第4話 更なる追い討ち
私が目を覚ましてから、更に三日が過ぎていた。
この間はずっとドラン侯爵家で厄介になっており、使用人たちは他家の人間である私を、まるで侯爵家の一員だとでも言うように、優しく接してくれた。
そして、私は自分と家族の身に起きた事の顛末を聞いていた。
それは、自分の中にある朧げな記憶が思い違いであることへの一縷の望みであったが、木っ端微塵に打ち砕かれる。
あの夜に私の生家であるスチュアート伯爵家の邸宅は焼失し、伯爵一家は私を除いて全員が殺されてしまっていた。
私自身のことも診察をしてくれた医師から直接聞かされた。
家を失い、家族を喪い、処女でも無くなった私に一体何の価値があるのだろう。
何の価値も残っていない。
少なくとも、このままレックスの婚約者でいることなんてできない。
私の身に起きた事を、彼も知っているはずなのだから。
そうは思ってもそれを伝える機会は訪れなかった。
レックスはあれから一度も私の元を訪れないし、私も部屋から出る気力が湧かなかった。
いや、気力が湧かなかったというよりも、怖かったと言った方が正しい。
扉を開けた先に、またあの光景が広がっているかも知れない。
そんな恐怖が私をこの部屋に押し留めていた。
そうして、私は胸の真ん中にぽっかり空いた洞を埋める手立ても無いまま、無為な日々を過ごす。
椅子に背を預けて晴れ渡る空を見上げて、家族との日々を思い出せば、取り留めのない想いが溢れ出してくる。
何故、私たちにこんなことが起こったのか。
何故、私の家族が殺されなければならなかったのか。
何故、私だけ生き残ってしまったのか。
どれだけ考えても答えてくれる人はいない。それでも、勝手に頭の中に浮かんでは消えていく。
その際限の無い思考の濁流に疲れた私は、いつの間にか意識が落ちていた。
太陽がちょうど真上に達する少し前。
私は扉をノックする音で目を覚ますと、部屋の外に向かって返事をする。
レックスによく似た、でも、その声は老成さを感じさせる。
声の主は、レックスの父でこの邸の主であるドラン侯爵だった。
私は急いで椅子から立ち上がると、侯爵に深く頭を下げる。
「頭を上げてくれ、エレナ嬢」
侯爵の声に従い、私はゆっくりと頭を上げる。
私が体を起こしたのを確認すると、侯爵は沈痛な面持ちで言葉を続ける。
「此度は辛かったな。お悔み申し上げる。私も惜しい友を亡くした」
「行く当てを失った私を邸に置いて頂いたばかりでなく、ご丁寧にお言葉まで頂戴し、感謝の念に堪えません」
私は何とか侯爵に感謝の言葉を述べる。
手が震える。
息が詰まる。
視界が霞む。
それでも、何とか気を保つことができた私にかけられたのは、非常な言葉だった。
「あの夜、スチュアート家が王家から管理を任されていた『嵐の魔剣』が、無くなっていた。どうやら盗まれたらしい。……この件の問責のため、伯爵家唯一の直系として参内せよとのことだ」
どうやら、私は神に嫌われているらしい。
そうでなければ、このような仕打ちなど受ける謂れは無いのだから。
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