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20話 フィオナ・フェネリー

 季節は移り変わり春になろうとしていた。


 そんな学園では、この時期にしか咲かないピンク色のブロッサムの花にまつわる学園の伝説でもちきりだった。

 それは、学園のどこかに咲く金色のブロッサムを意中の相手に渡して告白すると、一生一緒に幸せになれると言うもので、学園の女子たちは金色のブロッサムの花を探すことに必死になっている。



「オルガ様、今、学園でもちきりになっている都市伝説を知っていますか? 私も金色のブロッサムの花を探しのですが見つかりませんでした。やっぱり都市伝説を聞いた人たちに取りつくされちゃったのでしょうか?」

「やっぱり女子はそういう話が大好きだな。俺は? 興味ないから金色のブロッサムの花なんて探してないけど?」

「ついさっきブロッサムの花畑の中を見つめていたじゃないですか。どうせ都市伝説が気になっているんでしょ? 僕もついブロッサムの花畑の中を探しちゃいますもん」

「そ、そんなことねぇよ! お前らと一緒にするな!」

「ムキになってかわいいですねー」

「オルガは金色のブロッサムの花の都市伝説に興味ありますか?」

「ん? 何? いなり寿司弁当に夢中で聞いてなかった」

「「「…………」」」



 『フルモス』で買ってきたいなり寿司弁当は、甘じょっぱく腹持ちもいい上、味も間違いないので、最近はいなり寿司弁当ばかり食べているわね。

 『フルモス』の店主に、もっといろんな種類の弁当を出してほしいとお願いしたけど、今店にある材料ではいなり寿司が精一杯だと言っていたわ。

 もっと材料を調達してもらっていろんな料理が食べたいわね。

 そんなこんなでいなり寿司弁当に夢中で聞いていなかったけど、後から話を聞いて私も知っている内容だった。

 なぜなら、金色のブロッサムの花と関わって、ミオの仲間になる強者がいたからよ。


 その仲間は女性で、水の聖女の候補者。

 水の女神の加護を強く受け、水の聖女になって権力者と結婚しそうになる水の聖女の候補者が、ミオに金色のブロッサムの花を贈って強い絆で結ばれたらしいわ。

 ミオとの恋を叶える上で水の聖女は諦めたものの、強力な水魔法で私を断罪するのに協力し、国の平和と構築に貢献したことから、権力者と結婚はせずに水の聖女になってミオの新しい国作りに協力する。


 確かこんな感じだったはず。

 その仲間は好きになると、その人のことしか見えなくなるほどの一途で、ミオも困るほどべったりしていたのを学園内でも見かけたわ。

 そんなに人に愛されたことがないから少し羨ましいと思ったっけ。


 そんなことを思いながら学園内を4人で歩いていると、一人の青年が私の目の前でもじもじとして立ちはだかっている。

 何よ、こいつ、邪魔ねぇ。

 さっさとどきなさいよ。



「あなた、何をしているの?」

「オ、オルガ様……っ」



 あまりにも挙動不審で、もじもじとして鬱陶しかったので、どうしたのかと聞いてみると、予想外の返答が帰って来た。


 その青年はミオに思いを寄せていて、告白しようとやっとの思いで見つけた金色のブロッサムの花を渡して告白しようとしているらしいけど、勇気が出なくて告白できずにいるらしい。

 正直に言いましょう。


 その恋は叶いません。


 あなたのようなモブと、重要人物のミオが結ばれるわけがないからね。

 現に前の人生でもミオの側にこの人はいなかった。

 でも、そう言ってやらずに後悔させるわけにはいかないわよね。

 ここは、後押しするだけして、思い切り振られてもらいましょう。


 私は名前も知らない青年に、「ミオを中庭に呼んであげるから、そこで告白したらいい」と言うと、青年は何度も頭を下げてお礼を言ってきた。

 正直、「振られるんだからお礼を言っても無駄なのに」と思ったことは、墓場まで持っていきましょう。




 ミオを中庭まで呼んで、後のことは青年に任せた私は、次の授業が行われる裁縫科の教室に向かっていると、目の前の廊下の奥のほうでうずくまっている女性の人影が。

 おなかでも痛いのかしら? このままだとかわいそうだから声でもかけてあげましょう。

 今の私はいいことをして気分がいいからね!


 その女性に歩み寄ると、何かを抱きしめながらうずくまって泣いていて、声をかけた以上放っておけない空気になってしまった。


 なんかめんどくさいことになってしまったわね。

 無視したらよかったかも……。

 でも、話しかけた以上何もしないわけにはいかないから、話しかけるだけ話しかけてみましょう。



「あ、あのぉ、大丈夫ですか? 一体どうしたのかしら?」



 水色の髪を肩まで伸ばした女性に話しかけると、女性はきれいに整った顔をしていて、真っ青な瞳を潤ませながらこちらに振り向き、汚れのついたボロボロのバッスルドレスを抱きしめていた。


 その女性によると、バッスルドレスに汚れがついてしまって、汚れが落ちないので絶望に暮れていたそう。

 その服はとても大事なもののようで、女性は泣き止む様子はないわね。


 話しかけた以上見捨てるわけにはいかないだろうし、洗濯洗剤で汚れを落としてあげましょう。


 女性に手を差し出して立たせると、裁縫科の教室に移動した後、鞄から洗濯洗剤を取り出す。

 水色の髪の女性は水魔法が使えるらしく、女性の水魔法で水の玉を出して、水の玉の中にバッスルドレスを入れ、汚れに洗濯洗剤をつけて揉み洗いする。

 数分、軽く揉み洗いするだけでバッスルドレスの汚れが落ちるどころか、ボロボロだったバッスルドレスの蓄積した汚れもきれいに落ちた。

 先に裁縫科の教室に行っていたリュウの風魔法でバッスルドレスを乾かした後、ついでにボロボロだった服をきれいに修復してあげると、水色の髪の女性は泣いてお礼を言ってきた。



「ありがとう、本当にありがとう。この服は私にとって大事な服だったの。きれいにしてもらった上、ドレスの修復までしてもらえるなんて感謝しかありません」

「いえ、どういたしまして。困っている人を助けるのは人として当然の行為ですわ」



 水色の髪の女性は顎に手を当て少し考えこむと、



「あなたの腕を見込んでお願いがあります」



 うっ、なんかめんどくさいことが起きそうな予感が……。



「私が持っているウエディングドレスを私に合うように作り直してくれませんか? 謝礼はいくらでも払いますのでお願いできませんか?」



 こんなこと言いたくないけど、めんどくせー。

 でも、断るのはこの世界のすべての女性におしゃれをしてもらうと言う目標に背いてしまうわ。

 目標に近づくために少しずつでも行動すべきよね。



「いいわ、引き受けてあげる」

「ありがとうございますっ。では今度依頼したドレスを持って来ます」



 私とリュウ、アレックスとアンが水色の髪の女性と話していると、裁縫科の教室に数人の騎士がぞろぞろと入ってきた。

 何かと思い警戒していたら、騎士たちは水色の髪の女性を取り囲むと、別れの挨拶をする暇もなく水色の髪の女性を連れて裁縫科の教室から出ていった。



「慌ただしく出ていったな……」

「今の人って水の聖女候補でありながら、水の聖女にほぼ確定しているフィオナ・フェネリーと言う伯爵令嬢ですよね」

「ああ、だいぶ年上の権力者との結婚が決まっているらしいよな。まあ、水の聖女になることは決まっているも同然だし、結婚は避けられないと思うぞ。これはあくまで俺の想像だが、フィオナが聖女に選ばれたことが気に食わないやつが、ドレスに汚れをつけたんだと思う」



 もしそうなら絶対許せないわ! 人の服を汚す奴なんてミジンコ以下よ!


 ん? ちょっと待って。


 フィオナ・フェネリーって、ミオに金色のブロッサムの花を贈った、ミオの仲間になり私を没落貴族に追い込んだあのフィオナ・フェネリー!?


 確かに、フィオナ・フェネリーのバッスルドレスが汚れて泣いているところに遭遇したミオは、バッスルドレスの汚れを美魔法できれいにした後、フィオナの依頼でボロボロのウエディングドレスを作り直してから、関係が親密になったって噂で聞いたわ。

 どうやら美桜が話しかける前に私が話しかけたことで、親密になるきっかけがミオではなく私になったみたい。

 それも、私が美桜の告白を後押しする場面に遭遇したせいね。


 とりあえず、フィオナの体のサイズを教えてもらわなかったから、【洋裁神具】の『メジャー』でフィオナの体を採寸してから服作りに取り掛かりましょう。


 先生に事情を説明してフィオナの部屋を教えてもらい、フィオナの部屋を訪ねると、私の部屋より大きい部屋の中には、2人の騎士がフィオナを見張っていて、肝心のフィオナは勉強に勤しんでいた。

 やっぱり聖女に選ばれる人は勉強もできないといけないのね。


 私の存在に気付いたフィオナは、体の採寸がしたいという私のために騎士に退室するようお願いすると、部屋の中は私とフィオナの2人きりになる。

 採寸をするために部屋の真ん中に立ってもらい、【洋裁神具】の『メジャー』を発動させる。

 でも、私が作るバッスルドレスはコルセットをした状態で作らないといけないから、【洋裁神具】のメジャーではダメなんじゃないかしら?

 あれ? 視界に『コルセット』という文字が現れたわ。



『『コルセット』と書かれた文字に視界を向けたら、コルセットをした状態の体のサイズがわかりますよ』



 何それ、超便利! 早速使ってみよう。


 『コルセット』という文字に視線を向けると、一瞬でウエストの数字が変わり、ウエストの数字が小さくなった。

 これまでの経験からして、この数値は信じて良いものに違いないわね。


 紙にコルセットをした状態のフィオナの体のサイズを描き出しながら、汚れを落としてあげたバッスルドレスや、ボロボロのウエディングドレスは誰のものなのかと聞いてみると、フィオナは悲しそうな表情をしながら教えてくれた。


 あの2つのドレスは、フィオナの父の愛人だった平民の母が、父からプレゼントされた限られたものらしい。

 愛人の娘のフィオナは、強い水の女神の加護を受けたことで、父の家に引き取られたが、平民の愛人の娘のフィオナは家でも肩身の狭い思いをしてきたそう。

 どこにも居場所がなかったフィオナは、必死に勉強して、水の聖女にふさわしい人格と魔力を得て、水の聖女になることで家に居場所を作っていたらしい。



「だから水の聖女になることは自分のためでもあり、家族のためでもあるの。水の聖女になって、好きでもない人と結婚することはしょうがないことなの」



 しょうがないと言っているけど、明らかに未練が残っているじゃない。

 それが本当にフィオナの幸せなのかしら?

 それにしても採寸はもう終わったから帰ってもいいんだけど、フィオナはまだ話したそうだから付き合ってあげますか。



「オルガさんは学園の都市伝説を知っていますか?」

「ええ、金色のブロッサムの花でしょ?」

「金色のブロッサムの花を渡したくなるほどの好きな人ができて、その好きな人と一生一緒にいられるのは羨ましい。でも、私が望まぬ結婚をしても水の聖女になることが家族の幸せで、周りの期待に応えられるなら最善の道なの」

「確かにそうね。好きな人と結婚出来たら幸せでしょうね。自分の好きな相手は自分で決めなければ面白くないもの。あなたは水の聖女になるために、家族のために、周りの期待に応えるために好きでもない人と結婚して、それが本当に幸せなことなのかしら?」



 私の言葉にフィオナは黙り込む。

 どうやら考えるところがあるようね。



「私はフィオナのドレスを完成させるために全力で取り組む。フィオナも自分の人生がそれでいいのかじっくり考えなさい。体の採寸をさせてくれてありがとう。じゃあね」



 私はフィオナの体のサイズを書いた紙をポケットに詰め込むと、フィオナの部屋を後にする。


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