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4-14 誰か助けて


どうして? どうしてなの? 群れ同士の争いなら、死ぬまで争うのは当たり前。でも違うよね。ボクたちオオカミは、生きた人なんて襲わない。


カノシシやイノシシ、サルは大好き。美味おいしいモン。クマとかキツネとかタヌキとかも食べるよ。でもね、人は死肉しか食べない。それも冬ダケ。






「ヲォォン。」 サキニユケ。


父さん、前に話してくれたよね。多くの仲間が暮らしてたって。



「ヴォン、ヴゥ。」 ニゲナサイ、オウカラ。


何が起きたの。どうして居なくなったの。どうしてボクら、殺されるの。



「ヴヲォォン。」 カマワズユケ。


父さん母さん、兄さん姉さん。みんな、みんなドコに居るの。



「オオォォン。」 ボクハココダヨ。


ボク一匹じゃ寂しいよ、怖いよ。






生まれ育った山が丸裸に。人がワンサと来て、バッサバッサと切り倒したんだ。そのたびに大きな音がして、それで逃げたんだよ。



逃げ込んだ山には、よだれをダラダラ垂らす犬。上を向いて、やたらガチガチ噛む犬。目つきがオカシイ犬に絡まれて、噛まれた兄さんが死んだ。


姉さんはイキナリ熱が出て、動けなくなった。元気になって、また倒れて赤いブツブツが出来たんだ。それでガタガタして、死んじゃった。


ボクも死ぬかと思ったよ。鼻水がズルズル、咳が止まらなくて苦しかった。姉さんと同じさ。熱が出て、それで動けなくなって。



群れの仲間がバタバタ倒れて、死んじゃった。この山は危ない。そう思って逃げた、逃げた、逃げた。逃げて逃げて逃げまわって、やっと落ち着いたのに。






1905年1月、寒い寒い冬の日。切り株だらけの山を、必死に逃げるニホンオオカミ。隠れる所が無いから、引き離すしか有りません。



「オイ、見ろ。」


猟師たちは喜びます。絶滅したと思っていたニホンオオカミが、離れた所に居たのですから。


「間違い無い。」


灰褐色の毛色、長い足、垂れた尾。ニホンオオカミの特徴と一致。


二人は猟銃を構え、ドーン。カチャ、ドーン。




「チッ。」


外した。


「追うぞ。」



狂犬病により、頭数が激減。明治時代、海外から導入した洋犬から、ジステンパーが大流行。オオカミ狩りに報奨金が出され、更に頭数が激減。


数が少ない、珍しい。なら欲しい。価格が高騰し、猟師にとってニホンオオカミは、貴重な獲物と化します。




「ハッ、ハッ、ハッ。」


辛い、苦しい。誰か助けて。


最後に食べたの、いつだっけ。お腹ペコペコ、フラフラするよぉ。でも逃げなきゃ殺される。父さん母さん、兄さん姉さん。ボク、ボク・・・・・・。


「キャィン。」 イタイッ。


猟師が仕掛けた罠に、引っ掛かってしまった。ガッチリ食い込んで、ビクともシナイ。もう逃げられない。



トサッ。



空腹と激痛に耐えきれず、クラクラ。足に力が入らず、静かに倒れました。チラチラと降る雪が、小さな足跡を消してくれれば。


いや、もう逃げる力など残っていない。



感覚が麻痺し、著しく体温が低下。雪の上に倒れ、更に体温が奪われる。なのに耳は良く聞こえる。


遠くからサクサクと雪を踏みしめる、人の足音が。






「オイ、見ろ。」


「だいぶ弱ってるな。」



猟銃を手にニヤリ。薄く降り積もった雪に、足跡がクッキリと残っていました。



「急ごう。」


「オウ。」






日が暮れて、辺りが暗くなってきました。もう何も見えません。痛みも、寒さも感じない。


近づく足音を聞きながら、ツゥっと涙がこぼれました。


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