4-12 無いナイない無い、なんにもナイ!
先祖代代、大神を信仰していても複雑だろう。なのに、なのにナゼ渡さない。
家族を、親族を殺された。オオカミに襲われ、オカシクなったのだろう。憎くないのか、それでも人か!
「では、失礼。」
頭骨に一礼してから盆を持ち上げ、スッと立ち上がる。
「Wait!」
アンダーソンが叫ぶ。が直ぐ、動けなくなった。勝から威嚇する獣のような、恐ろしい何かを感じたから。
「アオォォン。」 イライラスル。
「アオォォン。」 ムシャクシャスル。
「アオォォン。」 アバレタリナイ。
盆に載せられた頭骨。ポッカリ空いた窪みの奥から、赤い光が?! 勿論、気の所為。しかし男たちは腰を抜かし、戦慄を覚える。
男たちは思い出した。丹沢家は『呪われた家』で、『獣使い』でもあると。イヌを使役して、他者に害を及ぼす存在。・・・・・・ヤバイ。
勝は目礼し、退出します。
キッカリ五分後、カルが黙って熱い茶を出しました。『飲んだら、お引き取りを』と、冷たい目で一言添えて。
我に返った三人は慌てて、アッツアツの茶を一気飲み。
茶が熱いのだから、茶碗だって熱い。それを素手で持って、口をつけたのです。はい、その通り。真っ赤っか。
乱暴に受け皿に戻し、手を上下に振ったり舌を出しながら、転がるように退出。スタスタと廊下を歩き、土間でアタフタ。
草履なら楽だけど、革靴はネ。
「では失礼。」
使用人から帽子を受け取り、早歩きで出て行きました。
「ハァァ。恐ろしい思いを、しましたねぇ。」
丹沢家が見えなくなるまで離れ、役人が呟きます。
「寿命が五年ほど、縮みましたよ。」
通訳兼、助手の金居も一言。
アンダーソンは怒り心頭に発する。
自分は高貴なる御方が出資する、探検隊の一員である。崇高な使命を全うするため、東亜まで来たというのに何だ!
オオカミに襲われたとか、食い殺されたとか、遠吠えを聞いたとかイロイロ聞くが、一体も出てこない。目撃情報は有るのに、なぜ死体が無い。
いや有ったが犬だった。この国の人は、犬とオオカミの区別も付かないのか。
・・・・・・欲しい。
アレはオオカミに違い無い。断言は出来ないが少なくとも40年、いや50年は経っている。
アレだけの品をポンと出したのだ。秘された蔵の中には、多くの『お宝』が眠っているハズ。
・・・・・・欲しい!
忍び込むか。いや、人を雇おう。
金を持ってるダケの庶民。いいや没落寸前の、古いダケの家だ。役人は賄賂に弱い。コッチに味方させ、強行しよう。
カチャカチャ、カチャカチャカチャ。カチャッ。
古い錠前なんて簡単、なんて思っていたらビックリ。蔵の錠前は最新型。やっと解錠してユックリ開いたらナント、内扉にまで施錠してある。勿論、最新型。
カチャカチャ、カチャカチャカチャ。カチャッ。
やっと解錠してユックリ開いたら、目の前に。分かってたよ、そんな気はシテタ。はいはい、そうですよね。コチラは南京錠。当然、最新型。
カチャカチャ、カチャカチャカチャ。カチャッ。
解錠に時間が掛かったが、何とかナッタ。ホッと一息。そっと鍵を外し、ゆっくりと。
カラカラカラァァ。
開閉する度に、木の板を叩く絡繰り。外そうにも丸ごと覆ってあって、どうにもナラナイ。黙って横に首を振り、一人ずつ不法侵入。
「What?」
蔵の中に有ったのは、欲しかったオオカミのアレコレでは無い。質素な祭壇と、供物だった。
鬼のような形相で祭壇を指さし、クイッ。
盗人どもが祭壇に頭を下げる。それから素早く供物を退け、祭壇をひっくり返した。・・・・・・何も無い。
祭壇が有った場所を調べても、何にも無い。無いナイない無い、なんにもナイ!
「お気は済みましたか?」
提灯を手に当主、勝が微笑む。
「ごっ、ご当主さま。」