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16話 洋裁師ギルド

 それから数日後、聖剣に選ばれたアレックスは剣聖として世界各国に名前が広がることになり、学園でも話題を集めた。

 剣聖と認められたことで、優れた剣術を持つエリートしか入れない国が運営する騎士団に所属し、剣の腕をさらに磨いて、魔物退治に勤しむことになるらしい。

 そして、剣聖に選ばれたことで、女神の加護を受けていなくてもバカにする者はいなくなり、みんなから慕われるようになったことで、虐げられてきた今までとは正反対の生活を送っているようね。


 そんな忙しいアレックスとは裏腹に、私はこれから起きる国民の反乱など見る影もなく、平穏な毎日を送っている。

 いつも通りリュウと一緒に裁縫科の教室に向かっていると、人だかりができているところを見かけた。



「あの人だかり何なのかしら?」

「ああ、ローラル皇国の第2皇子と、異世界から召喚された少女に群がっているんだな。あの2人は学園でも有名人だよ。姉のシャーロット様が皇位継承権一位でありながら、皇帝の座に就くべき人だと言われている。異世界から召喚された少女は選ばし者しか授からない美の女神の加護を受けていて、この世界では見たこともない服を作るらしいぞ。まあ、それはオルガも一緒なんだけどな」

「へぇー」

「国が率先して召喚された少女は、皇帝の命で第2皇子が責任もって面倒見ていて、片時も離れていないらしい。それに嫉妬していて異世界から召喚された少女を良く思っていない女子も多いらしいぞ」

「そうなんだ……」



 ミオはもちろん、ローラル皇国の第2皇子のことを私は知っている。


 ウォルター・ロット・ローラル。


 第2皇子でこの国始まって以来の天才と呼ばれていて、皇帝に最もふさわしい人物を言われている。

 一方で皇位継承者一位の第1皇女は平民には無関心で、オルガ同様貴族が優遇される貴族社会にこだわる政治方針だ。


 それに異議を唱えたウォルターは、生まれ持った才能と類まれなるリーダー性でたくさんの貴族と平民を味方につけ、横暴な第1皇女を処刑した後、皇帝の座に就く。

 そして、ウォルターが皇帝の座についてから、貴族主義から民主主義の政治に転換した政治方針に異議を唱えていたオールバーン家率いる皇国側の貴族は、貴族主義を強要し、豪華な生活やおしゃれな服を独り占めにしようとする。

 そんなオルガを含む皇国側の貴族に対し、ミオとその仲間たちが平民を率いて反乱を起こす際、ミオに国の兵力を貸して反乱に協力して、世界を大きく変えるきっかけを作るミオの仲間ね。


 そして悔しいことに前の人生でウォルターは私の意中の相手で、何度も猛アタックしたが全く振り向いてもらえず、ウォルターから特別扱いされるミオに嫌がらせをしていたっけ。    

 だけど、オルガの好意とは裏腹に、その行動のせいでウォルターの好感度を下げていたんだけど、そのことになかなか気づけなかったわね。

 これも今まで気を付けていたことを忘れずに行動していたら、不幸な人生から逃れられるはず。

 それにそれなりに年を重ねた私にとって、お子ちゃまで気取っているウォルターなど恋愛対象には入らないのよね。



『たったの3年でしょ』



 3年で女はだいぶ変わるのよ。

 革命で私の身に起きる不幸な未来から逃れるためにも、今まで通りおしゃれを独り占めするのではなく、この異世界のすべての女性におしゃれをしてもらえることを常に意識して、美の女神の技術と知識で素敵な服を作る毎日を送りましょう。




 裁縫科の教室に着き、リュウとたわいもない話をしていると、ミオがウォルターと騎士に連れられて裁縫科の教室までやって来た。

 なんかあまりにも特別扱いされているから、近寄りがたい雰囲気が漂っているわね。

 あれじゃあ、できる友達もできやしないわよ。

 そんなことを思っていると裁縫科の教師がやって来て、大事な話があると言ってきた。

 一体何かしら?



「この度、オールバーンさんとレフラーさんがクレアさんのために作ったウエディングドレスが、洋裁師ギルドが主催する服の祭典のウエディングドレス部門で表彰されることになりました。これは裁縫科が設立されてから初めてのことです。この異常を達したオールバーンさんとレフラーさんに拍手!」



 私たちの作ったウエディングドレスが!?

 それってかなりすごい事なんじゃない?


 私とリュウの偉業に裁縫科の生徒たちは大きな拍手と喝采の声を上げる。

 褒められることはやっぱりうれしいわね。

 こんなに拍手喝采を浴びることは、今までの人生でもなかったからとっても気分がいいわ。

 教室の前に移動して賞状と盾を受け取って授業を終えた後、私とリュウは学園長室に呼び出された。


 学園長室に入ると、10歳くらいの女の子が学園長の椅子に座っていて、違和感しかない。

 その横には当たり前のように整った髪と格好のイケメンが立っていて、裁縫科の教師も同席していた。



「あの、学園長はどこですか?」

「言葉には気を付けたまえ。ワシが学園長じゃ」

「えっ、お前がっ!? まだ子供じゃん!」

「言葉には気をつけなさい。こう見えて学園長は80歳を過ぎています。皇国騎士団の騎士たちが束になっても、この方には敵わないということを忘れないように」



 後で知ったのだが、学園長は魔法の技術向上に貢献して、この学園で習うほとんどの魔法を生み出したとっても偉い人らしい。

 しかも魔法学園が誇る騎士団が総出で襲い掛かっても相手にならないほど強いとか。

 人は見た目じゃないっていうけど、この人がそれを象徴しているわよ。

 学園長が椅子に座るよう促してきたので、私とリュウはふんわりとした立派な椅子に座る。


 それから数分後、遅れてやってきた髭を生やして立派な服を着た中年の男性が私たちの前の椅子に座る。

 この人が洋裁師ギルドの副ギルド長で、私とリュウの作ったウエディングドレスを受賞するよう抜擢した人物だそう。

 そんなお偉い方がわざわざ私たちに会いに来た理由は何なのかしら?



「君たちが作ったウエディングドレスは非常に興味深い。今まで見たことがない斬新なものの上、着心地も今までのドレスとは比べ物にならないくらい良い。洋裁師ギルドが開催した祭典で受賞して以来、あのドレスの作り方を教えてほしいという洋裁師が殺到している」

「お褒めの言葉を頂けて光栄ですわ」

「そこで私のほうから提案なのだが、コルセットもバッスルも使わないドレスの作り方を洋裁師ギルドに商品登録してはどうだ?」



 学園長によると、商品登録すれば商品を売買する有無の許可を出せる資格をもらえるし、商品登録した人から定期的にお金をもらえると言う。

 もしかしたら、没落貴族になったときに商品登録をした商品のお金があれば、貧しい生活の足しになるかもしれないわ! 

 それに、コルセットもバッスルも使わないマーメイドラインのドレスをいろんな人が着れば、ドレスを作った私の名前も広まるはず。

 そうすれば「こん何素晴らしい服を作った人ならきっといい人に違いないわ!」と、異世界中に私のいい噂が広がるに決まっているわ!



「リュウ、商品登録しましょうよ。お金も手に入るし、いろんな人に私たちの作ったドレスを着てもらえるわよ!」

「確かにお金が手に入れば、魔法学園の学費も自分で払える。それはものすごくありがたいな……。だが登録するとしたら商人ギルドがいい」



 何で洋裁師ギルドではなく商人ギルドがいいのかはわからなかったけど、お互い商品登録に好都合だったので、【マーメイドライン】のドレスとコルセットもバッスルも使わないドレスの作り方、ブライダルインナーを商人ギルドに商品登録することに決まった。

 副ギルド長はしつこく洋裁師ギルドに商品登録するよう言ってきたけど、リュウが首を縦に振らなかったので、私は信頼のできるリュウの言うことに従うことにした。

 そして、洋裁師ギルドに私たちの服を商品登録させるためか、副ギルド長はもう一つ私たちにある提案をしてきた。



「君たち、洋裁師ギルドに所属してみないか?」

「洋裁師ギルドに?」



 副ギルド長曰く、洋裁師ギルドは服に関する依頼を紹介して、必要な材料の調達を手伝ってくれる洋裁師のための国際機関。

 洋裁師ギルドは商人ギルドに連携されていて、洋裁師ギルドに入れば商人ギルドに登録した時と同じ条件で商売ができる。

 洋裁師ギルドが受ける依頼は上流階級を相手に商売をすることがほとんどだから、洋裁師ギルドに入れば給料も高く、上流貴族と関係を持てるので、洋裁師が洋裁師ギルドに入ることは、成功者の仲間入りの第一歩に近づく。


 入って損はなさそうだけど、副ギルド長の提案にリュウは渋い顔をしている。

 何か洋裁師ギルドに不満でもあるのかしら?



「リュウ、どうする? 入っておくべきかしら?」

「いや、やめておこう。洋裁師ギルドにいい印象はひとつもない」



 どういうことか学園長や副ギルド長に聞こえないように耳に手を当て、小さな声のリュウの話を聞く。



「洋裁師ギルドに入っている洋裁師はほとんどが貴族の生まれの男性で、ただでさえ冷遇されている貴族の女性や、平民の洋裁師に対して貴族の男性と処遇がまるで違うんだ。給料が安いのはもちろん、いじめや嫌がらせは日常茶飯事らしい。それだけではなく、洋裁師同士の競争率も激しく、蹴落とし合いや醜い人間関係が嫌になり、やめていく人をたくさん知っている。そんな洋裁師ギルドだから、洋裁師ギルドに商品登録するのはやめようと言ったんだ。きっと平民で女性の洋裁師の俺たちの商品とは釣り合わない値段で商品登録されるに決まっている」

「ず、ずいぶん劣悪な環境なのね」

「それは洋裁師ギルドに所属していた俺の両親も同じで、心の病にかかるほどのものだったんだ。しかも、洋裁師ギルドが相手にする客は貴族や王族ばかりで、平民相手に商売することはまずない。それは平民にもおしゃれをしてほしいという俺の信念から外れてしまう。だから俺は洋裁師ギルドに入るのは反対だ」



 洋裁師ギルドも、この世界では当然とされている男尊女卑の世の中と、貴族好待遇の政治方針と似たものがあるのね。

 いじめや嫌がらせを受けるのはもちろん嫌だけど、平民相手に商売ができなければ私の目的が果たせない。

 それじゃあ洋裁師ギルドに入る意味がないわよね。

 洋裁師ギルドには相当の闇があるようだし、リュウの言う通り洋裁師ギルドに入るのはやめておきましょう。



「申し訳ありませんが、その提案は断らせていただきますわ。私たちは自分たちの好きなように商売がしたいので」

「な、何を言っている。この私自ら勧誘しているんだぞ。待遇だって保証してやるし、劣っている平民と女性の洋裁師を、世界規模で活躍する洋裁師ギルドに入れてやると言っているんだ。もう少し頭を使って考えたらどうだ?」



 何よ、この人。私とリュウの作ったマーメイドドレスをあれだけ褒めておきながら、なんで平民と女性だと言うだけで劣っていると言われなきゃいけないの?

 こんな人がいる洋裁師ギルドなんて、絶対に入ってやるもんですか。

 ちょっと一言言ってやりましょうか。



「あなたはずいぶん平民と女性の洋裁師を見下しているようですが、その平民と女性の洋裁師の作ったドレスを褒めちぎっていたのは、紛れもなくあなただったのに、何で平民と女性だと言うだけで劣っていると言われなきゃいけないんですか? 明らかに矛盾していますよね?」

「そ、それは……」

「あなたのような実力から目を背けて、平民と女性と言うだけで見下すような人の下で働いても、いい服は作れないと思います。それに噂で聞く限り、洋裁師ギルドの社内環境はあなたのような人がいるせいか最悪のようなので、いくら説得されても到底入る気にはなりません。私とリュウを洋裁師ギルドに入ってほしいなら、その考え方を捨て、私とリュウに頭を下げたら考えてあげてもいいですわ」



 副ギルド長の誘いを断ると、副ギルド長は突然激高して机を思い切り叩く。



「貴様っ、立場をわきまえろ! 私をだれだと思っている。洋裁師ギルドのNО2だぞっ。お前とは生きている世界が違うっ。そんな私にそんな口をきいてタダで済むと思うなよ!!」



 副ギルド長は、息を荒げながらそう言い放つと、勢いよく扉を閉めて学園長室から出ていった。



「怒らせてしまいましたね」

「気にするでない。そなたたちは本当のことを言っただけじゃ。何も気に病むことはない。あやつの機嫌取りはわしのほうからしておこう。それにしても、よく初対面の人にあそこまで言えたのぉ。見ていてすがすがしかったぞ」

「あまりにも腹が立ったので、つい」

「だが、あのような考え方の者は少なくない。これからも洋裁師として生きていくのなら、不当な扱いを受けるであろう。それでも服を作り続けるのか?」

「「はい」」

「そうか、わしは応援するとしよう。とはいえ、商品登録の手続きはあやつに任せようと思っていたのじゃが怒らせてしまった今では不可能じゃな。そこでじゃ、そなたら今度の休みに商人ギルドに行って、自分たちで商品登録の手続きをしてこい」

「お、俺たちでもできますかね?」

「安心するのじゃ。商人ギルドにはワシのほうから連絡を入れておくし、教師も同行させる。それに商品登録と言っても話を聞いてサインをする程度だからすぐ終わる。何も戸惑うことはないはずじゃ」

「そ、そういうことなら……」

「では今度の休みの日に学園の門の前で待ち合わせするように。話は以上です。もう帰っていいですよ」

「失礼いたします」



 学園長室から出た私とリュウは、街の中にある商人ギルドに行く後にどこに寄り道しようかウキウキしながら話し合っていた。


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