星売る街
ここは星売る街。
街で一番古い職人のメトシェラは、今日も朝から星作りにはげんでいます。
「さぁ、星ができあがったぞ。みんな見ていってくれ」
昔からしあわせなことがおきると、みんなこの街に星を買いにやってきました。
そして夜空に星を放ち、そのしあわせを祝いました。
夜空を見上げて、みんなはまたしあわせな気持ちになりました。
「ほら、できたてだぞ。早くしないと輝きがなくなってしまうぞ」
しかし、最近では星を買いにやってくる人は、めっぽう少なくなってしまいました。はるか遠くの街でおこった争いごとが、星売る街にもしのびよってきていたのです。街から人が減り、しあわせが消え、みんな夜空に星を放つことなどなくなっていたのです。
「こんなときこそ、星を放って街を明るくしないといけないのに」
メトシェラはこのままではいけないと思い、となり街まで星を荷台につんで、行商に出かけました。しかし、となり街でも結果は同じでした。かつてあんなにキラキラ輝いていた夜空は、となり街にもありませんでした。メトシェラはしあわせとは呼べない輝くものを瞳からこぼして、星売る街にかえりました。
次の日も、その次の日も、メトシェラの作る星はいっこうに売れません。そしてひとり、またひとり、職人たちは星作りをやめていきました。彼らのうしろ姿を、さみしい瞳で見つめながら、メトシェラは今日も誰かのしあわせを祝う星を作りました。
しかし、とうとう星売る街からメトシェラ以外の職人がいなくなったころ、メトシェラも星作りをやめる決意をしました。
「もうわしの役目もおわりじゃ。最後にこの星を放って……」
その続きの言葉を言おうとしたのと同じタイミングで、小さな女の子の声をメトシェラは聞きました。
「私に妹ができたの。ねぇ、星を作って」
星を注文されるなんていつ以来でしょう。メトシェラは女の子の話す言葉の意味を理解するまでに、とても長い時間をかけてしまいました。
「とっても大きな星がいいの。この街のみんなが妹の誕生をお祝いしてくれるような、キラキラの星」
メトシェラは女の子の輝く瞳を見つめて、すぐに手を動かしました。
「ここに作りかけの星がある。それに新しいものをつけたして、とっても大きな星を作ってあげよう」
メトシェラも女の子も、弾けんばかりの笑顔をうかべていました。
「私もいつかおじいさんみたいな星作りの職人になりたい。ねぇ、私に星作りを教えて」
メトシェラも大昔に星作りの職人にあこがれたときのことを思い出しました。
「ありがとう。そう言ってもらえるとうれしいな。しかし、見てのとおり、今じゃ星を買いにやってくる人なんて誰もおらん。お嬢ちゃんが久しぶりのお客さんだよ。わしはもう、星作りは引退しようと思うんじゃ」
女の子の瞳に別の輝くものがうかびそうになったのを見て、メトシェラはできあがった星を、女の子の前に差し出しました。
「ほら、これで妹の誕生をお祝いしてあげよう。こんなに大きな星だ。はるか遠くの街の人だって、この星に気づいてくれるよ」
女の子はまだ、しあわせな表情になることができずにいました。この星を見て、さらに決意がかたまったのです。
「私もおじいさんと同じように、キラキラ輝く星を作って、みんなのしあわせをお祝いしたいの!」
その瞳は、大昔にメトシェラが持っていたものと同じものでした。そして、メトシェラも決意しました。
「よし。わしの残りの人生を、お嬢ちゃんの星作りの夢にささげるぞ」
女の子は両手にかかえた星に負けないくらいの笑顔をうかべました。そして、かつてにぎやかだった夜空に、最上級のキラキラの星を放ちました。星売る街の人々も、はるか遠くの街の人々も、みんなキラキラ輝く夜空をながめ、しあわせな気持ちにひたりました。
それから長い月日、メトシェラと女の子の星作りはつづきました。ふたりの笑顔に比例するように、街の人々にもしあわせがもどってきました。夜空に輝く星たちがもどってきました。
そしてようやく、女の子は自分ひとりで星を作りあげることができました。笑顔と笑顔の間に、何滴もの涙をこぼして作りあげた星です。
「おじいさん、今までありがとう」
となりにいないメトシェラのぬくもりをこめて、はじめてひとりで作った星を、夜空に放ちました。キラキラ輝く星は、メトシェラの笑顔にとてもよく似たものでした。
「星を買いにきました。とても大きなものをください」
星売る街には今日も、しあわせのお祝いを求めやってくる人々が、あとをたちませんでした。