24話 敵視
部屋向かう最中の廊下をレオンに連れられて歩いていると、前から歩いてきた清潔感のあり、身なりが華やかな男性が私を睨んでくる。
どこかで見たことのある人だけど、何か気に障ることをしたかしら?
身なりが華やかな男性と目が合わないように下を向いたまますれ違うと、こっちに振り返って私に声をかけてきた。
「学生でありながら、今まで見たこともない服を作っている洋裁師というのはお前か?」
「は、はい。多分私のことだと思いますわ」
身なりが華やかな男性は首を上下に動かして私をじっくり眺めると、私を睨みつける。
あまりにも素敵な服を着た私に嫉妬したに違いないわ。
直感だけど、こんな女々しい人は苦手よ。
「お前の話は洋裁師ギルドまで届いているぞ。洋裁師ギルドの副ギルド長自らの入会の誘いを断った、平民相手に商売しようとしている世間知らずのお嬢様の洋裁師だってな」
「そ、そうですか……」
こいつめんどくせぇ~っ。
いちいち難癖付けないと話せないの?
でも、言い返して目を着けられて、面倒なことが起きても嫌だから大人しくしていよう。
「あなた、失礼ですよっ! この方をだれだと思っていらっしゃるのですか。公爵家の令嬢のオルガ・オールバーン様ですよ!」
「だから何だ。洋裁師は実力の世界で家柄なんて関係ない。それにしても、ゴールドランクの俺はともかく、お前みたいな素人同然の世間知らずの洋裁師が、シャーロット様のドレス作りに選ばれたのが不思議でしょうがないよ。みっともないドレスを作って恥をかくだけだから、逃げ出すなら今の内だぞ」
なんかすごいバカにされているー。
公爵令嬢である私に、初対面の人がこんなにボロクソに言ってきたのは初めてよ。
「ところで、イアン様はシャーロット様の別邸になんの用でしょう?」
レオン、間に入ってくれてありがとう!
存在を忘れかけていたけど、おかげでやっとこの人の皮肉を聞かなくて済む。
でも、できればもう少し早く間に入ってほしかったわ。
「用意されていた魔法石が足りなくなったから、シャーロット様の別邸まで来て補充をしに来たんだ」
「それは申し訳ありません。こちらの不手際です。今すぐ持ってきます」
「イアン様は、この別邸とは別のところに部屋をもらっていらっしゃるんですか?」
「はい、イアン様には王宮の敷地内の一番端にある、来客がお泊りになられる時に使う迎賓館に部屋を用意させてもらいました」
「シャーロット様の別邸に部屋を用意してもらった私と建物が別なのには、何か理由があるんですか?」
この私の一言にイアンという洋裁師は、さっきまでの余裕に満ち溢れていた表情から一変して、目を見開いて体を震わせる。
わ、私、何か気に障るようなことでも言ったかしら?
「こ、この洋裁師はシャーロット様の別邸に部屋をもらっているのか!?」
「ええ、オルガさんは今までの功績と、オルガさんに期待している私の指示で、特別にシャーロット様の別邸に部屋を用意しました」
「なんでこの素人同然の洋裁師が特別扱いをされる!? 王族にも服を作ったこともあるこのゴールドランクの私が、この洋裁師より劣っていると言いたいのか!?」
やっべ、めっちゃ怒ってんじゃん。
さっきまでの余裕はどこに行っちゃったの。
「私は今までの伝統や、常識に縛られないドレスを作るオルガ様のアイデアと斬新さに非常に感銘を受け、私直々の指名で選ばせてもらいました。あなたは、コルセットもバッスルも使わないドレスを作ることを思いつきますか?」
イアンさんは自信がないのか、体を震わせながら歯を食いしばって私を睨みつける。
私は何も言っていないわよ! とんだとばっちりだ。
「もちろん、イアン様の腕がオルガさんに劣っているとは言っていません。イアン様の作ったドレスが選ばれれば、それなりの報酬と名誉が与えられるでしょう。それだけではなく、王族御用達の洋裁師にもなれるかもしれませんし、貴族たちからたくさんの依頼が舞い込むと思います」
レオンはイアンさんに一歩、また一歩と近づくと、イアンさん手を包み込むように握り、優しく微笑みかける。
「イアン様は誰よりも素敵な服を作る腕のいい洋裁師なので、オルガさん以上に素敵なドレスを作ってくれると信じています。頑張ってください」
すごい! 見る見るうちにイアンさんの強張っていた顔の筋肉がほどけていく!
心なしかイアンの頬が赤くなっている気がする。
「ま、まあ? 確かに俺は腕のいい洋裁師だから? 俺の作ったドレスが選ばれるに決まっているよな。せいぜい俺に負けないくらいのドレスを作ってみろよな」
私に啖呵を切って偉そうにその場を去ろうとした洋裁師のイアンさんは、レオンに鼻の下を伸ばしながら会釈をして去って行った。
あの感じ、絶対にレオンに惚れたな。
とはいえ、こんなに周りに期待されている上、レオンにここまで言わせておいて、しょぼいドレスなんて作れないわよね。
さっき見せてもらったドレスの特徴やデザインは頭に入ったわ。
それを参考にドレスに私の技術とアイデアを加えて、私にしか作れない華やかで素敵なドレスを作ってみましょう。
となれば、さっそくデザインを考えようかしら。
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