【55:僕たちの恋愛アドバイザーになってくださいよ<最終話>】
突然ですが最終話です。
「そうです白井君。僕たちの恋愛アドバイザーになってくださいよ」
鈴木がそんなことを言った。それを聞いて、瑠衣華が一匠の顔を見上げてぽつりと呟いた。
「恋愛……アドバイザー……?」
一匠は、背筋がひやりとするのを感じた。
「そそそ、そんなの無理だって。俺が人様の恋愛にアドバイスするなんて、到底無理っ! ひたすら無理っ! ことごとく無理っ!」
いやいやいや、そこまで必死になって否定しなくても……
というくらい一匠は全力で否定する。
「そんなことを言わずにお願いしますよ、白井君」
「そうだよぉ、頼むよ白井ぃ」
彼らにアドバイスすることそのものは、一匠も嫌ではない。しかしとにかく瑠衣華の前で『恋愛相談』とか『恋愛アドバイザー』なんていうキーワードが飛び交うことだけは避けたかった。
「俺は人にアドバイスするなんて、大の苦手だからっ! それに、れ、恋愛なんてものは、自らの力で切り開いていくものだよ」
なんかすごく偉そうなことを言ってるなっていう自覚は一匠にもあるが、話の流れ上仕方ない。
「なあ瑠衣華もそう思うだろ?」
「えっ……?」
瑠衣華は固まってしまった。
あ、しまったと一匠は気づく。
ついついテンパってしまって瑠衣華に同意を求めてしまった。
だけど瑠衣華は相談サイトを使ってたんだから、そう思うだろと言われても、本音で『そうだね』とは言えないはずだ。
「あ、あの……田中、鈴木。とにかくそんな話は、また男同士でしようよ。女子の前でする話じゃない」
「あっ、そ、そうだなぁ、白井ぃ。悪かった」
「そうですね、すみません白井君。こういう気の利かないところが、僕たちがモテない原因ですね……」
「いや、鈴木。そんなに落ち込むな。またゆっくり話をしような」
いきなり青い顔で下を向いた鈴木が気の毒で、一匠は彼の肩を優しく叩いた。
「じゃ、そういうことで。俺たちは電車に乗るわ」
「あ、うん。白井君、さようなら」
「おお、白井、またなぁ」
「鈴木君、田中君、じゃあね」
「「あ、赤坂さん、さよなら」」
鈴木と田中に手を振って、一匠と瑠衣華は駅構内に入った。
(いやあ、それにしてもヤバかった。瑠衣華は『恋愛アドバイザー』って言葉に反応してたもんなぁ。俺が奴らの恋愛アドバイザーになるなんて話題は心臓に悪すぎる)
まだドキドキが収まらない一匠に、電車の中で瑠衣華は何げなく言ってきた。
「いっしょー君。あのさ」
「なに?」
「『恋愛アドバイザーなんて俺には絶対無理だ』って言ったでしょ?」
「あ……ああ。言ったけど……」
せっかくピンチはしのいだかと思ったのに。
一匠の心臓が、また跳ね上がる。
「いっしょー君なら、なんとなくそんなこともできそうな気がする」
「なんで? 俺なんか頼りないし、恋愛の経験も少ないのに」
「うーん……うまく言えないんだけど……中学の時と違って、最近のいっしょー君って、なんだか頼りがいがある感じなんだよね」
「えっ? そ、そっか?」
「うん。風邪ひいた時に来てくれたのもそうだけど、普通に話をしてて、そんな気がする」
瑠衣華にそんなふうに言われて、一匠は照れながらも嬉しい。
結局自分なんて、ネットを通じてアドバイスをしただけで、実際には何も大したことなんてしていない。
だけど自分の損得を横に置いて、相手のことを真剣に考えてアドバイスを考えたことは確かだ。
それに人の気持ちって、表面上ではわからないことだらけだって学ぶことができた。
それだけでも、少しは自分も成長できたのかもしれない。
──一匠はそう感じた。
「ありがとう瑠衣華。でも俺が人のアドバイスをするなんて、やっぱり100年早いよ。まずは自分がちゃんと行動できるようにならなきゃな」
「うーん……そうだね」
今のところ瑠衣華の頭の中では、アドバイザーの´えんじぇる´と一匠は、つながってはないようだ。
まさか、というようなことなので、瑠衣華がえんじぇると一匠が同一人物だと確信することはほぼないだろう。だけど瑠衣華は、´えんじぇる´と一匠の共通点みたいなものは感じている様子だ。
そんなことよりも──
瑠衣華はえんじぇるのことを信頼している。
一匠は『リアルの自分』が、これからもえんじぇる以上に、ちゃんと信頼される人間にならないといけないな、と心に誓った。
だってこれからは、チャットで瑠衣華の本音の気持ちを知ったうえで行動する、なんてことはできないのだから。
そんなものがなくても、ちゃんと瑠衣華の気持ちを感じ取り、瑠衣華から信頼される人間になろう。
(ん~、でもそれって、実際はなかなか難しいことだよな……)
だけど恋愛相談サイトでたまたま瑠衣華とつながるなんて、何百万分の一の奇跡を神様が起こしてくれた。いや、もしかしたら神様の悪戯だったのかもしれない。
そのおかげで、こうやって一匠と瑠衣華はお互いの心を知り、再び付き合うことができたのだ。
まだまだ二人の恋は始まったばかりだけど、その奇跡に感謝して、これからは自分の力でやっていくしかないではないか。
(うん、そうだな。がんばろう)
そう思いながら、一匠は目の前の瑠衣華の顔を見つめた。すると瑠衣華も優しい笑顔で見つめ返してくれた。
= 完 =
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