18話 商人の仲間入り
「オルガ様とリュウ様はどういった形態での商売をお考えですか?」
商品登録するには商人ギルドに入会しないといけないとは知らなかったわ。
ギルト長と受付嬢には少し待ってもらい、私とリュウは顔を見合わせて今後のことについて話し合う。
「どうする? 商人ギルドに入会するつもりなんてなかったから、商売することなんて考えていなかったぞ」
「私は、この世界のすべての女性におしゃれな服を作ってあげることが夢だから、いずれは店を持ちたいと思っていたのよね。だから商人ギルドに入って少しずつ商売していって、徐々に店の規模を広げていくのもいいかも」
「なら俺はオルガの店で働かせてもらうよ。オルガの夢に協力させてもらえるだけでも俺も幸せだ」
「店の資金は私の家の力があればどんなものでも建てられるだろうけど、私とリュウでやっていくと考えると、ブロンズランクが妥当ね」
「そうだな」
同時に頷いた私とリュウは、前に座るギルド長に向かって、
「「ブロンズランクでお願いします」」
「かしこまりました。ではこのペンでこの紙に名前を書いてください」
それぞれに薄茶色の紙を差し出された私とリュウは順番に緑色のインクのペンで名前を書くと、緑色のインクのペンで書いた名前が空中に浮かびあがったと思いきや、薄茶色の紙がどんどん小さくなっていき、紙より分厚いカードに変わる。
カードに変わった紙に浮かび上がった名前がくっつくと、カードはゆっくりと元の位置に戻り光が消える。
「これであなたたちは商人ギルドの一員です。次にお話にあった商品登録の手続きに移りたいと思います。確か、【マーメイドライン】のドレスと、コルセットもバッスルも使わないドレス、ブライダルインナーという下着でしたよね?」
「はい、そうです」
「ヴェールトウ魔法学園の学園長から、商品登録したいものを見せてもらったので確認済みです。こちらのほうで手続きの準備はしておきました。後はお二人のサインを書いてもらうだけです」
「待ってください。よろしければ特許を取りたいものがもう1つあるのですが?」
私の後ろに立っていたアンが私に目配せをすると、鞄から洗濯洗剤を取り出す。
……ああ! そうだった。
アンのほうから洗濯洗剤を商品登録してはどうかと提案されて、洗濯洗剤を持ってきていたんだった。
ギルド長に見せて特徴と効果を説明しなきゃ。
袋に詰めた洗濯洗剤を見せて特徴と効果を説明すると、ギルド長と受付嬢は興味津々で洗濯洗剤を見つめる。
どうやら効果を聞いても信じられないのか、ギルド長は受付嬢のお姉さんに水の入った桶と汚れたシャツを持ってきてもらって、洗濯洗剤の効果を試すことになった。
ギルド長によると、昼食の時にスープがかかってからシミになって、それ以来何をしても落ちなくて困っていたらしい。
でも、今まで落ちなかった汚れが落ちれば、私の洗濯洗剤の効果が証明されるわよね。
私が洗濯洗剤を桶の水の中にスープのついた服を桶の中に入れてすすぐと、一瞬のうちに長い間落ちなかったスープのシミがきれいに落ちた。
さすが私の作った洗濯洗剤、効果は抜群ね!
「この洗濯洗剤を10回分、銅貨5枚、30回分を銀貨1枚に分けて売ろうと思っています」
「安すぎる!」
ギルド長は机を挟んで向こう側の椅子から前のめりになって迫ってくる。
「この洗濯洗剤は国王の献上品レベルの品質です。安く見繕っても10回分を金貨1枚ぐらいじゃないと!」
ギルド長はそう言うけど、平民相手に商売したいのにそんなに高かったら売れるものも売れないわよね。
だからギルド長の提案は却下ということで。
「ごめんなさい、私たちは平民にも服を買ってもらいたいので、そんな高値では売れません」
「へ、平民相手にも服を売るつもりなんですか!?」
平民にも服を買ってもらえるような洋裁店を開くつもりだというと、ギルド長と受付嬢のお姉さんは固まったまま動かない。
まあ、ただ、服を作る洋裁師はエリート職で、貴族や王族、もしくはそれ以上相手に商売をすることが普通よね。
洋裁師はおしゃれな服を着る需要がある貴族を相手にすることがほとんどだから、黒と白の単純な服を無料で配給される平民を相手に商売する洋裁師なんて聞いたことないから当然かも。
「あの、店を開くうえで聞いておきたいんですけど、平民でもおしゃれで凝った服を着てもいいんですか? 平民でおしゃれな服を着ている方を見かけたことがないので確認しておきたいんです」
リュウ、ナイス! これは大事なことだから詳しく聞いておかないと!
ギルド長に聞いてみると、今までそんなことを聞いた人がいないのか、顎に手を当て、動揺した様子で受付嬢のお姉さんに何かを伝えると、受付嬢のお姉さんは慌てた様子で部屋から出て行ってしまった。
なんか、ごめんなさい……。
受付嬢のお姉さんを待っている間、ギルド長に洗濯洗剤はどこで手に入れたのか、もしくは作ったことに興味を持ったのか、食い気味に質問攻めされていると、受付嬢のお姉さんが資料を持って戻って来た。
受付嬢のお姉さんが商人ギルドの書類を調べたところ、書類を見てもわからなかったようで、商人ギルドの本部まで転移魔法の魔道具で手紙を送って確認したらしい。
お手数をかけますわ。
手紙によると、平民には服が配給されるだけであって、平民指定がおしゃれな服を着るには問題ないらしい。
商品登録するために、商品登録したい商品の名前が書かれた真っ白な紙に私とリュウの名前を書くと、名前を中心に紙が燃え上がり、跡形もなくなった。
「な、何、これ!」
「これで商品登録の手続きは完了です。では、商品登録に必要なお金、登録金ですが、1つ金貨10枚と、ブロンズランクの登録として、合計金貨46枚を頂きます」
「そ、そんなにかかるんですか!?」
「これは国で決められた決まりですので……」
「そんな大金持っていないよ……」
「ふふん、安心しなさい。私が払ってあげるわ」
「でもオルガだけに払わせるのは悪いよ」
「じゃあ、この後の買い物に付き合ってよ。それでチャラにしてあげる」
「い、いいのか?」
「ええ! これからお世話になるだろうから、その時のための手間賃だと思って」
「そ、そういうことなら……」
アンに向かって手を上げると、アンはすかさず鞄の中からジャラジャラと大金の入った袋を取り出すと、大きな音を鳴らしながら袋を机の上に置く。
その場にいた人たちは何のためらいもなく大金を袋から出したオルガの行動に唾を飲む。
ギルド長がお金を確認すると、ギルド長と受付嬢のお姉さんは深々と頭を下げ、商人ギルドの出口まで案内してくれた。
「商品登録の手続きも終わったことだし、いよいよ楽しみにしていた買い物よ! 早速街に行きましょう!」
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