13話 アレックス・キングトン
「では、魔法石を使って魔法の実技を行う。順番に自分の魔法石を使って目の前の鎧に向かって魔法を放て」
豊満な体にセクシーな服を着た女性教諭の指導の下、魔法石を使った魔法の実技を行っていた。
大怪我をしたミオも授業に復帰し、休んでいた分の勉強を取り戻そうと必死に授業に食らいついているわ。
美の女神の加護を受け、美魔法石を使わなくても美魔法が使えるミオは、この授業でも注目の的ね。
私の美魔法石なしでも美魔法が使えるけど……。
『やめておきましょう。それは私を体に宿してからの話で、突然美魔法石なしに魔法が使えるようになったらいろいろと怪しまれます。この授業は見学にしておきましょう』
わかったわよ、注目を集めたいのはやまやまだけど、ここは見学することにしておくわよ。
実技をする前に、この世界のほとんどの人間が持っている魔法石の説明を女性教諭が行った。
この世界の人間は生まれながらに女神の加護を受けていて、魔法石に魔力を流し込んで、加護を受けた女神の属性魔法が使う。
6歳になると、洗礼として教会で自分の使える魔法の元になる魔法石を女神に導いてもらい、魔法石の指輪をもらうのよね。
洗礼で女神に魔法石を導いてもらうには、各地の教会に保管されている魔道具の水晶に手をかざして、魔法石の属性に応じた色の光を放って魔法石を導いてもらい、魔法石の指輪をもらう。
例えば火なら赤、水なら青、風なら緑など、間違えることがないほどにはっきりとした色の光を放つの。
この世界で主に使われる魔法の元ともいえる魔法石は7つ。
火魔法石、水魔法石、風魔法石、土魔法石、光魔法石、闇魔法石、美魔法石ね。
魔法を使うには魔法石が必要で、魔法石に魔力を流し込むと、流した魔力の量や質に応じた魔法が放たれる。
中には魔法石を使わなくても魔法が使える人がいるけど、そういう人たちのほとんどは、この世界で頂点に立つ聖女になっている。
上流階級の貴族や王族は守護石を2つもつ人もいるけど、稀に平民でもいるとのこと。
その1人がリュウね。
2つの属性魔法を持つ人は、1つの色を放った後にもう1つの色を放つらしい。
私は生まれながらにして極わずかな美の女神の加護を受けているけど、ほかの魔法石とは違って美魔法石は希少だから私に美魔法石の指輪は与えられなかった。
だから魔法を使えないと同様だったんだけど、美の女神を体に宿してから魔法石なしでも美魔法が使えるようになったわ。
ミオも美魔法石を使わなくても美魔法が使えて、革命を起こすほどの力を持っていたっけ。
とはいえ、この世界で女神の加護を受けていない人は稀な分、虐げられることは多い。
そう言えば、私を断罪する際のミオの仲間にも女神の加護を受けず、不当な扱いを受けて虐げられている人もいたわね。
確か、きれいで長い銀髪を一つにまとめていて、服の上からでもわかるほどの鍛え上げられた体なのに細い体格をして、どんな時も聖剣を持っていた美男子よ。
確か名前はアレックス・キングトン。
女神の加護を受けずにどの魔法石も扱えない中、伝説の剣聖しか扱えない聖剣を扱い、剣聖として皇宮騎士団騎士団長になって、革命を起こす際、平民たちや反皇国側の騎士たちの筆頭となり、皇国側の貴族や騎士たちと戦う。
確か、加護を授からなかったせいで家族や周りから虐げられ、孤独な人生を歩んできたアレックスに、唯一優しくしてくれたミオに好意を抱き、ミオの仲間になる。
そして皇族派の騎士との戦いで、剣聖にしか扱えない聖剣を使って敵からミオを守ったことで、ミオとアレックスは固い絆で一致団結する。
そんなアレックスを私は魔法石を使えないことを理由に、馬鹿にした挙句、いじめてアレックスに恨みを買って、没落貴族に結び付くのよね。
魔法は使えず、聖剣にはまだ選ばれていないものの、剣術の腕は確かなはず。
美魔法をろくに使えこなせない私に勝てる勝ち目はないから、極力関わらないようにしましょう。
「あいつだよ、女神の加護を受けなくて魔法の使えない落ちこぼれは」
「魔法が使えないだなんて、この世に生まれてきた意味があるのかぁ?」
「あいつが優れているのは剣の腕だけだろ? 魔法を放って本当に剣の腕がいいのか試してみようぜ」
「やめなよぉ、当たって死んじゃったらどうするの? フフフフっ」
また魔法を使えないことで陰湿ないじめが蔓延っているようね。
まるで私のことを言われているようで聞いているだけで不快だわ。
……まさかこいつら、私のことを言っているの?
私が美魔法を美魔法石なしでも扱えることも知らずに、見学しているからって調子に乗りやがって……っ。
そう言えばさっきから私のほうをチラチラと見て笑っているように見えるわ。
こいつら、私に喧嘩を売ってくるとはいい度胸をしているじゃない。
その喧嘩、買ってやるわよ!
「あなたたち、さっきからコソコソと話しているけど、言いたいことがあるなら面と向かってはっきりと言ったらどうなの? それとも、魔法の使えない私とアレックス・キングトンには言えないことなのかしら?」
「オ、オルガ様っ、け、決してオルガ様に言っていたわけじゃ……っ」
「あなたたちは生まれ持った女神の加護にずいぶんと誇りを持っているようだけど、アレックス・キングトンは魔法が使えない分、努力をして手に入れた誰にも負けない剣術の腕を持っているわ。それは血の滲むような努力の結果なんだから、生まれながらに魔法が使えるだけの人よりもずっとすごい事よ。あなたたちにバカにされるようなことは1つもないわ」
私だって誰にも負けない裁縫の技術(美の女神のおかげ)があるし、あなたたちに負けているところなんて1つもないんだからね!
ほら、この人たちは私の正論に言い返す言葉が見つからないのか、こちらを睨んでくるだけで言い返そうとしてこないわ。
論破してやったわね!
「……んだよ、公爵令嬢だからっておだてていたら調子に乗りやがってっ。魔法の使えないやつに俺たちが劣っているわけねぇだろ、これでもくらえっ!」
「バカっ、お前は魔法の制御ができないだろ! オルガ様に傷でもつけたらただじゃ済まな……」
私に激高してきた生徒の放った火魔法は、大きな玉となって私に向かってきた。
魔法が制御できないくせに人に魔法を放つんじゃないわよっ。
どうしよう、美魔法を発動すべき?
でも美魔法石なしに美魔法が使えると知られたら、いろいろと面倒になって来るわよね。
ていうか、美魔法に攻撃を防ぐ能力なんてあるの?!
どうしよう、どうしよう、どうしようっ!!
どうしようもできずに、手で体を守りながら強く目を閉じていると、私の前にアレックスが立ったと思えば、火の玉を剣で一刀両断する。
剣を振るっている姿はキレと力強さ、素人の私でもわかる剣術の技術があって、長年努力していることがよくわかったわ。
場が騒然とする中、ようやく女教師が来て、魔法を放ったバカをしかりつける一方、足がすくんで立てずにいる私に、アレックスは手を差し出して、優しく話しかける。
「大丈夫ですか? 怪我はしていませんか?」
「え、ええ、大丈夫……」
アレックスの顔に行っていた視線を下に下げると、アレックスの足に火の玉が当たったのかズボンが焼けていて、少し足がただれていた。
「あなたっ、足を怪我しているじゃない! 早くポーションで癒さないと。今すぐ保健室に行きましょう!」
私はすかさずアレックスの腕を掴み、セクシーな女教師の許可を取って保健室に向かった。
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