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鉄壁聖女と剣聖乙女  作者: 夏風
鉄壁聖女エレナの足跡
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第1話 悪夢の始まりは突然に

新規連載です。


出だしから陰惨な描写があります。

ご注意ください。

 私はその光景を前に息を吸うことも忘れ、一歩も動けなくなった。

 目の前を染める一面の赤、鼻腔を刺激する不快な血の臭い、物言わぬ屍に変わり果てた家族たちの姿、その凄惨な光景を前にして頭はまともに思考しない。

 声にもならない声を自分の喉から漏らしながら、うまく動かない足を引きずるようにして前に進むと、後ろから強烈な衝撃を受けて倒れ伏してしまう。


 遠のく意識の中、微かな下腹部の違和感と体を揺さぶられる感覚に抵抗もできず、途切れ途切れに聞こえてくる、言い争うような二人の男の声とともに、ぼやけた視界に、あるものを捉える。

 右の頬に大きな傷痕と左の首筋にサソリの入れ墨のある、自分を見下ろし下卑た笑みを浮かべる男の顔を。


 ―――――――――――――――


 私は『エレナ』、スチュアート伯爵家の令嬢。

 優しい両親と頼り甲斐のある兄、やんちゃ盛りで可愛い弟の五人家族の二番目として、この世に生を受けた。


 貴族の家では政略で結婚した家庭も少なくないため、情はあっても愛は薄いなんてことも珍しくないのだが、スチュアート家は周りが羨むほどに仲睦まじく、大変温かい家庭を築いていた。

 スチュアート家は王家からある重要な宝物を預かっている。

 それは『嵐の魔剣』と呼ばれる強力な力を秘めた呪具。

 守護者として悪用しようとする者たちを退け、時として魔剣を振るい、国家の剣となり盾となってきた。


 私はその役目を脈々と受け継ぎ、責務を果たしてきた今は亡きお祖父様、現伯爵のお父様、時期伯爵であるお兄様を尊敬していて、そして、それ以上に家族を愛している。


 そんな愛し愛される家族との幸せな日々を過ごす中で、私に転機が訪れる。

 外で遊んでいた弟が転んでケガをした時、痛みで泣き止まない彼の膝にできた傷に手をかざすと、淡い光が溢れ出して瞬く間に傷が癒えてしまった


 ――神聖力の開花


 国で十人足らずの『聖女』の称号を頂く者たち。

 そこに並ぶための資格を得たのである。

 とはいえ、これは最低限でしかない。

 それからは毎日のように、聖女としての教育を受ける日々が始まった。


 お父様たちと同じように誰かを守れる力を持てたことが、私は嬉しかった。

 家族と過ごせる時間は減ったが、立派な聖女を目指して修行に明け暮れた結果、一人前として認められ、聖女の一人として派遣されるようにもなったから。


 未だに若輩なので修業は継続しているが、それでも、以前ほどの厳しさは無い。

 それでなくても、指導に当たってくれる先代聖女様や先輩たちは、とても優しく聖女の名に恥じない穏やかで温かい人たちばかりで、これで辛いとか言っていては罰が当たってしまうかもしれない。


 そんなある日の事――

 聖女の仕事を終え、辻馬車に乗り帰路につく中、ふと邸宅に目を向けると、一台の馬車が走り去っていくのが見えた。

 この時は商会でも訪ねてきたのかな、なんて程度にしか考えていなかった。

 特定の商会を表す紋章もなければ、どこかの家を表す家紋も入っていなかったのに。


 家の近くで停めてもらい、御者に御礼を述べてから馬車を降りる。

 私が軽く頭を下げると、御者もおしゃれな帽子を片手で少し持ち上げ、柔らかい表情で会釈を返してくれた。

 それに少し気分が良くなった私は、去っていく辻馬車を見届けると、門扉を開けて邸宅へと向かうのだが、ここで違和感を覚える。


 いつもなら出迎えてくれる使用人たちが一人もいない。

 しかも、陽が暮れかかり、辺りが夜の帳に包まれようとしているにも関わらず、邸宅の中は灯一つ点いてなくて暗いまま。


 本当にどうして不審を抱いたのに、そのまま家の中へと入ってしまったのだろう。

 もっと警戒するべきだったのに……


 先の他愛の無い事で気を良くしていた私は、そんな脳裏を過った違和感を無視して家の中へと入ってしまった。


 ―――――――――――――――


 体を揺さぶられていることはわかる。でも、何をされているのかはっきりしない。


「良い体だな。まっ……たま……ぜ」

「き……いる! ……ことま…………のか、なる……」

「これは……こうし……もう……終わり……で」


 私に何かをしている男に、突如、乱入してきた男が怒号を浴びせるが、どこ吹く風と言った様子で飄々と返している。

 そして、下腹部の違和感がより一層増した後、私の意識はそこで途絶えた。

ご覧いただきありがとうございました。


1話は1500~2500字程度に収め、隙間時間に読めるような作りにしたいと思っています。

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