、私の作業部屋まで向かっているようだった。

 息遣いが激しくなる中、ドレスを保管しているクローゼットを開くと、そこにはビリビリに切り刻まれ、哀れな姿になった紺色のグラデーションドレスがあった。




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