タバコの吸える場所
看護師が薬を配りに来て、それを受け取って飲み、
部屋に戻ってパソコンを開いてFacebookをチェックして、障害者のハラスメントの投稿をコーピーしてWordに張り付けた。
マスメディアが投稿している物を見ていき、1件だけ障害者の事を記事にしているのを見つけて、コメント欄に投稿した。
しばらくすると中年の小柄で細めの看護師が来て
「松本さんの担当看護師です」と早口で言われ
「え、はい」と答えると
「何が原因でここに来たん」
「職場でのパワハラが原因です。
大声で怒鳴られたり、無理な仕事を押し付けられてミスした事を写真に撮られて、事務所に張り出されたり、いろいろあって」
「そうか、昨日は眠れたか」
「はい、疲れていたのか5、6時間位寝れました」
「普段はどのくらい寝れる」
「だいたい3、4時間ぐらい」
「まぁ、それくらい寝れたら大丈夫やろう。
私が担当看護師やから、何かあったら言っていて」と言って、足早に出て行った。
する事がなくなり本を読み始めたが集中力が直ぐにとぎれて読むのを辞め、テレビがある所に向かった。
テレビの周りには誰もいなくて、奥の方で中高年のおばちゃんが4人でトランプをしていた。
それを見ながら食事をした所にリモコンがあったので、席に着き7テレビをつけた。
しばらくすると坂口が来て
「何もおもろいテレビやってないから暇やろう」
「そうやね。何処か行ってたん」
「タバコを吸いにな」
「「しょちゅう外に行ってもいいんか?入院中やから何か言われるんちゃうの」
「何も言われへんで、遠出する時は外出届を出さなあかんけど」
「そうなんや、暇やしコンビニでも行ってくるわ」
「そうか、タバコは吸わへんのか」
「脳の病気になった時に辞めた」
「凄い、意思強いな。俺はやめられへんわ、脳の病気ってなんや」
「辞められへんかったから、禁煙外来にいって辞めてん。
人間ドックとセットになってる脳ドックを受けたら『異常がある』と言われて、脳の専門医がいてる病院で診てもらったら「難病のモヤモヤ病」って言われて、それからタバコ辞めてん」
「そうか、禁煙外来に行ってまで辞めようとは思えへんわ」
「タバコって金の無駄やろう値段上がってるし、禁煙外来に行って一錠500円の薬を飲むんやけど、薬飲んだら気分悪くなるし金は勿体無いはで、アホらしなって辞めた。
辞められん奴もいてるらしいけど」
「そうか」
「暇やから行ってくるわ」
ナースステーションで「外のコンビニに行く」と言って、札を渡して外に出た。
以前に就労支援で日々商事に来ていたのと、自転車で十数分でここまで来れていたので土地勘があって、コンビニ近くの中学校をぐるりと回り運動がてらに遠回りをしてコンビニに着いた。
別に欲しいものはなかったが本のコーナーを見ると読み続いている漫画の最新刊が売っていて、それを買った。
日々商事の隣の広場に行くと、坂口と朝食の時にいた60代ぐらいの太っている大柄の女が2つ横並びなっている4人ぐらい座れる長いベンチに座っていて、坂口が話しかけてきたのでベンチに座った。
煙草を吸いながら「松本さん」と、簡単に坂口が60代ぐらいの太っている大柄の女に自己紹介をしてくれた。
「私は浦、人の名前を覚えるのが苦手やから覚えられんかったらごめんな」
「あ、大丈夫。俺も人の名前覚えるの苦手で、会話の内容は覚えてるから話は合わせられるけど」
「そうそう、分かる」
「浦さんはどんな症状でここに来てるん」
「家におったら寂しくてイライラして、娘と息子がいてるけど1人暮らしやから」
「一人暮らしやったら暇ですよね。
訪問看護師やヘルパーには来てもらってないん?
俺は訪問看護師とヘルパーに週2回ずつ来てもらってる。
看護師には、薬の飲み忘れがあるから曜日を書いてる薬を入れられる大きな表に薬のセッティングをしてもらって、体温、血圧、酸素を計ってもらってる。
ヘルパーには掃除をしてもらっている。買い物にいってもらったり料理を作ってもらったり出来るけど、俺は飲食店を経営してたから安くて良いものを買って好きなものを食べたいから買い物に行ってもらったり料理は作ってもらってない。
障害者手帳持ってるやんねん?手帳もってたらタダで来てもらえるから医者に相談したらいいねん、暇つぶしにもなるし助かるで」
「そうなんや知らんかった、今度娘が来た時に話してみるわ」
「障害年金は貰ってるん、精神の2級に該当してたらほとんどの人は障害年金がもらえるはずやけど」
「60歳超えてるから普通の年金をもらってる、どっちが得なんかな」
「生活保護は障害者手帳持ってたら幾らかプラスしてもらえるみたいやけど、年金の事はよく分かれへんわ。娘さんかケヤマネに聞いた方が良いと思うで」
「分かった。娘の子供の足が悪くて身体の手帳をもってて、その時にいろいろ調べて勉強してたから娘は詳しくて、娘に聞いてみるわ」
「それやったら大丈夫と思うわ」
「明後日、娘が来るから話して聞いてみるわ」
「そうしたほうが良いと思う。暑すぎてしんどなってきたから戻るわ」
「そう。脳の病気って聞いたけど、気を付けて戻ってや」