11話 レッドドラゴンを味方につけて
私の手配した馬車に乗り、いつも通りにリュウと馬車の中で話しながらクレアさんの家がある『キヌイ』に向かっている最中のことだった。
突然、道に何十人もの盗賊が現れると、盗賊は馬車の馬を斬りつけ、馬車を運転していた騎士も切り倒す。
盗賊たちは私とリュウを馬車の中から引きずり出し、縄で縛られると、金目のものはないか豪華なドレスを着ている私の体をべたべたと触りまくる。
「ちょっとっ、どこ触ってんのよ!」
「やっぱり貴族様は俺たちとは違って食っているものが違うのか、体つきまでいいや。どうせだからこの女は俺たちの愛玩具としてアジトまで連れて行かねぇか?」
「やめろっ、金目のものは全部渡すし、俺はどうなってもいいから、オルガに危害を与えないでくれ!」
「兄ちゃん、ずいぶんかっこいいこと言うじゃねぇか。でもお前はこの姉ちゃんを守れるような男じゃねぇってことを自覚したらどうだ! ぎゃっははははっ」
「ちょっとっ、この服お気に入りなんだから、めちゃくちゃにしないでよっ」
金目のものがないか私の体を触りまくる盗賊たちに抵抗するが、成す術がなくされるがままいると、リュウが辺りを見渡しておかしなことを言いだした。
「なんなんだ? お前たちはどこから俺に話しかけているんだ!?」
「リュ、リュウ?」
「おいおい、恐怖のあまり頭がおかしくなったのか? 本当に情けねぇな!」
「こんな奴さっさと殺して、さっさとこの女をアジトまで連れて行こうぜ」
「頼む、俺たちを助けてくれ!」
リュウが叫んだ途端、空からレッドドラゴンが現れてリュウのそばに舞い降りる。
盗賊たちはレッドドラゴンを刺激ないよう動かないようにしていたが、レッドドラゴンの威圧感溢れる見た目に半泣き状態だった。
「俺に話しかけてきたのはお前なのか? 頼むから俺たちを助けてくれないか?」
リュウはずっと一人で何かと話していて、一方でレッドドラゴンはリュウの言葉に応えるように縛られていたリュウの手足の縄を牙でほどくと、リュウは私の縄をほどいてくれた。
「レッドドラゴン、この盗賊たちを2度と悪さのできないよう懲らしめてくれないか?」
リュウの言葉にレッドドラゴンは応えるように盗賊たちに向かって火の玉を放つと、辺りは焼け野原となった。
盗賊たちは、あまりにも強力なレッドドラゴンの攻撃にビビって逃げていった。
「オルガ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫よ。ところでリュウにはレッドドラゴンの言葉がわかるの?」
「ああ、レッドドラゴンの声が頭の中に響き渡るように聞こえるんだ。大丈夫、レッドドラゴンは俺たちの味方だから」
リュウはレッドドラゴンの頭を撫でると、レッドドラゴンは大人しく喉を鳴らしている。
「そうだ、レッドドラゴンにお願いがあるんだ。『キヌイ』という街まで背中に乗せて連れてってくれないか?」
「ちょ、ちょっと! 何言っているの、そんなこと可能なわけ……」
リュウのお願いを聞いたレッドドラゴンは背を低くして大人しくしている。
リュウは翼に足を置き、レッドドラゴンの背中に乗ると私に手を差し出す。
「ほら、来いよ」
「ほ、本当に大丈夫なの? 襲ったり、背中から落ちたりしない?」
「大丈夫、レッドドラゴンも安全を保障するって言ってくれているから」
「で、でも……」
「馬車を動かせない今、ドレスを間に合わせるにはこの方法しかない。大丈夫、オルガは俺が守るから」
確かに馬車が動かせない今、ドレスの完成に間に合わせるにはレッドドラゴンに乗って移動するしか手段はないけど、本当に大丈夫なの?
リュウを信じないわけじゃないけど、あのレッドドラゴンよ?
一体で国を一つ滅ぼしたと呼ばれる、最強で伝説と呼ばれる魔獣のあのレッドドラゴンよ?
そんなレッドドラゴンの背中に乗せてもらえるリュウは一体何者なの?
私は恐る恐るレッドドラゴンに近づき、手を差し出しているリュウの手を取ってレッドドラゴンの背中に乗る。
レッドドラゴンの背中はひんやりとツルツルしていて、10人くらいは楽に乗れそうだ。
でもいくら広いとはいえ落ちないか心配ね。
リュウにくっついていましょう。
私は前に座るリュウの背中にくっつくと、リュウは少し体をびくっとさせる。
「? どうかした?」
「い、いや、何でもない……」
レッドドラゴンは大きく翼をはためかせると、風を巻き起こしながら空高くまでに舞い上がると、街が蟻のように小さく見える。
すごい速度で空をかけるレッドドラゴンの勢いに圧倒されているうちに、キヌイの街が見えてきた。
まだ数分しかたっていないのに。
リュウがレッドドラゴンに近くの森で降ろしてもらうよう頼むと、レッドドラゴンは素直に応じる。
森に降り立った私たちは、レッドドラゴンに待ってもらうようお願いすると、レッドドラゴンは文句を言いながらも待ってやると言ってくれたそう。
本当にリュウのレッドドラゴンを従えさせるほどの魔獣に懐かれる体質は異常ね。
森からキヌイの街にたどり着いた私たちは、地図を頼りにクレアさんの家に向かう。
クレアさんの家はキヌイの街でも貴族が住む高級住宅街の中にあって、家もとてもでかい。
扉をノックすると使用人と思われる中年の女性が出てきて、事情を説明すると快く家に入れてもらえた。
クレアさんに事情を説明してブライダルインナーを渡すと、すぐに対応してくれた。
ブライダルインナーを着たクレアさんを採寸するのは同じ女性の私で、リュウには別の部屋で待機してもらう。
さっそく【洋裁神具】で採寸するとしましょう!
『【洋裁神具】のメジャーの数値は視界に映るようになります。測りたいものに視線を向けてください』
あれ? 目がしばしばしてきた。
とっさに目を腕でこすってクレアさんに視線を向けると、クレアさんの身長に体重、スリーサイズに、服作りに必要なサイズの数値が視界に現れた。
これが美の女神の言っていたことね。
服作りに必要なサイズの数値はわかるけど、体重やスリーサイズまでわかってしまうとは……。
見る側でよかったわ……。
美の女神、このサイズの数値に狂いはないのよね?
『もちろんです。【洋裁神具】は美の女神が与えたチートスキル。狂いなど存在しません』
そう言うことならこのサイズの数値を信じましょう。
クレアさんの体を見ただけで紙にサイズを描き出した私を見て、クレアさんと使用人は不思議そうに首をかしげる。
「もう服を着て良いですよ」と言うと、何度も「本当にいいの?」と不安そうに確認してきた。
「大丈夫」と言うと、紙に書いたサイズが合っていることを確認すると、不思議そうに服を着ていたわ。
リュウを部屋に呼び、すぐさまクレアさんの家を出て森に行くと、レッドドラゴンは昼寝をして私たちを待っていてくれた。
いなくなっていたらどうしようかと不安に思っていたけど、待っていてくれたところを見て、レッドドラゴンのリュウに対する信頼度はかなり高いと見た。
レッドドラゴンの背中に乗って皇都に向かっているまでの間、リュウとウエディングドレスに使う生地について話していた。
「やっぱり生地はパティーニ生地を使うべきかな?」
『それならお勧めしたい生地があります。————』
なるほど、美の女神がおすすめするなら信じてみてもいいかも。
「私はどうしても試してみたい生地があるのよ。サテン生地っていうんだけどわかる?」
「サテン生地……、聞いたことないな。生地屋に行ってサテン生地と言うものがないか聞いてみよう」
「じゃあ、私のドレスを作る際に利用している生地屋に行きましょう。そこは平民が手に出せるほどの値段のものから、貴族が買うような高級品まで、幅広い種類の生地が売っているの。知識が豊富な店員がたくさんいて、作りたい服に最善の生地を提案してくれるし」
「じゃあ、そこに行ってみよう」
リュウに生地屋の場所を教えると、レッドドラゴンに生地屋の近くの森に下ろすよう頼むと、リュウは勢い良く方向転換して生地屋の方向に向かう。
生地屋の近くの森と言っても、生地屋は街中にあるので森から生地屋の場所はそれなりに遠い。
でも、馬車や歩きで向かうのに比べたら断然早いのよね。
レッドドラゴンにお弁当として持って来たパンを口の中に放り込み、待ってもらうよう頼むと、レッドドラゴンは横になりいびきをかき出す。
この様子だと寝て待ってくれるようね。
できるだけ早く終わらせて待ち時間を少なくしてあげないと。
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