4-13 呪いトカ祟りトカ、非科学的なもの
御犬様の祟りを恐れ、村人は不参加。けれど一味の中に、役人が一人。
昼間やって来た、その男は知っている。勝を育てた秀が、富永家の者だと。秀は犬神に憑かれたのではなく、守られていたのだと。
秀夫婦は、子宝に恵まれませんでした。
次郎は子沢山で、富永家はいつも賑やか。離れにも聞こえるほど。二人は甥っ子姪っ子を、我が子のように慈しみます。
愛妻を看取った秀は再婚せず、兄を支えながら家業に専念。そろそろ引退か、そんな時でした。丹沢家から御呼びが掛かったのは。
秀にとって勝は、子も同然。勝にとって秀は、親も同然。秀の死後、勝に力が移ってもオカシクない。瞬時に、そう考えたのです。
「申し訳ありません。」
平伏す役人。
「どうか命だけは。」
盗人ズ、土下座。
「どっ、どうしても確かめたかったんです。」
泣き崩れる金居。その隣で、アワアワするアンダーソン。
勝は一人で来たのでは有りません。究竟の若者を、十人ほど引き連れて来ました。皆、金でドウコウできるタイプでは無い。一目で判ります。
「今すぐ、元に戻してください。丁寧にね。」
勝の目が、ギラリと光りました。
「は、ハイ。」
不届き者が揃って『赤べこ』のように首を振り、アタフタ。
丹沢家は豪農です。所有する山の管理に惜しげもナク金銭を出すので、質素倹約を徹底しているダケ。
没落寸前? 家は古いが徹底管理。つまり裕福。でなければ家や蔵の管理はモチロン、最新型の錠前なんて入手不可能。
爵位は無い。けれど、村の有力者。特別扱いを嫌う勝は、上級役人に伝えました。『ウチは、唯の旧家ですヨ』と。
速やかに周知徹底。赴任して日が浅い、下級役人が知らなくてもオカシクありません。
元通りになった祭壇を見て、勝が微笑みました。一同ホッ。
静静と神前に進み、一礼。
それで全てを悟ります。この蔵はアレコレ納めておく『神庫』では無く、『社』なのだと。
「この度の事、大事にする気は有りません。公には、なるでしょう。祟りを恐れた人たちが、外に集まって居ますので。」
・・・・・・終わった。
「さて。」
チラリと、不届き者を見る勝。
「この地にいらした御犬様は、御隠れ遊ばしました。当家に御坐す御犬様は、丹沢の者が末代まで、御守りします。」
ココまで言えば、解るよね?
「アォォォン。」 アツイヨォ。
「アォォォン。」 フラフラスルゥ。
「アォォォン。」 ホエルノサイコー。
反論しようとしたアンダーソンは、咄嗟に縮み上がりました。勝の後ろに、数多のオオカミが見えたのです。言うまでもなく、幻影です。
顔は笑っていても、目は笑ってナイ。それどころか赤く光った、ように見えた。加えて、この遠吠え。
マズイ、非常にマズイ。マズイぞ。
昼間見た頭骨を奪って、英国に送りたい。だが、しかし! そんな事をして、タダで済むとは思えないのだ。
呪いトカ祟りトカ、非科学的なもの。気に・・・・・・なるじゃないか。
どうしてくれる、責任を取れ。今すぐ、オオカミの頭を寄越せ。そうすれば許してやる。なんてウソです、ごめんなさい。
「ご理解いただけたようで、なにより。お引き取りを。」
この事件は、どの記録にも残っていません。
功績を挙げようと来日したにも拘わらず、思うような結果が出ない。その事に焦り、道を踏み外した一行は翌朝、逃げるように西へ向かいました。
丹沢家に侵入した役人は免職、ではなく自主退職。鍵職人は頭を丸めます。
雇われたゴロツキはイヌに噛まれ、狂犬病で死亡。したとか、しなかったとか。