表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/15

4-10 困り物


昔から恐れられていた狂犬病。それに加えて明治時代、西洋犬の導入に伴い流行したのがジステンパー。


狂犬病と違い、人へは感染しません。なのに報奨金を出して、ニホンオオカミの捕殺を激励しました。



アッ、わかったゾ。明治時代には『人にも感染する』と思われていたんだ! 残念、違います。ではナゼ?




戊辰戦争によって旧幕府勢力を打倒した明治新政府は、それはもう必死でした。


欧米列強諸国に肩を並べる近代国家を目指し、アレコレ推進します。衝撃的なのは1872年、明治5年に強行された太陽暦。



太陰太陽暦で暮らしていたのに、ビックリよ。


いきなり『今年の12月は、2日しかアリマセン。すぐお正月』なんて言われて、『ハイそうですか』とはナリマセン。


大掃除とか餅つきトカどうするの。とはいえ、おかみの言う事です。従いましたが農家を中心に、旧暦でも祝いましたヨ。お正月。




話を戻しましょう。明治新政府は『西洋に追いつき、追い越せ』と、イロイロ導入。採用したのは物だけでは有りません。考え方も採用しました。



日本でオオカミは信仰の対象。西洋では悪や闇の象徴、悪者です。


絶滅させたい、けれど出来ない。『オオカミを崇めるなんて、西洋人に知られたら嫌われる』とでも思ったのか、アレコレ調べます。



そんな時でした。北海道でオオカミが『軍馬を襲う』という、事件が起きたのは。


これで『大義名分が立つ』と大喜び。なぜ言い切れるのかって? 金欠にも拘わらず、大判振る舞いしたのですよ。政府が。




加えてジステンパー。


犬ジステンパーウイルスを原因とする、ネコ目 (食肉目) の感染症。免疫機能の低い子犬や老齢犬は、特に感染し易い。


犬もニホンオオカミも、ネコ目です。



主な感染経路は、罹患犬からの飛沫・接触感染。感染後2~3日間の排泄物、特に鼻水が強い感染力を持ち、3~5日の潜伏期間の後、2~3日間の高熱。



その後いったん熱が下がるも再び2~3日間、発熱。動きが鈍くなり、脱水症状を引き起こします。


軽症の場合を除いて感染後10~15日で、目の結膜や呼吸器が侵され、鼻や眼から水のような分泌物が。



嘔吐や、血便を伴う下痢が続発。皮膚に紅斑、水疱すいほう・膿疱の形成、肉球の肥厚がみられ、末期ではウイルスが神経系に到達。痙攣や麻痺など、神経症状を示し死亡。



死亡率は高いが一度罹ると、ほとんど終生免疫となるトカ。それはサテオキ、コワイ病気を持つオオカミを殺しましょう。と、相成りました。






「アオォォン。」 ハラヘッタァ。


「アオォォン。」 ハナツマルゥ。


「アオォォン。」 ナンカダルイィ。



ジステンパーに罹患し、免疫を得た犬が捨てられ野犬化。日本に導入され、逃げだした西洋犬が野犬化。やまいぬと犬との交配個体が野犬化。


野犬化、野犬化、野犬化。



「戸締りを徹底するように。」


「はい。」



使用人に申しつけ、まさるは離れへ。


放り込まれて命拾いした、あの蔵です。暮らし易いように手を加えました。母屋おもやには倅一家と姉、カルが寝起きしています。



勝も一度は結婚しましたが、子宝に恵まれませんでした。話し合いの末、養子を迎える事に。それならと、妻の遠縁から男児を引き取ります。


秀一が十歳の時、妻が病死。母を亡くした秀一は、カルを第二の母だと。カルも秀一を我が子のように慈しみ、育てました。



「困り物だな。」


毎夜毎夜、野犬の遠吠えがヒドイ。罠を張ったり駆除しているが、増えている気がする。狂犬病やジステンパーでバタバタ死んでいるハズなのに、ナゼだろう。


「母屋を渡すのは、まだ先か。」






勝はひでから多くを学び、山と御犬様の蔵を守っています。秀一にも伝え、田畑や山の管理を任せました。けれど蔵と家督は、まだ譲っていません。



丹沢家に戻った秀が、真っ先にした事。それは当主以外、立ち入りが禁じられていた蔵の整理でした。


中には頭骨以外に毛皮、全身の骨も納められています。犲だと判ったのは壺や箱に、祖父の字が残されていたから。




父や長兄、甥には区別がつかなかったようで、書かれていたのは和暦のみ。


書付を調べた結果、秀が富永家に引き取られてから毎年のように、儀式が行われていたと判明。多いとは聞いていたが、多過ぎる。



秀は勝と話し合い、毛皮や全身の骨の扱いを決めました。


本当に困っている人にダケ、大切に祀る事を条件に、頭骨を無料で譲渡します。最も古い御犬様を除いて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ