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4-11 売る気は無い


アメリカの動物学者マルコム・アンダーソンは1904年、英国貴族の出資による『東亜動物学探検隊』の一員として来日。


当時、ニホンオオカミはまれな存在。ハッキリ言って、絶滅に近い状態でした。



お目当てを求め、アチコチ探し回ります。


思うような発見が出来ず、青年はあせります。生け捕りが無理なら死体でも良い。皮や骨ダケでも構わない。それだけ必死。いえ、貪欲でした。






「大旦那さま。イヌの骨が見たいと、お役人が。」


来たか。


「一人かい?」


「いいえ。異人さんと通訳、お役人の三人です。」



丹沢家には大神の『筋肉や皮、脳の一部が残る頭骨が祀られている』この辺りでは有名な話。


加えて『呪われた家』だの『犬神筋』だの『獣使い』だの、アレコレ言うのが居るのだ。『噂を聞きつけ、来るだろう』とは思っていたが・・・・・・。



「わかった。」


思ったより早かったな。


「大叔父さま・・・・・・。」


ひでの遺品でもある印籠いんろうに触れ、ポツリ。



客間に入ったまさるは、『御犬様を隠さなければ』と思いました。


噂が真実だと確信した男たちが、値踏みするようにジロジロと、調度品を見ていたのです。



「お待たせしました。」


「はじめまして。私は通訳兼、助手の金居です。こちらは動物学者、アンダーソン氏です。」






不愉快だ。こんな男に渡すくらいなら、蔵ごと燃やす。


蔵の事を知っているのは仕方ない。が、当主しか入れない場所に立ち入ろうなど!




「話は解りました。けれど、その前に確認させてください。」


「何でしょう。」


「ご覧になって、どう為さるので?」



男たちがニヤリとしました。勝は決めます。『コイツらに御犬様は見せないし、触れさせない』と。



「いくらだ。」


「いえ、先に確認させてください。金額の交渉は、それから。」


金居が慌てて、付け足しました。


「これは失礼、言い方が悪かったようだ。」


「・・・・・・は?」


「当家が信仰するのは大神です。御神体を拝むなら問題ありません。けれど、それダケで済みますか?」



何でも金で解決すると思うなよ! 御犬様は神様だ。


そもそも当主しか入れない『蔵に入れろ』だの、『出し惜しみするな』だの、失礼にも程がある。



どうせ英語なんて解らないと、高をくくっているのだろう。ふざけるな。




「蔵には多くのオオカミが保管されていると、人伝ひとづてに知りました。その中から一つ、選ばせていただきたい。」


「先程お伝えしましたが、かの蔵に入れるのは当主のみ。お引き取りを。」


勝がスッと立ち上がり、部屋を出ようとします。


「お待ちください。」


金居と役人が叫びました。




ハッ、何を今更いまさら


『一目でいいから見せてくれ?』 売ってくれの間違いだろう。売る気は無いがな。






「ほぉぉ、コレがオオカミの。」


三人の男が、マジマジと見ています。



見せなければイロイロ面倒な事になる。だから来たら、拝ませるツモリだった。


もう良いだろう、サッサと帰れ。学術的価値がドウコウ、研究者としての興味がドウコウ。そんなモノどうでも良い。



神棚に御坐すのは、大神では無い。


大叔父さまが教えてくれた。オオカミと犬の間に生まれた、若い御犬だと。神棚に祀るのは、新しい御犬と決まっている。御犬様とは限らない。



「是非、譲っていただきたい。」


「お断りします。」



幾ら探しても見つからないし、目撃情報も曖昧。ニホンオオカミは絶滅したのか。いや、諦めるのは早い。


神社で祀られている頭骨は入手、不可能。だから個人宅。それも傾いた旧家を中心に、回る事にしたのだ。



丹沢家は親族の多くを、オオカミに食い殺されたと聞く。当代が5歳の時だ。


実父はオオカミに怯えながら死んだらしい。中継ぎになったのは、養子に出された大叔父。



「どんなに金を積まれても、譲る気はアリマセン。」


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