第6話 沙汰と罪囚の首輪
更新に時間を要してしまい、申し訳ありません。
他の作品に注力しており、遅々として歩みが進みませんが、お待ち頂ける幸いです。
「スチュアート伯爵家は取り潰し、領地は王家直轄とする。エレナ嬢から『聖女』の位を剥奪、ドラン侯爵令息との婚約は白紙にし、修道院へ送るものとする。」
私は陛下から沙汰を聞いて愕然とした。
伯爵家の取り潰しは当然だ。賊の侵入を許し、国の秘宝を奪われたのだから、その責は免れない。
私の聖女剥奪も仕方が無い。これだけの失態を犯した家の娘を、栄えある聖女に据え置くわけにはいかない。
家が無くなり、貴族で無くなった私とレックスの婚約が解消されるのも悲しいが道理だ。
しかし、修道院は困る。それでは、誰が私の家族の無念を晴らしてくれると言うのだ。これだけは飲むわけにはいかない。
それにもしかしたら――
そこに声を上げる人物が現れた。
これまで私の世話を焼いてくれたドラン侯爵だ。
「恐れながら陛下、発言をお許し頂きたく思います」
「ドラン侯爵か。申してみよ」
「はっ、ありがたく存じます。魔剣の捜索、私めにお任せ頂けないでしょうか? 我がドラン家とスチュアート伯爵家は懇意にしており、我が息子レックスとエレナ嬢は婚約関係にありました。私としても、その無念を晴らしたいのです」
「ふむ」
役目も果たせないような家との関係を臆せず良い関係だったと言い、レックスの婚約者、今はもう元婚約者になった私も気にかけてくれる。
侯爵の好意に甘えたくなるが、ここで流されてはいけない――と、気を強く持って私は陛下を見上げた。
「恐れながら陛下、申し上げたきことがございます」
「貴様! 身の程を弁えよ」
「よい、大臣。エレナ嬢、申してみよ」
「はい。どうか私に挽回の機会を与えて頂きたく思います」
「と、言うと?」
「これはスチュアート家の失態、魔剣の捜索と伯爵家を襲撃した人物を捕らえるため、行動することをお許しください」
「なっ! そんなこと認められるわけ――」
「控えよ、ドラン侯爵」
「……出過ぎたことを申しました。お許しください」
陛下の前ではドラン侯爵も引き下がるしかない。
ドラン侯爵は恭しく頭を下げて謝罪を口にしながらも、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
私はその顔の本当の意味を知らなかった。この時は、私の事を心配してくれているのだと、短絡的に考えていたから。
陛下は侯爵から私へと視線を移す。
目元は厳しいままだが、僅かに口元を緩めたように感じた。
「して、如何とする? わかっているとは思うが、いくら元聖女とはいえ、其の方を野放しにはできない」
私は陛下の言葉の意味を重く受け止めた。
言外に王家からの信頼を裏切った伯爵家は、等しく罪人だと言っているのだろう。仕方の無い事だと思う。でも、だからこそ諦めたくない。汚名を雪ぐのは、伯爵家の令嬢で娘の私であるべきなのだから。
だから、この提案に後悔は無い。決して――
「陛下。罪囚の首輪を私にお与えください」
「!」
「エレナ!」
声を上げたのは、それまで一言も発しなかった王妃陛下だった。
国王陛下も無言だが、目を見開いて私を見ている。周りは聞き取れ無いが、何か小声で話しているのがわかる。
王妃陛下は悲しげに顔を歪め、沈痛な面持ちを私に向けた。
「エレナ、あなたがそこまで背負う必要は無いのよ?」
「恐れながら王妃陛下。これはスチュアート家が、私が背負うべき咎であり、その失態は私が取り返すべきものなのです」
「だからと言って――」
「もうよい」
王妃陛下と私の問答が聞くに堪えなかったのか、国王陛下は言葉を割り込ませて遮った。その表情は変わり無いように見えて、何を思っているのか瞳が揺れている。
「罪囚の首輪を持て」
陛下の命により、件の代物を携えた者が現れた。
ご覧いただき、ありがとうございます。