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スティールスマイル(改訂版)  作者: ガブ
第一部 「ゼロとレイア」
11/28

第11話 「メル家」

 大金を手に入れたゼロとレイアがまず向かったのは、村の診療所だった。ゼロは見ず知らずの人間に傷を診せることを嫌がるが、そうしないとレイアがいつまでたっても膨れた表情をやめないので仕方なく医者に身を任せる。

 大会に勝利するためとはいえレイアはゼロの行動を激しく非難した。ゼロからすればこの程度の怪我など大したことではなく、そもそも自分の体をどうしようが自分の勝手だと思っていたので、感謝はされど非難されるとは考えていなかった。


「まったく、何を考えているのですか! 血がいっぱい出ていたじゃないですか!」

「大丈夫だ。医者もそう言っていただろう」


 包帯の巻かれたゼロの腕には血が滲んでいる。それが目に入るたびにレイアの表情は曇っていく。村の通りを歩きながらどうすればいいのかと困惑するゼロだったが、レイアの目線がある場所に向かっていることに気が付く。


 2人は村の洋服屋に入っていく。屋敷から着てきたきらびやかな服もすっかり擦り切れていたため、新しい服に袖を通すレイアの顔はとても嬉しそうだ。だが、ゼロに対してはそのまぶしい顔を向けようとしない。


「いい加減機嫌を直したらどうだ。勝てたのだから問題ないだろう」

「知りません!」


 そっぽを向け続けるレイアに対してゼロが声をかけるも、なかなかレイアは目を合わせない。目線はどうしても腕の包帯へと移ってしまう。 


(これからもきっとゼロさんはわたくしの知らないところで傷付くのでしょう。それはわたくしのため・・・・・・いえ、わたくしのせい)


 包帯の巻かれたゼロの腕を見つめるレイア。そこまで深い傷では無いが、滲んだ赤い血がとても痛々しい。


「レイア、その服」


 何とかレイアの機嫌を取り戻そうと、ゼロはレイアの新しい服に目を通す。女性は変化を褒められると喜ぶと昔書物で読んだからだ。レイアもさすがにゼロの評価が気になるようで、目線をゼロの腕から顔へと移している。


「悪くない」

「ゼロさん!」


 ゼロに怖い顔で詰め寄るレイア。褒めたつもりが、予想外の反応に困惑するゼロ。


「悪くない、では無く、良いって言ってください」


 乙女心は難しいと痛感するゼロだった。


 手に入れた賞金を使い、村で必要なものを揃えた2人。服に食料、生活必需品、地図、ガンオイルや新しい弾を購入する。だがゼロの武器は相変わらず古びた銃のままだ。新調するだけの資金もあるというのにそうしないゼロにレイアが質問すると、ゼロはいつもよりさらに冷たい目で銃を見つめながら答える。


「これは俺が初めて人を殺した銃だ。仕事とはいえ、俺のしてきたことは許されることではない。だからせめて俺はその事実を忘れない。戒めとして心に刻み続けるため、俺はこれを手離さない、そう決めている」

「ありがとうございます。教えていただいて」


 お礼を言うレイア。ゼロに本心を語ってもらったことで、レイアの機嫌も良くなる。ゼロも何故ここまで自分の事を話したのか分からなかったが、レイアが元気になったと分かるとどうでもよくなった。

 

 準備が整うと、ゼロはすぐに出発しようとする。レイアとしてはもう少しこの村でのんびりしたいところだったが、2人はあまりにもこの村で有名になりすぎていた。このまま滞在していれば組織が攻め込んでくるだろう。そうなれば村の人々にも危険が及ぶ、ゼロがそう説明するとレイアもそれ以上は駄々をこねなかった。

 最後にジャックの動向を探ろうとしたゼロだったが、大会の後姿を消したその男の痕跡は全くない。村人にも聞き込みをしてはみたものの、ジャックの向かった先を見たものは誰もいない。これ以上探っても意味は無いと判断し2人は本来の目的地であるメル家の住む土地、ルーカスの都に向かって歩き出した。



「ここがエレナの居るルーカスの都です」


 メル家の屋敷があるルーカスの都。そこはレイアの居た町にも負けず劣らず大きな町で、人々の往来も激しい。レイアはようやく目的地にたどり着いたことではしゃいでいるが、ゼロはそうはいかない。人が多いという事はそれだけ隠れる場所も多いという事だ。いつどこから組織の刺客が飛び出てくるかわかったものではない。


「エレナはとってもいいこなんですよ」


 そんなゼロの心配も気にせずに、ニコニコとしながらメル家の屋敷を目指すレイア。気が気じゃないゼロだったが、何とか何事も無いまま屋敷へとたどり着いた。


「ここです」


 レイアが元気よく屋敷を指さす。それはスチュワートの屋敷の倍はありそうなとても大きな屋敷だった。

 二人が門の前に立つと、メル家の執事が慌てて駆け寄って来る。執事はレイアの姿を確認すると涙交じりにその腕を握りしめた。


「よくぞご無事で! スチュワートの屋敷が襲われたとの噂を聞き、心配しておりましたのです。良かった、本当に良かった」


 安堵した様子の執事に今までのいきさつを説明するレイア。執事は真実を聞かされ大層嘆き悲しんだが、レイアを力強く抱きしめると屋敷の中へと招き入れる。


「大変な思いをされましたね。ですがここまで来ればもう安心です。ところでそちらのお方は?」


 レイアのとなりに居るゼロを怪訝な眼差しで警戒する執事。ゼロもゼロで突然現れた執事に対して警戒以上の感情で睨みを利かせている。今にも争いが起きそうな雰囲気だ。ここまで来てエレナと会う前に追い出されたら適わないと、二人の間に割って入りレイアがゼロの本当の素性を隠しながら説明する。


「こちらはわたくしのボディーガードです。怖い顔をされていますが、とっても優しい方なのですよ」


 レイアの紹介に預かり、仕方なく頭を下げるゼロ。その様子を見て安心したのか、執事も警戒を解いて2人を応接間へと案内する。


「申し訳ありませんが、武器の類はこちらで預からせていただきます」

「……」


 執事の言葉にゼロの機嫌は悪くなるが、レイアに促されて仕方なく愛用の銃を手放す。敵が居るかもしれない場所で銃を失うのは本意ではないが、幸い靴や服に仕込んでいるナイフにまでは気が付かれていないようだ。

 屋敷の中は外装以上に豪華で、黄金に輝く壺や巨大な絵画がそこらかしこに配置されている。あれらを1つでも売れば何年も遊んで暮らせそうだ。


「ではエレナ様を呼んでまいります。こちらでお待ちくださいませ」


 応接間も金色に溢れており、目がくらんでしまいそうだ。ある程度この状況に慣れているレイアはともかく、ゼロは落ち着かない。慣れない場所での戦闘は唯でさえ避けたいが、銃も無いとなれば油断などできるはずもない。そんなことを考えていると、屋敷にふさわしい高価そうな服を着た、けれども浮かない顔の少女が姿を現した。


「お久しぶりねレイア」

「エレナ!」


 装飾の施された椅子から飛び上がり、現れた少女に飛びつくレイア。その表情は今までゼロに見せたどの顔よりも輝いており、エレナという少女がレイアにとってどれだけ大切な存在であるかという事がゼロにもよく伝わる。


「ごめんなさいね、みっともない姿で」


 沈みそうな声でつぶやくエレナ。確かにエレナは服装は豪華だが目の下にはくまがあり、髪の毛もボサボサだ。変わり果てたエレナの姿にレイアも驚きが隠せない。


「すみません、突然訪れてしまって……エレナ、体の具合でも悪いのですか?」

「え、ええ。実はそうなの。でも気にしないで、少し寝ていれば良くなるから。だからレイアもゼロさんもゆっくりおくつろぎになってね」


 2人に微笑みかけると、エレナはふらふらとしながら応接間から出ていく。心配そうに見送るレイアだったが、ゼロはこぶしを握りしめたままエレナを睨みつけている。


「ゼロさん、エレナがどうかしたのですか?」


 何故かエレナに対して殺意を向けているゼロに、不安な声で尋ねるレイア。ゼロは何も答えないが、エレナへの殺意を抑えることもしなかった。

 レイアはエレナの言葉通り、食事を頂き風呂に入る。久しぶりの温かいお湯に浸かることができ、大満足のレイア。ホカホカ気分のまま毛布にくるまると、ゼロがレイアの部屋を訪ねてくる。


「入っていいか」

「ひゃ、ひゃい!」


 緊張のあまり噛んでしまうが、現れたゼロの真剣なまなざしに噛んだことによる恥ずかしさは簡単に上書きされてしまう。


「レイア、質問がある」

「は、はい」


 少し顔を赤らめながらゼロの言葉を待つレイア。だがその質問の内容を聞くと、レイアの感情は180度変化する。


「応接間で会ったあのエレナという女、本当に信用できるのか?」

「な!」


 いくらゼロとはいえ、友達のエレナを侮辱されることは許せない。


「当然です。エレナとは5歳のころからの友達です!」

「ならなぜあの女は俺の名前を知っていた? 組織の関係者じゃないと言い切れるのか?」


 ゼロの鋭いまなざしに言葉を失うレイア。確かにエレナは去り際にゼロの名を口にしていた。誰にも告げていないゼロの名を。


「俺たちは罠にかかったのかもしれない」


 底知れない不安がレイアに襲い掛かる。


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