【51:よく似たことを言ってる人が居たんだ】
瑠衣華がこんなことを言った。
「私ってなかなか素直になれなくってさぁ。ほんの少しずつしか無理だったけどね」
それに対して、一匠は無意識のうちにこんな返事を返した。
「少しずつでもいいよ。素直な気持ちが伝えられれば。それは素晴らしいことだと思う」
「ん?」
瑠衣華はふと顔を上げて、一匠を見つめる。
少し不思議そうな表情を浮かべている。
(ヤバい! ついついアドバイザー口調で答えてしまった……)
一匠は冷や汗が背中を流れるのを感じた。
「ん? どうしたのかな、瑠衣華?」
「んー……なんでもない。よく似たことを言ってる人が居たんだ」
瑠衣華はそう言って、また一匠の胸に頬を埋めた。
(ヤバいヤバイ。言葉には気をつけなきゃな)
もちろん瑠衣華は、一匠と‘えんじぇる‘が同一人物だなんて思ってもいないだろう。
だけどこんなことが度重なると、さすがに瑠衣華も怪訝に思うに違いない。
「いや、まあ……誰でも言うようなことだもんなぁ」
「そうかな?」
「そうだろ」
「そうかもね……」
そう言ってしばらくしてから、瑠衣華はすっと一匠から離れた。
今まで瑠衣華がくっついていたところが、スースーと涼しい。ちょっと残念な気がした。
しかしここは書店の店内だ。いつまでもくっついているわけにはいかない。
「じゃ、じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「うん。そうだね」
改めて瑠衣華の顔を見たらもの凄く恥ずかしい。瑠衣華も同じようで、顔を真っ赤にしている。
二人ともぎくしゃくした感じで書店を後にした。
そこから電車に乗って、二人の最寄り駅まで帰る。そして駅から家まで一緒に歩いた。
その間、中学の時の思い出話に花が咲いた。
1ヶ月という短い付き合いだったが、改めて話すと色んなことがあったと感じる。
当時はなかなか言えなかったことが、今ならばお互いに素直に話すことができた。
「あのさ、いっしょー君。明日の昼休み、一緒にお昼ご飯を食べない?」
「あ、いいね。食べよう」
「でも私たちが付き合い出したこと、まだクラスのみんなに知られるのは恥ずかしいなぁ」
「じゃあこっそり教室を出て、中庭で食べるか」
「うん、そうだね」
「下校の時はどうする? 校門で待ち合わせする?」
「うん、そうしよ」
恥ずかしそうに、しかし嬉しそうにうなずく瑠衣華。
(うーん、やっぱり可愛いな)
恋心って不思議だ。
本人は変わってないはずなのに、昨日までの瑠衣華よりも可愛く見える。
いや、もしかしたら。
想いが叶ったことで、瑠衣華自身の可愛さも、より引き出されているのかもしれない。
そんなことを思いながら、一匠は自宅近くで瑠衣華と分かれた。
◆◇◆◇◆
夕食を済ませ、自分の部屋に戻った一匠は、恋愛相談サイトを立ち上げた。
そこにはつい1分ほど前に、RAさんから書き込みがされていた。
『えんじぇるさん、聞いてください! 実は今日、すごくいいことがあったのです。なんだと思いますか?』
(そりゃ、俺が告白したこと……だよなぁ?)
と、一匠にはすぐにわかったけど。
そのものズバリの答えをするわけにはいかない。
『なんだろ? 彼とゆっくりコミュニケーションが取れたのかな?』
一匠がそう書き込むと、すぐに返事が返ってきた。
『えーっとですね。実は……彼から、また付き合って欲しいって告白されたのです。えへん(о´∀`о)』
(えへん、か……あはは)
『えーっっっ!? それはすごい! 良かったじゃないかーっ!!!! おめでとう!!』
一匠はあえて大げさに返事を書く。
『はい! これも全部、えんじぇるさんのおかげです! 本当にありがとうございました!』
『いやいや、RAさんが頑張ったからだよ』
『いえいえ、えんじぇるさんのおかげです。優しくて、私が前向きになれるように一生懸命応援してくれるえんじぇるさんのおかげ』
『そう言われると照れる(;^ω^) そんな大したことないよ』
『それにえんじぇるさんは、私のことをよく見てくれてるような気がするのです。文字でしかやり取りしてないのにそんな気がするのは不思議ですね』
(まあ俺の方は、チャットだけじゃなくて実際に瑠衣華のことを見てるんだけどね……)
ちょっと瑠衣華を騙しているような感じで気が引けるが、一匠は当然とぼけるしかない。
『そうかな。自分ではわからないけどね』
『あ、そう言えばえんじぇるさん。この前はすみませんでしたm(__)m』
『この前って?』
『風邪ひいて寝込んでしまって、えんじぇるさんにSOSのメッセージを送ったことです。驚かれたでしょ?』
『そうだよ。無事に風邪は治ったの?』
『はい! でもあの後、実は彼がお見舞いに来てくれたんですよ! えんじぇるさんにメッセージを送って彼が来てくれるなんて…… まるでえんじぇるさんが彼にそのメッセージを渡してくれたみたいですね(笑)』
──どっきーんっ!!!!
一匠の心臓は爆発するかと思うほど跳ね上がった。




