表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

傾いたホーム

作者: 雪 里 枝

 私は幽霊が見える。そして取り憑かれやすい。


 大学入学のため古いアパートに引っ越した時には、取り殺されかけた‥‥


 それから四年の時が流れ、就職も決まり、また引っ越しを余儀なくされた。




 もう恐い思いはしたくない。

 できるだけ曰くの少ない土地を探し、車で土地の下見をし、新築のマンションを契約した。




 ‥‥だけど‥‥ 駅の下見を忘れていた‥‥


 その最寄りの駅は、線路に向かってわずかに傾いていた。

 こんな危ないホーム、幽霊がいない訳‥‥‥



 ‥‥‥やっぱりいた‥‥ それは半透明の小さな女の子だった‥‥‥




 その幽霊は、ホームの白線を少しでも超えた人を見つけては‥‥駆け寄って、覗き込むようにしながらその周囲をうろうろとしていた。たまに幽霊のなのに、胸を押さえて息切れしている。



 白線の内側まで下がるとスッと離れ‥‥また別の標的を見つけ、ホームを右に左に駆け回っている‥‥‥




 このままじゃ危ない‥‥‥

 きっと私は‥‥‥ いや、私じゃなくても他の誰かが‥近いうちに電車の前に躍り出る‥‥‥



 その時私は決心した。この幽霊を祓う事を。




 私はとある神社を訪れ、一瓶の御神酒を賜った。


 こちらの御神酒には、以前取り殺されそうになっていた時に助けていただいた。

 肩に居座る悪霊に一振りすると、それはたちどころに滅された。




 その心強さを鞄に秘め、私は再びあのホームに立った。



 見回せば‥‥やはりいた。 あの半透明の女の子が。


 相変わらず白線を超えた人を見つけては、その回りを纏わり付いている。



 ‥‥心を固め、その幽霊に歩みを向けようとしたその時‥‥ 何かが‥‥視界の端を掠めた‥‥


 ‥‥そこは、ホームの先端だった‥‥‥そんな所に、電車のドアが来る筈がない。 絶対にない‥‥


 なのにそこに歩みを進める、一人の男性の姿があった‥‥


 向こうからは、ホームに迫る電車の姿‥‥‥ 間違いない‥‥あの人‥‥自殺するつもりだ‥‥

 そして幽霊は、彼に向かって走り行く。



 ‥‥もう‥‥ダメだ‥‥ 数秒後には、凄惨な光景が広がる‥‥‥


 私は、顔を逸らして目を閉じた‥‥


 ‥‥‥そして私の耳に届いたものは‥‥‥




 ‥‥プシュ~~



 何も無かったかの様に扉を開く、電車の圧縮空気の音だった‥‥‥



 ‥‥‥そう‥‥何も無かった‥‥‥



 ‥‥恐る恐る視線をホームの先端に向けると‥‥‥ あの男性は幽霊に手を掴まれ、ホームの内側に引き戻されて(・・・・・・)いた‥‥‥

 そして幽霊は、また苦しそうに胸を押さえていた‥‥‥





 私は、この町の図書館を訪ねた。あの駅の過去を知る為に‥‥‥


 そして、一つの痛ましい事故を知った。




 ‥‥その日、車椅子の女性がそのホームを利用していた。


 その人は、交通事故で両足を骨折したばかりで、車椅子の扱いに慣れていなかった。


 だから‥‥そのホームの傾きに車輪を取られた‥‥



 それに気づいた男性がいた。


 車椅子に駆け寄り、そのブレーキを握った。


 けれど‥‥‥その利きはとても弱かった。


 必死に止める彼の思いと裏腹に、車椅子と二人は‥電車の前に躍り出た‥‥‥




 その男性には娘がいた。


 ‥‥その子は心臓が弱かった‥‥‥


 父の事故が、余程の心労だったのか‥‥‥父の死を待たずして



 ‥‥その子が先に、天に召された‥‥





 それ以来、三十五年‥‥ この駅での人身事故は、只の一度も(・・・・・)起こっていない‥‥‥





 ‥‥私は、始発前のホームに立った。


 このコンクリートの上には、誰一人いない。幽霊の女の子を除いて‥‥‥


 私は‥‥白線から一歩、歩み出た。



 幽霊のあの子は案の定‥私に駆け寄り、心配そうに覗き込んでうろうろしていた。




 そっと‥‥‥私はこの子の頭を撫でた‥‥‥


 そして‥‥呟いた‥‥‥


 ありがとう ‥‥と‥‥




 音を立てずに‥‥‥ その子はさめざめ泣き出した‥‥‥




 私はこの子が泣き止むまで‥‥ただ静かに撫で続けた‥‥‥








 そして私の胸にはすっと‥‥恐ろしさが過った‥‥‥


 この子を滅そうとしていたことに‥‥‥

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 物語を読むってことの面白さを再確認できました! 最近ランキングを見ても転生物ばかりで嫌になっていたところでした。 (転生物が嫌いなわけではないんですが、、、)
[良い点] 語り手と女の子にホロってなりました。 一番怖いのは、35年前に2人も亡くなる人身事故が起こりながら ホームの傾斜を直さない鉄道会社の怠慢ですね。 思わずホロっとなる作品を読ませて頂き…
[良い点] 死後も心臓病に苦しめられながらも、自分の父親みたいな被害者を出すまいと現世に留まり続ける少女の霊が、実にいじらしいです。 安易な成仏という道を選ばずに人助けを続けるのですから、彼女の事を「…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ