4-2 遠吠えダイスキ
遠吠えダイスキ。元より目撃例が少なく、学術的な調査が行われる前に絶滅した、ニホンオオカミです。
山の頂あたりに広がるススキの原が、お気に入りスポット。岩穴に巣を作って、三頭ほど出産。
みんな仲良しなので、頻繁に遠吠え大会が催されマス。結婚祝いとか、出産祝いとかイロイロ。
仲間が迷子になったら、それはもう大騒ぎ。見つかるまで吠えマスよ。近距離なら障子が震えるホド、大きな声でネ。
近所迷惑? ゴメンナサイ。
そうだ皆さん。『送りオオカミ』って、聞いた事ありませんか。私どもテリトリーに入った動物の後を、監視するように付いて行く習性が有るんです。
つまり見送るのでは無く、見張ってマシタ。
この習性を良いように解釈して出来たのが、『送り犬』。『道を守る者』なんて、ステキな表現も有るそうで。ウフフ。
ナンデスッテ!『親切を装って女性を送りながら、途中で強引に誘惑する危険な男性』という意味なのですか、送りオオカミは。
山中で道行く人の後をつけ、隙あらば襲うオオカミから取ったと。・・・・・・信じられない。
著しく、名誉を傷つけられました。
遺憾砲? そんなモノ届きませんよ。不本意では有りますが、奉行所に訴えます。白洲で会いましょう。
私ども安全を確保するため、監視するダケ。危害を加えられない限り、人を襲う事は有りません。人の死肉は、食らいマスよ。行倒れてるんだモン。
骸をヒョイと跨いで、尿を引っ掛ける。夜まで待って、美味しく頂くためにネ。通行人が見つけて棺桶に入れても、匂いで判ります。
竹を割いて作る、桶を補強する輪っか。危険ですよね。桶を壊そうとして、死ぬ仲間が稀に居ました。竹のササクレがブスッと、喉に刺さって。
冬の土は凍って固いから、穴を掘るのが大変。日が昇って暖かくなってから葬ろうと、屋外に出していたのでしょう。
冬は獲物が少ないから、死肉は御馳走なんです。
そういえば冬の間、飢えたニホンオオカミが民家を襲う。なんて話を聞きましたが、どう考えても冤罪です。
襲うなら家畜小屋。戸締りした民家に押し入るナド、私どもには不可能。
穴を掘っても、入れるのは床下。土間や三和土は固すぎて無理。床下に出ても、床板は破れません。
上がり框の下にも、板を張ってマスよね。冬の夜に雨戸を閉じない家なんて、無いでしょう? ほら、ね。
日本の狼に関する著作に、狼が家屋に侵入して人を襲った記録がチョクチョク出てきます。けれどアレ、野良犬じゃないでしょうか。
私ども狩りの名手。冬は腹ペコですが、他の季節はシシやサルを狩りますよ。
そもそも人間は雑食性で、美味しくないんです。狂暴だし、火を使うし。
仮に、仮にです。襲うなら家畜が一番。飛び道具なんて使わないし、とっても美味しいモン。
なぜ知っているのかって? うぅんとぉ、ゴニョゴニョ。
ニホンオオカミによる家宅侵入、および殺人については、無罪を主張します!
思えば人って、恐ろしい生き物ですよね。生きた動物を、そのまま呪術に使うんだもの。生贄にしたり闇落ちさせたりして、殺すんですよ。で、頭だけ祀る。
本州・四国・九州の旧家などに、ニホンオオカミの頭骨が保管されています。魔除けとして使われた地域では、多くの頭骨が。
発見してビビった遺族が慌てて、御祓いを依頼するとか。・・・・・泣いてイイ?