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スティールスマイル(改訂版)  作者: ガブ
第一部 「ゼロとレイア」
4/28

第4話 「過去」

 またこの夢か。

 子供のころから絶えず繰り返される悪夢が、今再びゼロを過去の世界へと誘う。


 薄暗い倉庫。広さがあるためか奥の方は完全に闇と化している。そこには大勢の子供たちが集まっており、せいぜい七、八歳程度の集団の中には幼いゼロの姿もあった。他の子供同様ゼロも何故自分がここに居るのかわからず、明りの乏しいその倉庫内は不安と恐怖に満ちていた。すすり泣く声がところどころから聞こえだしたころ、突然倉庫の扉から日光と不気味な笑顔の男が姿を現した。


「こんにちは? 君たち孤児を拉致したのは僕だよ? 君たちには仕事をあげるよ?」


 嘘で塗り固められたまるで仮面のような笑顔を一切崩さず、男はその屈強な腕で子供たちの足元に様々な武器を放り投げる。


「武器はこの中から選んでね?」


 理解不能な出来事に倉庫内がざわつき始める。中には大声で泣き出してしまう子供も居たが、男は笑みを浮かべ続け気にせず話を続ける。


「残った子は組織が責任を持って育てるよ? 僕が倉庫から出たら始めてね?」


 笑顔の男は一切説明していない説明を終えると、子供たちに背を向けて外へと歩き出す。すると錯乱した子供が男が捨てた武器を手にその大きな背中に飛び掛かった。だが男は、まるで背中に目があるかのように簡単に子供たちを躱すと、そのうちの一人を掴みあげる。


「みんな仕事は初めて? 特別に手本を見せるよ?」


 丸太のような腕から逃れようともがく子供とは目も合わさず、男は足元に転がる斧を拾い上げる。


「斧はこう使うよ?」


 そう言うと男は掴んでいた子供を宙へと投げ捨て、それめがけて力任せに斧を振り下ろした。先程までもがいていた子供は一瞬で沈黙し、薄暗い倉庫内には血しぶきの音だけが響く。あまりの恐怖に、もうだれ1人として泣き叫ぶものはいない。


「ほかの武器も教える?」


 男の質問に答える事無く、子供たちはただただ震える。


「1時間後にまた来るよ? ちなみに椅子は1つだよ?」


 動かなくなった子供を乱雑に掴み、男は倉庫を出ていった。それからしばらくほとんどの子供はその場から動けずに居たが、中には武器を手にして倉庫の外へと飛び出していく者も居た。が、直後に聞こえてくる苦痛な叫び声が彼らの結末を知らせてくれる。やがて運命を悟ったように1人、また1人と子供たちは武器の方へと歩いていく。ゼロも彼ら同様に一丁の拳銃を手にしていた。そうしないと気がどうにかなってしまいそうだったからだ。誰も殺したくは無いが、こうしていると少しは気が紛れた。

 ものの数分もしない内に倉庫内は悲鳴と怒号で地獄と化す。死にきれない人間のうめき声、完全に気がふれてしまった人間の不可解な笑い声、今までの人生とは無縁なそれらの声を前に、ゼロは何もできずただ死体の陰に隠れていた。いつかは見つかって自分も殺される、そんな恐怖に震えていたゼロだが、50人は居た子供たちはあっという間に数を減らし代わりに隠れるところがどんどん増えていく。聞きたくない叫び声もうめき声も命乞いも見る見るうちに減っていく。

 このままここに隠れていれば助かるかもしれない、そう思ったゼロの希望は直ぐに砕かれる。わずかな死体の揺れを察知した子供と目が合ってしまったのだ。もう何人殺したかもわからないほど身に着けた服も手にしたナイフも幾人もの血に染められている。その子供はゼロの姿を確認するなり有無を言わさず襲い掛かってきた。子供の表情は完全に崩壊しており、まともな神経を保っているとは到底思えない。

 ゼロは理解した。このままでは間違いなく殺されること、そしてどうすれば殺されずに済むのかということを。手にした銃を襲ってくる子供に向けると、そこでゼロは思考を放棄した。

 二人目は簡単だった。乱射した一発が頭に当たり、すぐに動かなくなった。三人目はゼロと同じく銃を持っていたが、ゼロの姿を見るとその子供は自身のこめかみを撃ち抜いた。そこから先はよく覚えていない。気が付いた時には倉庫に立っていたのは自分だけだった。


「おめでとう? 今日から君は仲間だよ?」


 宣言通り1時間後に戻って来たあの笑顔の男の顔を見るや否や、ゼロは手にした銃を乱射する。すぐに弾が切れるが、間髪入れずに落ちていたナイフで男に迎撃を仕掛ける。だが当然数人子供を殺しただけの素人であるゼロの弾もナイフも男に届くことは無く、逆に首根っこを掴まれ地面に叩きつけられてしまう。内臓がすべて口から飛び出してしまうほどの衝撃に悶えるゼロの耳に、男のねっとりとした言葉が無理やり入り込む。


「安心してね? 君は殺さないよ? でもこれから死ぬよりつらいことが毎日起きるよ? 頑張って生きてね?」

「く・・・・・・そ」


 途切れ行く意識の中、ゼロは男の笑顔がいつまでも脳裏から離れなかった。


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