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1話 惨めな人生の終わり

 冷たい雪が降り注ぎ、目の前は銀世界。

 みすぼらしい服に、足の指が丸出しのボロボロの靴で煌びやかな街を彷徨うけど、すでに足や手の感覚はない。

 私がボロボロの服で寒さが身に染みる町の中を歩いても、誰かが救いの手を差し伸べてくれるどころか、私に向かって石を投げて鼻で笑っている。



「どうして、どうしてこんなことに……」



 私は以前からこんなに惨めだったわけではない。

 以前の私は目にも鮮やかな豪華絢爛な服を身に纏い、何不自由のなく、わがままを言っても全て叶えてもらえるような豪華な生活を送っていたわ。

 私もこんな生活がずっと続くと思っていたけど、終わりは突然訪れた。


 このローラル皇国は、貴族が優遇される独裁国家で、貴族と平民とでは暮らしに大きな差があったの。

 平民もそれが当たり前で、今更この生活が変わることなんてないと思っていたようで、誰も貴族に逆らおうとしなかった。

 そんな貴族の中でも私、オルガ・オールバーンは平民を虐げ、わがまま放題の悪名高い公爵令嬢として貴族はもちろん、平民の間でも有名だった。

 それが大きく変わり出したのは、美の聖女候補として異世界から召喚された佐倉美桜(ミオ・サクラ)が現れてからだったわ。


 ミオ・サクラはローラル皇国の政治方針に疑問を持ち、不満を抱いていた平民を率いて

 反乱を起こした。

 その結果女帝は処刑され、独裁国家だったローラル皇国は民主主義へと変わり、平民にも政治に加わることのできる平民が優遇される国へと変わった。


 ミオ・サクラと平民たち、反皇族派の貴族たちだけの力では、私はこんな運命をたどっていなかったでしょう。

 私をここまで惨めな思いにさせたのは、ミオ・サクラに力を貸したローラル皇国の第2皇子で、処刑された皇位継承権一位の次期女帝の弟や、魔獣使いの洋裁師、聖剣使いの剣聖、水の聖女候補などの強者たち。

 奇しくもその強者たちは、私がひどいことをした人たちでもあったのよ。


 その仲間たちは反乱を起こす際、私の今までの行いを平民たちに言って怒りを覚えさせることで、戦いの糧としていたようだわ。

 私が没落貴族になり、みすぼらしい恰好で貧しい生活を送っている姿を見て、ミオ・サクラや仲間たちは鼻で笑って私を蔑んだわ。

 以前の私はこんな惨めな思いをすることになるなんて思ってもみなかったことでしょう。


 神様は私に罰を与えているとしか考えられない。

 思い返したらああすればよかった、こうしたらよかったなどのオンパレード。


 気に入らない服を持って来ただけでメイドをクビにするんじゃなかった。

 平民だからと言って見下して暴言を吐くんじゃなかった。

 魔法石を扱えないからってバカにするんじゃなかった。

 気に入らない伯爵令嬢を寄ってたかっていじめるんじゃなかった。



「どうして、どうして……」



 私は凍えながら力なく、ただただ呟く。


 それからというもの皇国側の貴族だった私の家は没落貴族となり、平民を虐げてきたオールバーン家の生活が一変したわ。


 使用人たちは全員ためらうことなく屋敷を出ていって、身の回りの世話をしてくれる人のいない私の身なりはみすぼらしいものに変わった。

 毎日食べるものに苦労し、食べていくためにお気に入りのドレスを売って毎日を何とかしのんでいたけど、毎日生きていくのがやっとだった。

 プライドを捨てて、平民の農家に野菜を分けてくれないか頼みに行ったこともあったけど、今まで平民を虐げて豪華絢爛な生活を送っていた私たち家族に救いの手を差し伸べてくれる平民はいなかったわ。

 挙句の果てには、オールバーン家を良く思わない反皇国側の貴族に屋敷を差し押さえられ、屋敷から追い出されて将来を見いだせなくなった両親は自殺。

 天涯孤独の身になった私は今に至る。


 帰る場所を失い、ボロボロのみすぼらしい服では寒さをしのぐこともできず、空腹で意識が遠ざかっていく。


 ああ、きっと私は死ぬのね……。

 どうせ死ぬならおしゃれで素敵な服を着て死にたかった。

 もし、人生をやり直せるのなら、平民を虐げないことで平穏な生活を送り、最後まで素敵な服を着たい。

 今度こそ、悔いのない人生を……。


 どんどん意識は遠ざかっていき、雪が積もった道で倒れこむと、目の前は真っ暗になっていた。




 ◇◇ ◇ ◇ ◇




 真っ暗な空間の中、私には何の感覚もない。


 そうよ、私は空腹と寒さの余り、野垂れ死んだんだわ。

 きっとここは地獄ね。

 私の姿は没落貴族になる前の姿のようだけど、私は一体どうなるのかしら?


 何もない空間の中をただ彷徨っていると、一筋の光が見えてきた。

 その光は何もない空間では救いの手のように見えて、光に集まる蛾のように光に吸い込まれていくと、次第に光が強くなっていって、明るい空間に出た。

 そこは何もない光に包まれた空間で、先ほどの不安になるような真っ暗な空間とは相まって、幸福感に満ち溢れていた。


 何もない空間を立ち尽くしていると、奥のほうから光の玉が近づいてきた。

 触れようとしても、透き通って触れることができないわ。

 これは一体何なのかしら?



『こんにちは、オルガ・オールバーン。前の人生の最後は散々でしたね』

「美しい女性の声が頭に鳴り響くように聞こえてきたっ。この声は何者なのっ?」

『私は美の女神。あなたに用があってあなたを私が作り出した異空間に招きました』

「女神様が私に用? 一体何かしら?」

『あなたに人生をやり直す機会をあげましょう』

「本当に!? そうだとしたら今度こそ、悔いのない人生を送りたいわ! でも、美の女神様は何で私にそんなチャンスを?」

『よく聞いてくれました。あなたはずいぶんとおしゃれが好きなようですね。私にはそんなあなたが必要なのです』


 まあ、よくわからないけど、人生がやり直せるのなら何だっていいわ。


『あなたが人生をやり直すためには、私の出した条件を受け入れてもらいます』

「受け入れます、受け入れますっ。どんな条件でもどんと来いよ!」

『そう言ってくれるとありがたいです。私の出す条件は私をあなたの体に宿らせてもらい、本来の力が貯まるまで美魔法を使って、美の女神の力を増幅させてもらいたのです』

「美魔法ってどんな力があるのかしら?」

『人の美しさを増させたり、スキルの力をあげたりするだけではなく、相手の攻撃や動きをコピーして数倍の力で反撃することもできます。美魔法を使う方法としては服を作って、その服に美魔法をかけることが簡単ですかね』

「服なんて作れないけど?」

『服を作る上で必要な知識は体に宿った私が教えますし、技術は私の力を宿らせたチートスキル【洋裁神具】を与えるので安心してください』



 この私が服を作るなんて、そんなみっともないことできない——けど、前の人生に比べたらなんてことないわよね。


 私の人生は、ミオ・サクラが革命を起こして貴族社会から民主主義になったことで、平民の貧しい生活など顧みず、豪華絢爛な生活を歩んだせいで人生がめちゃくちゃになったのよね。

 ただの公爵令嬢にすぎない私は、これから起きる革命に関わることはできない。

 そうなったら今まで通りではまた同じ人生を歩んでしまうわ。

 私のようなただの公爵令嬢は、革命が起きる未来を変えられるわけもないんだし、次の人生では平民を第一に考えて、没落貴族になっても平民から助けられるような関係性を築かないと。

 その為にも美の女神の力を有効活用して、平民に素敵な服を作ってあげましょう。

 それに、私が自分で服を作れるようになれば、自分の思い通りの服を作れるのは魅力的じゃない。

 私はあんな人生を送らないためにも、すべての女性のために服を作ろうじゃない。

 今度の人生はすべての女性のために服を作ることに尽力しましょう!



「わかりました。その条件を受け入れて、今度こそ処刑されない人生にするために、人生をやり直します!」

『交渉成立ですね』



 美の女神と名乗る光の玉は、私の胸の中に入っていくと、元々あった胸の痣が濃くなったと思えば私は光に包まれる。

 光に包まれた空間がどんどん遠ざかっていくと同時に、私の意識も朦朧として行き、気づいた時には目の前に豪華なフリルや装飾が施された天板があった。


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