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15話 聖剣の祭典

 裁縫科の授業が終わり、教室を出た私とリュウは持っている服について話していた。



「今日の授業でも貴族が着るような高級な服についてだったな。やっぱりオルガも安物の服は持っていないのか?」

「そうねぇ、安物の服でも平民が着るものと比べたら高級品ね。やっぱり持っている(もの)が大事よね。いい(もの)を持っていて損はないわ」

「そうかぁ? 安いものでも十分なおしゃれはできるぞ」

「それはそうかもしれないけど、いい(もの)は品質がいいから長い間着られるわよ」

「平民だってつぎはぎにしたら着られるもん」

「それってなんかダサいじゃない。そうだ! 私が平民相手に服を作る時は、安いのにおしゃれで、長い間着られる服を作ったらいいんじゃない?」

「それはいいな、賛成だ」



 廊下を歩いていると、生徒たちが聖剣の祭典に参加しようか話しているところを目撃した。

 そろそろアレックスも、聖剣の祭典に参加しようかミオに相談して、王都の広場に向かう頃よね。

 アレックスは聖剣に選ばれたら、反乱を起こすときに重要なキーパーソンになることをわかっているわ。


 だけど、魔法石を持たないことをコンプレックスにしていたアレックスのことを考えると、聖剣使いになることがアレックスのためになる。

 破滅の運命は避けたいけど、今までつらい人生を歩んできたアレックスのためにも、聖剣に選ばれるべきよね。


 廊下を歩いていると、目の前の曲がり角を曲がろうとしているアレックスの姿を目撃した。

 何で!? そろそろ聖剣の祭典が終わっちゃうのに、なんでアレックスが学園の校内にいるの?

 聖剣の祭典は今日で終わってしまうから、今を逃すと聖剣に選ばれないじゃないっ。


 焦った私は曲がり角を曲がったアレックスの後を追って、アレックスの腕を掴む。



「アレックスっ、どうしてここにいるの!? 聖剣の祭典は?」

「……僕なんかが聖剣に選ばれるはずないじゃないですか。無理に決まっていますよ」

「やってみないとわからないわよ。挑戦してみるだけ挑戦してみたら?」

「結局は持って生まれるものがすべてですよ」



 アレックスは顔を歪めると、悔しそうに笑って私が掴んだ腕を薙ぎ払う。

 いやいやいや、あなたは聖剣に選ばれるのよ。

 ここで諦めたらアレックスは、今までの努力が報われないままじゃない。

 そんなの見過ごせないわ!

 私の手を薙ぎ払ったアレックスの腕を再び握り、アレックスの顔を見つめ、



「もし、聖剣に選ばれたら女神の加護を受けなかったアレックスの力になると思う。自分から希望に逃げていたらずっと今のままよ?」

「もし選ばれなかったときは僕には何も残りません。そうなったときが怖くて仕方がないんですよ」



 震えるアレックスの手を握り、



「その時は私がそばにいて、寂しい思いはさせないわよ」



 私の言葉が響いたのか、涙ぐんでいた瞳を腕で拭い、凛々しい表情になる。

 やる気を出したアレックスは、私にも聖剣の祭典についてきてほしいと言ったので、私は即答でОKした。

 なぜかリュウもついていくと言ったので、私はアンに馬車を手配するように言うと、先生の許可を取って広場に向かった。


 広場に着くとたくさんの人で広場は埋め尽くされていて、いまだに聖剣は光らないままだったようね。

 聖剣の祭典に参加したアレックスは、聖剣を握る長い列に並ぶ。

 列に並んだたくさんの人が順番に聖剣を握るが、誰にも反応を示さない。


 そんな中アレックスの番になり、緊張の糸が張り詰める空気の中、恐る恐る聖剣を握るが何の反応を示さない。

 誰もが諦めて次の人に順番が移ろうとした瞬間、ゆっくりと聖剣が光り出したと思えば、強烈で眩しい光を放つ。

 その光は広場中を照らし、金色の粒子が舞い降りた。



「せ、聖剣が光を放ったということは、聖剣が剣聖にふさわしい人物を選んだぞーっ」

「ほ、本当に僕が聖剣に選ばれるなんて……」

「アレックス、やったわね! やっぱり今までの努力は無駄じゃなかったのよ!」



 アレックスのつらかった人生が大きく変わった瞬間に感激した私は、思わずアレックスに抱き着くと、アレックスは聖剣を握ったまま私を抱きしめる。



「オルガが後押しをしてくれなかったら、聖剣に選ばれるチャンスを逃すところでした。全部オルガのおかげです。本当にありがとうございました」

「何を言っているのよ、聖剣に選ばれたのはアレックスの努力のおかげよ。後押しをしてアレックスの役に立てたならよかったわ」



 アレックスは大勢の前で私に向かって地面に膝をつき、聖剣を地面に置くと、淡々とした口調で、



「剣聖の名に誓ってオルガに危険なことが起きた時、必ずオルガを守って見せます」



 大勢の前で、剣聖に選ばれたアレックスが私を守って見せると膝をついたことに、計り知れない優越感を感じたわ。

 それに何より、これで強い味方ができたわ! 

 アレックスが味方になってくれたおかげで不幸な運命が変わるかもしれない。

 そして何より、女神の加護を受けていないことで不当な扱いを受けていたアレックスが、これで堂々と聖剣使いだと言えることが自分のことのようにうれしいわ。

 一応悪役令嬢と呼ばれる私だって、人の幸せを喜べるところもあるのよ。


 アレックスと見つめ合っていると、後ろに立っていたリュウが間に入ってきて、私の前に立ち両手を広げる。

 一体何をしているのかしら?



「オルガなら俺が守るからお前に守られなくても大丈夫だ。というか、お前はオルガの何なんだよ」

「僕はオルガの友達です。それに、味方は多いほうがオルガも安心でしょう? 僕にもオルガを守らせてください。少なくともあなたより僕のほうが心強いはずです」



 とりあえず、信頼できる仲間がアンと使用人を除いて2人もできたわ!

 2人は熱く見つめ合っているくらい仲が良いんだから、これからもバッドエンドの人生を変えるよう努力しつつ、みんなと仲良くしましょう!


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